誘ったのは自分だ。
 別に、孫市に責任を取って欲しいと言ったわけでもない。
 どうしてこんなに苦い顔をされなくてはならないのだろうか。
「俺、あんたに何もしてやれないぜ」
 だから、何をして欲しいと思って誘ったわけではない。ただ、股座に孫市のものを突っ込んで、せいぜい悦くするように腰を振っていただければ良かっただけだ。
 孫市はそうしてくれたし、それでいいと思う。
 戦続きで溜まっていたのだろうし、男の欲求は女のそれより遥かに強いと聞いたことがある。親切ごかしのつもりはないが、二人ともその手の欲求を戦で昇華できぬ性質である以上、何処かで解消する必要があった。
 つまらぬ遣り取りにこれ以上応えるつもりもなく、は身繕いをしようと立ち上がった。
 その手を孫市が掴んで引き戻す。
「待てよ……話は終わっちゃいない、だろ?」
 終わってないも何も、始まってもいないのだ。する必要がないのだから。
 浴びる程呑んだ酒の勢いを失くし、孫市は愚図愚図と言い訳めいた言葉を続けている。
 そんな言い訳いらないのよ、と言ってあげたら、黙ってくれるだろうか。
 それもまた、おかしな気がした。
 言い訳に言い訳を返す気にもなれず、は屈んで孫市に唇を寄せる。黙らせるには、そうするしかなかった。

 強引に口付けを外されると、は孫市の足の間に顔を埋めた。
 どちらのものとも言い切れない愛液に塗れたそれを、舌で丹念に拭っていく。
「……、って……おい……」
 呼びかける声が艶めく。孫市も、堪えきれなくなってきたのだろう。一度で昇華できる程に短い禁欲生活ではなかったはずだ。とて同じだった。
 荒い息がうなじにかかり、ごつごつとした手のひらがの背を撫で回す。それだけで、尻が浮いてしまうくらい悦を感じた。
 顔を上げて孫市の足を跨ぐ。
 困ったように見つめてくる孫市から、敢えて目を反らした。
 昂ぶりが徐々に食い込む。孫市のものだ、と思うだけで、体が痺れるようだった。

 呼びかけられて、拒絶するように首を振る。
 ただ、今だけ抱いてくれたらそれでいい。
 何もいらない。
 言葉も、未来も、偽りの証さえも、何もいらなかった。
 孫市が好き、ただ、それだけなのだから。
 しつこく呼びかけてくる孫市に、は再び口付けて黙らせてやった。

  終

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