子供が酒を呑んだらいけない。
 がそう言って杯を取り上げようとすると、政宗は大声で怒鳴ってを退けた。
「わしは、子供ではないっ!」
 そうは言っても、黒塗りの眼帯こそ厳しいが、色白の肌といい、くりっとした目といい、存外長い睫といい、見た目そのものが幼げで、にしてみれば子供以外の何なのだと思ってしまう。
 異なる世界が溶け合っただけあって、政宗の行動は呉で生まれ育ったには不可解なものが多い。
 それでも、縁あって仕えることになったわけだから、なるべく理解しようと試みてはいる。なかなかに難しかったが。
 無茶して杯をあおるものだから、案の定すぐに引っくり返ってしまった。
 肩を貸して寝室に向かう。大の男相手なら、こんなことはきっと出来ない。政宗が子供だから、でも支えられるのだ。
 よく考えれば分かるだろうに、とは密かに笑みを浮かべた。
 子供だから、それを指摘されると怒り出す。かっとして怒鳴り散らすようでは、まだまだ子供だと自分で証しているようなものだ。
 床を延べると、政宗を横たわらせた。鎧や装束を外し、楽な格好にさせると、政宗は床の上で小さくうめいた。
「無茶して、呑み過ぎるからですよ」
 鎧を丁寧に片し、水飲みから水を注いで勧めると、政宗はにもたれるようにして啜り始める。
 乳飲み子が母親の乳を求める様に似ていて、はついに堪えきれなくなって、くすりと声を立てて笑った。
 途端、視界が大きく揺れる。
 背中に軽い痛みが走り、天井を背にした政宗がを見下ろしている。
「子供ではないと、言っておろうが」
 証してやる、と言うなり政宗の顔が落ちてきた。

 達してすぐに眠りに落ちた政宗に、はそっと上掛けを掛けてやった。
「子供では、確かにないかもしれませんけど」
 苦笑して、ほつれた髪をそっと摘み上げる。
「大人はこんな誘い方、しませんよ」
 眠っているはずの政宗が、うぅ、と抗議するかのようにうめいた。
 世界がどうこう以前の問題だ。
 あなた、という言葉が、『貴方』であり『彼方』であることを、何となく思い出した。

  終

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