はっきり言って、黄忠の第一印象は『はりきりお爺ちゃん』でしかなかった。
 お爺ちゃんであって異性ではない。
 だから、求婚された時はびっくりして即座に断ってしまった。
 そういう対象に見られていたことだけでびっくりしてしまって、細かいことを考える余裕もなかったのだ。
 けれど、これはあくまで現代人のの感覚であって、この後漢という遥か昔の時代では、極々当たり前の話しなのだと後で知った。
 女官達にそれとなく聞いてみたところ、そうだと分かって何となく申し訳ない気持ちになった。
 もう少し悩むとかしても良かったかな、と思うが、今更告白前に戻れるわけでもない。
 庭に出て、一人で考え事をしていたら、黄忠の方から話しかけてきてくれた。
「この前は、すまんかったのぅ」
 照れ臭そうに頭を掻かれて、の方が恐縮した。
 別にそうしようと言ったわけでもないが、二人並んで庭の散策にでた。
 雨上がりで少しぬかるんでいたが、その分空気が冷たく冴え渡って心地良い。
 振った振られたという間柄でおかしいな、とふと意識が反れた時だった。
「危ない!」
 足を滑らせて転倒しかけたを、黄忠は咄嗟に手を伸ばして支えてくれた。
 もたれかかる形になり、黄忠にしがみついたは、あることに気が付いて困惑した。
「……どうしたのじゃ、
 いつまでも離れようとしないに、黄忠もまた困惑する。
 離れないどころか胸を押し付けるようにしがみつかれ、いったいが何をしようとしているのかまるで見当が付かない。
 ようやく身を離しただったが、指先は黄忠の袖を掴んで離そうとしない。
 もう一度問いかけようと黄忠が口を開いた時、が先に話しかけてきた。
「黄忠様、キスとかしてみません?」

 黄忠はを妻に迎えることになった。
 一度は断ったという話だったが、何がきっかけで思い直したのかという問いに、はうぅんと小さくうなってこう答えた。
「肌を合わせてみたら、意外といけたの」
 どういう意味かと赤面する相手を他所に、は一人で納得したようにうんうんと頷いていた。

  終

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