股間に男の形を模した淫具を埋め込み、荒い息を吐く。
「……んん〜〜〜〜!……」
 どうしても後わずか足りないもどかしさに、は憤り悶えた。
 遠呂智の毒は、の体を根底から覆した。
 孤高の誇りは失われ、清廉な魂は汚された。
 今のは、男なしでは生きていけなくなった哀れな娼婦に過ぎない。

 突然声掛けられても、は怯むこともない。熱を帯びた潤んだ目を向け、だらしなく寝そべっているだけだ。
 慶次は、そんなを哀れみを篭めた目で見下ろした。
 無言のまま歩み寄ると、埋め込まれた淫具に手を伸ばす。
「はぅっ!」
 びくん、と跳ね上がる体を御して、慶次は淫具を引き抜こうとした。
 絡み付き、離すまいと食いついてくる膣壁は、慶次の剛力を以ってしてもなかなか制し難い。溢れ出す淫液が慶次の指を滑らせ、ようやく引き抜いた頃には少々の疲れすら感じていた。
 の手が、取り上げられた『玩具』を取り返そうと伸ばされる。
「駄目だ、駄目だ」
 苦笑して濡れた淫具を室の隅に放り出すと、まるで犬が骨を投げられたかのようにそちらに飛び出そうとする。
 片手で取り押さえつつ、服の下から雄の印を露にすると、の目がそれを凝視する。
「こっちの方が、いいだろう?」
 は当たり前のように慶次の股間に顔を埋め、舌を使って愛撫し始める。
 奉仕を受けた雄の印は、あっという間に昂ぶり大きく反り上がった。
 のしたいようにさせながら、慶次は優しくの頭を撫でた。
 遠呂智は既に亡く、世は平穏を取り戻しつつある。
 けれど、壊れてしまったの心には、平穏が戻る気配もない。
 遠呂智の元を去る時に、ついでとばかりに連れ出してきたものの、を救う手立ては未だに見つからないでいた。
 慶次にできるのは、ただ、こうして慰めを与えるだけだった。
 の目が、懇願するように慶次を見詰める。舌は淫猥に雄の印を弄ったままだ。
 並の男なら理性をなくしそうな眺めに苦笑し、の体を抱え上げた。
「……あっ、ああ、あっ……」
 飢えたように飲み込むくせに、拒絶するように絞り上げてくる膣壁に、慶次は奥歯を噛み締めた。
 すぐにも放ってしまいそうなのを堪え、の体を揺する。
「ひぁ、あっ、やっ」
 揺さぶられ、悲鳴を上げつつも慶次にしがみついてくる体は柔らかで、どうにも儚げだった。
 の腕が慶次の首に回り、耳元に唇を寄せる。
「……殺し、て、殺して、下さい……」
 涙ながらに訴えるは、澄んだ目をしていた。
 男に抱かれ、極みを目指すわずかな時間だけ、は正気に返ることができる。
 何の救いにもならない、むしろそれすら魂を踏みにじる責め苦だった。
 応えてやろうか。
 ふと、慶次の心が揺れる。
 しかし、の膣に絞り上げられ、すぐにそれは叶わぬことと知る。
 遠呂智の毒は女を淫らに変えるだけではなく、その体をも毒に作り変えてしまう。
 呪いの如く男に飢える女は、己を抱く男をも呪いに引き込み、女から離れられなくするのだ。
 慶次ですら、毎晩の如くを貪らねば眠ることができない。
 並の男であれば、幾日も持たずすべての精気を吸い取られ、果てることだろう。
 それもまた業だ、と慶次は感じた。
 自分でなければは連れ出せなかったろうし、自分でなければやはりは、何らかの形で死の安らぎを得られたことだろう。
「すまねぇ」
 慶次が詫びると、は一筋の涙を零した。
 自ら慶次の口を吸うと、舌を絡めてきた。
 慰めのような柔らかな口付けに、慶次も応えて舌を絡めた。
「……して……」
 の膣が、慶次の雄を追い立てる。
 無言で頷くと、労りの欠片もなく、ただから得られる悦を貪るべく激しく揺する。
 の喉から細い悲鳴が漏れた。
「……して……して……して……」
 うわ言のように繰り返される言葉が、『犯して』と言っているのか『殺して』と言っているのか分からない。
 分からないように目を背け、慶次は昂ぶりを解き放った。

  終

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