足の間でぐちゅぐちゅと音がしている。
ぬかるんだ泥に手を突っ込んでいるような、そんな音だった。
実際のところは、それとそんなに変わらない。
ぬかるんだ肉の中に男の堅いものが埋め込まれ、何度も何度も寄せては引いて引いては寄せてくる。
どうしてこんなことに夢中になるのか分からない。
けれど、押し込まれる度、引きずり出される度に擦られる朱玉や膣壁は快楽を生み出し、神経を焼く。
「くだらねぇこと、考えてんじゃねぇだろうな」
尻の横を引っぱたかれ、痛みというより屈辱で眉を潜めた。
集中しろと命じられ、水賊上がりが、何を偉そうにと鼻で笑う。
今度は頬を張り飛ばされた。
やっていることは神聖な繁殖のそれと変わらないけれど、今の私に施されているのはそうではない。ただの陵辱。
敵の手に囚われた私は、この男の慰み者になった。
男の名を、甘寧という。
甘寧は、私が男を知らないことを酷く喜んだ。
面白い、一つ俺が仕込んでやるかと宣言したのを、私も甘寧の部下も聞いていた。
私は青ざめ、部下達は下種な歓声を上げた。
すぐさま汗臭い小部屋に引き立てられ、私はその場で純潔と誇りを失った。
初めて知った男がもたらす痛みは、戦場で受けたどんな傷よりも強い痛みを伴った。内臓を食い千切られるような未知の痛みと驚愕に、私は我を忘れて許しを請うた。
甘寧は勿論私を許さず、却って興をそそられ可笑しそうに笑っていた。
何度もえぐられ、中にも放たれたが、私はむしろ腹の上に出されたことに恐怖し憤った。
足の間から私に向けられる汚い肉の塊が、弾けて白い膿のようなものを撒き散らす。
飛び散ったそれは私の首元にまで届き、私は悲鳴を上げて顔を逸らした。
面白かったのだろう、甘寧は、放った後雫を垂らす先端を私の顔に擦りつけ、あまつさえ私の唇で拭い取らせた。
私の軍は精鋭で、甘寧の手下を何人も葬ってきた。
その代償に、私は生きながら殺されることになったのだ。
毎晩のように甘寧がやって来て、奴のおぞましい槍で私を串刺しにする。
その度に私は屈辱と苦痛に焼かれ、絶望しながら意識を手放した。
痛みがある内はまだ良かった。
下らない作りの体が甘寧に馴染み、痛みを快楽へと変化させた時、私は再度絶望を突きつけられた。
望みを絶った後にまた望みを絶たれる。
これほどの絶望はなかった。
私の神経が私の心を蝕み、理性を砕く。
奴は私の耳元に、幾度となく囁いて寄越した。
「イきたいって言えよ」
嘲笑の混じった声が、囁くように脳に吹き込まれる。
「イかせて下さい、甘寧様ってな。そうしたら、イかせてやってもいいぜ」
拒絶してもただ奴を喜ばせるだけだった。
揺さぶられ、擦られて、言っても言わなくても甘寧は好き勝手に私の中に、外に、のべつくまなく汚毒を撒き散らした。
子ができることはなく、だから私は、やはりこの行為は神聖な繁殖のそれではなく陵辱なのだと知ることができた。
幾日経ったのかわからなくなり、あるいは数日だったのかもしれないと思いもする頃、私はとうとう耐え難くなった。
殺してくれ、と、甘寧に温情を求めた。
串刺しにされたまま、半ば意識も飛んでいたから言えた言葉だと思う。
「勝手に死ねよ」
甘寧の返答は簡潔で、もっともなものだった。
勝手に死ね、と言われ、私は虚ろに頷いた。大きく揺さぶられ、後はあらぬ声を上げて意識を手放した。
目が覚めたら一人で、汗と精液に塗れていた。
しばらくぼんやりとしていた私は、そうだ、死ななくちゃ、と辺りを見回す。
武器はおろか身にまとうものすら一枚残らず剥ぎ取られていた私は、私が下敷きにしていた布を見て閃いた。
ぼろぼろの布だけれど、裂いて寄り合わせれば、私ぐらいは支えられるかもしれない。
早速引き寄せて手で裂こうとしたが、なかなか上手くいかない。
口に咥えて歯で引っ張ると、布の端が少し避けて切り裂き易くなった。
私は安堵して、作業を繰り返した。
口の中に血の味が広がったけれど、気にはならなかった。どうせもうすぐ気にもならなくなる。
家事などほとんどやったこともない私だったが、切り裂いた布を結んだりねじったりしている内に、そこそこ長い綱を一本設えることに成功した。
剥き出しの梁に縄の端を投げる。何度目かで、ようやく縄が梁に引っかかった。
長さを調節して、結ぶ。
首を引っ掛けてしまえば、ぶら下がる高さなどなくても、何とかなりそうだった。
私の腰から下は、毎晩の陵辱でがたがたになっていて、立っているのもやっとなぐらいだったのだ。
やっと楽になれる、と私は嬉々として輪にした綱に首を掛けた。
意識をして力を篭めていた膝から力を抜く。もう、こんな無理をしなくても良くなった、良かった、と目を閉じた。
膝から一気に崩れ落ち、同時に私の喉に綱が食い込む。
苦しい、と思った瞬間、床の上に投げ出されていた。
綱の強度が足りなかったのだと思った。
もう少し短くして、でもそれだと首が届かなくなるかもしれない、どうしよう、と悩む私は、突然掬い上げられて仰向けに転がった。
そこに甘寧が立っていた。
どういうことかわからず、甘寧を見詰める。
「馬鹿が」
甘寧の手には、不気味な龍が浮き上がる青龍刀が握られていた。
「誰が死んでいいなんて言った」
言ったじゃないか。
私は天井を見上げ、綱が切れたのは強度のせいではなく、甘寧が叩き切ったせいだと初めて察した。
憤怒と慚悔が私に力を与えた。
例え武器はなくとも、私には爪があり歯がある。
甘寧を打ち倒せるとは思わなかったが、せめて一矢報いてやりたかった。
だが、私の体は呆気なく組み敷かれ、頬を数度打たれただけで四肢はぐったりと伸び力を失った。
私は、私の中に甘寧が押し入ってくるのを感じ、うめき声を上げた。
また殺される。そう思った。
甘寧は、息を荒げながら私(の亡骸)にしがみついてくる。
「お前ぇは、死なせねぇ。お前ぇは俺の女になるんだ。いいな」
死なせない。
殺されているのに?
意味が分からない。
甘寧は懸命に腰を揺さ振って、私の反応を伺っているようだ。
「……啼けよ、いつもみてぇに。ほら……」
その声に焦りを感じる。何を焦ることがあるのか。
「啼けって。おら……濡れてんだろ、感じてんだろ、なぁ、啼けって。いつもみたいに、俺の名前呼べよ。なぁ」
頼むから、。
懇願の声を、私は確かに聞いた。ようやく私も気が付いた。
愚かな男。馬鹿な、下賎の、水賊上がり。
捕らえた敵軍の将に心を奪われるなんて、なんて……下らない。
私の目から何故か涙が零れ、私の手は、敵の、私を貶め辱めた男の、甘寧の背に回っていた。
私達は、互いに互いを殺し、殺されていたのだ。それも、毎晩のように。
下らない。
下らな過ぎて、私は、声を上げて泣いていた。
生まれたての赤ん坊のように。
終