野蛮な武器だ。
 がそう言って眉を顰めるのを、孫策もかちんとして眉を顰める。
「何が、野蛮だってよ」
「野蛮だよ。だって、撲殺用じゃん」
 刀で斬れば斬殺だが、トンファーで殴るのだから撲殺だ。
 ザンサツ、ボクサツ、と何度も繰り返し発音すると、唐突には孫策を振り返った。
「ね?」
「何が『ね?』だよ、全然わかんねぇ」
 いわく、斬殺のザンという音は凄惨な美しさを感じるが、撲殺のボクという音は何だか間抜けでかっこ悪いらしい。
「知らねぇよ」
 孫策にとっては、手に馴染んだ大切な相方だ。今更これ以外に使うつもりになれないし、その予定もない。
「要は、敵をぶっ倒せればそれでいいんだよ」
 切り上げるつもりで吐き捨てるが、はその言葉にすら噛み付いてきた。
「それが、野蛮だって言ってるの」
「何なんだよ!」
 うがぁ、と孫策は髪をかきむしった。
「何でいちいち、俺に絡んでくるんだよ! いいじゃねぇか、ほっとけよ!」
 そしての反撃を待つ。
 一を言えば百の屁理屈で返す、いなせるのは孫堅と周瑜ぐらいだと揶揄されるだったから、連弩の如く吠え立てるに違いない。
 耳を押さえて待っていた孫策だったが、反撃の言葉は一向に聞こえてこなかった。
 意表を突かれてを見遣れば、何故か顔を青褪めさせて立ち尽くしている。
 思わず手を伸ばすと、の肩がびくりと跳ねた。
 叩かれるとでも思ったのだろうか、庇うように体をすくめている。
「ご、ごめんな、さい」
 震える声で詫びられ、孫策が呆気に取られている間には駆け出して行った。
 頭の中が疑問でいっぱいになり、煮えたぎる。
 どういうことだとうろたえていると、周瑜が通りかかった。
「孫策、君一人か、珍しい」
 周瑜がそう言う程、ここ最近の孫策は常にと共に居た。と言うより、が必ず孫策の周りをうろついて、どうでもいいような下らない口論を吹っかけてきていたのだ。
「……周瑜」
「何だ」
って、何で俺の周りうろうろしてんだ」
「君が好きだからだろう?」
 何を馬鹿な、と言うかのように、あっさりと答えが出た。
「それで、この……おい、孫策!」
 周瑜が手にした竹簡の封を緩めている隙に、孫策は風のように駆けだして行った。
 後に残された周瑜は、先程の孫策とまったく同じ位置、姿勢で呆然と立ち尽くす。
「……まさか、知らなかったのか?」
 まさか、な、と呟きつつ、周瑜は竹簡の封を締め直した。

  終

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