地平線の遥か彼方に沈む夕日も、満点の星空も、馬超には凡そ『美しい』という感覚を持てないらしい。
 そうと知って、はかなり愕然とした。
「空は空だし、星は星だろう。それ以外にどう見ろと言うんだ」
「どう見ろて」
 美しいものを見て美しいと思わない奴に、何をどうしろと言うのか。
 問いたいのはの方だった。
「……えー。と。星。……きらきらしてて、綺麗だなぁとか。思わないもん?」
 悩み悩み話すので、非常にぎこちない口ぶりになってしまう。
 馬超は眉を潜めながら、それでも付き合い良く一応は悩んでみてくれた。
「……思わん」
 みてくれただけだった。
「……えー。と。夕日。こう、空が赤く染まって、ああ、一日が終わるなぁ、寂しいなぁとか。思わん?」
 何もない中空を見上げ、馬超は何か想像しているようだった。
「……一日が終わるとは思うが」
 想像しただけだった。
 は頭を抱えた。
 情操教育があまりにもなってないのではないか。
 親の顔が見てみたかったが、親は死んでいるということなので口に出して嘆くこともできない。
 どうしたもんかなぁ、と悩み、発想の転換をしてみることにした。
「えと、うん、そしたらさ。孟起的に、美しいと思うものって何?」
「よがってる時のお前」
 ごす。
 頭で理解するより先に、足が馬超の向こう脛を蹴り上げていた。
 分厚い革の脛当てで覆っていたものの、泣き所を蹴り上げられて馬超はうめきひざまずいた。
「正直に言ったというのに、何だお前は!」
「何だというお前が何だ、お前が!」
 顔を真っ赤にして喚き散らすを、馬超は訳が分からぬといった態で睨め付けた。
 即答できる返答でもなかっただろうと思うのだが、こういうところは馬超が馬超たる由縁なのかもしれない。
 蹴り上げたの方も、爪先で蹴ってしまった為に足を痛めてしまった。
 じんじんと痛むところに手を伸ばして撫で上げる。
 馬超の目の色が突然変わった。
 うん、と何の気なしに馬超の視線を辿る。
 撫でる為に上げた足のせいで、スカートの裾が大きくたくし上がっていた。
「っっっ!!」
 慌てふためいて足を下げるも、俊敏に動いた馬超に抱え上げられ、両足共に宙に浮く。
「足を痛めたろう、俺が診てやる」
「い、いいっ、診てくれなくていいっ! 何、そのエロい顔はっ!」
 喚いてももがいても、馬超の腕はしっかりとを抱え上げたままで離そうとはしない。
 そう言えば、と不意に思い出したように真顔に戻る馬超に、も釣られて口を閉ざす。
「達した時のお前の顔も、俺は美しいと思う」
「死」
 ね、の音は馬超の唇に飲まれて消えた。

  終

旧拍手夢INDEXへ→
サイト分岐へ→