姜維の槍は、他の者が使う物と比べてもかなり珍しかった。
 愛用の昂龍顎閃の刃は三叉に分かれ、趙雲や馬超の槍とはかなり異なる趣を呈していた。
 ポセイドンの戟みたいだと言うと、姜維は少し嫌そうな顔をし、ついで不思議そうな顔をした。
「何ですか、その、ぽせいどんというのは」
「ポセイドンってね、神話に出てくる、海の神様」
 それより、と前置きし、嫌そうな顔をしたのは何故なのだと尋ねた。
 不思議そうな顔をしたのは、ポセイドンと言う聞きなれない単語のせいだろう。ならば、嫌な顔をしたのは戟みたいだと言う言葉のせいだろう。
 の指摘に、姜維は恥ずかしそうに頬を赤らめた。すぐに顔に出る素直さが、少しばかり恨めしかったのだろう。
「ええ、前に少し、それで口論になったものですから」
 姜維は槍の使い手として名を馳せている。ところが、姜維の武器を見ると、三叉だから戟ではないかと示唆してくる者が少なくない。
 姜維にとっては、別にどうでもいいことなのだ。槍だろうが戟だろうが、姜維愛用の武器と言うことに何ら変わりはない。
 ところが、何故か執拗に、いやこれは戟なのだから戟と言うべきだ、言わずに居るのはおかしい、訂正なさいと指示されることがある。
 こういう時は、温厚な姜維もさすがに怒る。
 本人はどうでもいいことだと言っているのに、いちいち訂正して回れと言われても困る。訂正したいのなら勝手にすれば良いものを、それは当人の責任だからとやいやい言われる。
 責任とは何だ。
 意味がわからないのに説明はないし、筋が通らぬのに義理を要求されるのでは理屈が合わない。
 この点、姜維と世間の思考の溝ははなはだしいらしく、よってこの手合いの話が出ることを姜維は異様に嫌っていた。
 話を聞いていたは、姜維が心配する程興味がないらしく、ふぅん、と軽くいなして終わった。
 ほっと胸を撫で下ろしていると、がとことこと寄ってきた。
「でもさ」
 まだ話を続ける気かと、姜維が眉間に皺を浮かべた時だった。
 の指が、素早く姜維の股間を撫で上げた。
 思わず屈んで股間を押さえた姜維に、がくくっと笑って耳に唇を寄せた。
「ここは、三叉じゃなくて良かったよね」
「……どういう意味ですか」
 姜維はの体を抱き押さえ、きゃあきゃあ言うのを無視して寝台に雪崩れ込む。
 上から覆い被さるようにして、きつくを睨め付けた。
「それなら、試してご覧になりますか」
 本当は三叉かもしれないと囁くと、は軽く首をすくめ、了承の印代わりに口付けを交わした。

  終

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