三角関係と言うものは、なかなか厄介なものですね。
馬岱の溜息交じりの言葉は、の疳の虫をいたく刺激した。
「何、それ。三角関係って、どういうこと。岱、私の他に女がいるって言うの!?」
「そんなはずがないでしょう」
そんな恐ろしい真似ができる訳がない、という言葉は喉元で封じた。
万事に気の強いこの恋人にそんなことをしたら、良くて馬岱はごみのように捨てられ、悪くすればは相手の女を突き殺してしまうかもしれない。
馬超の副官として、特に武術に突出したは、いずれ勇猛なる将軍として名を馳せるだろうともっぱらの噂だ。生半な女相手では、瞬殺もいいところだろう。
そのが何故か馬岱にべた惚れして、今二人は公認の婚約者という間柄だった。
「女ではなく」
「男だって言うの!? 何ソレ、余計に始末が悪いわ!! 一体何処の誰よ、岱の尻を狙ってるなんて!! 私がカタをつけてあげる!!」
下品な言葉で吼えるに、馬岱は深く溜息を吐いた。
普通、男だと言ったら馬岱ではなくの方の話だと、何故分からないのだろうか。
短気で一途なところは、本当に従兄にそっくりだと思った。
似た者同士が惹かれあうと言うのは世間ではよくある話なのだけれど、は馬超ではなく馬岱を選んだ。
そして馬超の方は、通説に習ってに惹かれた。そういうところは妙に素直なのだ。
とうとう口には出さなかったけれど、あれは馬超なりの矜持の保ち方だったのだろう。
傍らで馬超を見ていた馬岱は気付いたが、恐らく他に気付いた者は居まい。
――そのことをに告げたら、はどうするのだろうか。
「……どうしたの、岱」
怒り狂っていたが、心配そうに馬岱を見上げていた。
何でもありませんと誤魔化して、いぶかしげなを口付けで押し流す。
舌を絡めると、すぐに甘い鼻息が漏れ出した。
――そのことをに告げたら、私はどうなるのだろうか。
頭痛に似た予感に眉を潜めて、馬岱はの体を強く引き寄せた。
終