馬超とが揉めている。
 ここ最近の蜀の風物詩とも言える光景に、馬岱は目を細めた。
 西涼での敗戦の直後、馬岱以外の馬超と血筋縁故の繋がる者はすべて完膚なきまでに絶やされてしまった。
 叛徒の血族と見なされ、見せしめの為だけに殺されたのだ。
 あの頃の絶望に染まった馬超の暗い目を、馬岱は今でも忘れて居ない。
 周りの兵士達が困ったように二人を囲んでいる。
 馬岱は笑いながらその場へと向かった。

「いったい今度は何ですか」
 ひょっこりと顔を出した馬岱に、二人はまるで自分の正しさを証してもらおうとする子供のように駆け寄った。
「だって孟起がね」
「今度とは何だ今度とは」
 反応は微妙に違うが、二人の間にはまだ馬岱を必要とする空気がある。
 早くくっついてしまえばいいのに、と馬岱は密かに思った。
「で、何ですか」
「だって、孟起が変なことを言うの」
「何が変なことだ何が」
 くっついてくれないと、とにかく仕事が進まない。
 この従兄がを構いたいがばかりにちょっかいを出しにいくのはいいとして、それが仕事を放り出してのことだからとても困る。
「変なこと、ですか」
「う、ん、でも、あの、いいや、後で」
 急に歯切れが悪くなったに、おやと訝しげな目を向ける。
 隣に立つ孟起が、平然と胸を張って馬岱に申告してくれた。
「こいつはな、俺のことが好きだと言うんだ」
「いっ……言ってないもんっ!!」
 今度は言ったの言わないので揉め始める。何とも可愛らしい話だ。
 こんなに好きなら早くくっついてしまえばいい。
 馬岱が半ばやっておられぬなと密かに苦笑を漏らした時だった。短気を起こしてキレた馬超が、思わずと言った態で口走る。
「毎回必ず言ってるだろう、お前は果てる時には必ず……」
 ぎゃああ、との雄叫びが響き、馬超の鼻目掛けて鉄拳を放った(本人曰くは口を塞ごうとしただけらしいが)。

 することはしているのか。
 半ばやっておられぬと思ったのだが、完全にやっておられぬと思い直した。

  終

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