尚香が去った時の、劉備の背中を忘れていない。
 真っ赤な夕日の中、一人佇む劉備の背中は小さく、酷く頼りないものだった。
 彼を支えたいと思う武将は多い。
 何も持たない彼に惹かれるのは、何故だろうかとは思う。
 曹操のように天子を戴いている訳でもない。
 孫権のように父と兄から受け継いだ基盤がある訳でもない。
 時に浮浪者の如く彷徨う彼に、何故人は付き従うのか。
 彼は強い。
 けれど、脆く弱い。
 だからだろうと、は思う。

 夜半、閨の警護を初めて賜ったを、牀に就いた筈の劉備が呼んだ。
 身軽く駆け付けると、劉備は牀台を覆う垂れ幕の中から手だけを差し出しを招く。
 白くて、細い手だった。
 剣を握るが故にごつごつとした肉刺が浮いていたが、それでも白くなよやかな手だと思った。
 人の物とは、思えない。
 は背筋に涼しいものを感じ、身を震わせた。
 それでも、はその手の招くまま傍に寄る。
 夜半の警備を命じられた時から、薄々は分かっていたことだった。
 構わぬ、とむしろ喜びを以ってこの任を承った。
 彼を支えられるならば、何を賭しても良かったのだ。
 垂れ幕の中は薄暗く、視界もよく効かない。
 しかし、劉備の白い肌だけは、まるでぼんやりと光るように闇に浮き上がって見えた。
 彼の人の表情は暗い。
 飢え、乾いた人のようにも見えた。
 は自ら襟を寛げた。
 零れるように現れた白い胸乳は震え、劉備の雄を誘う。
 朱色に色付く先端に、劉備の紅い唇が吸い付いた。
 じんわりと痺れるような悦は、の秘裂に潤いを与える。
 乳首を舐めしゃぶる劉備をやんわりと引き剥がし、は下を脱ぎ捨てる。
 露になった繁みを自ら割り、濡れ、色付いた秘裂を劉備の前に晒した。
 劉備の喉が鳴る。
 は、劉備の視線がそこに据えられているのを確かめると、自ら秘裂を擦り声を上げた。
 この暗闇の中、劉備に果たして見えているのかどうか、不安はあった。
 だが、劉備が何の戸惑いもなくに覆い被さり、その秘裂に昂ぶりを押し当てて来てくれたことで、ちゃんと見えていたのだと安堵することが出来た。
 貴方より、私は尚卑しい存在なのですよ。
 それを穢そうが貶めようが、貴方のせいでは決してない。
 劉備がそう理解し、安堵できるよう、は全身全霊を込めた。卑屈に身を震わせて、猥雑な嬌声を上げ、露骨に劉備を欲しがって見せた。
「あぁ、あ、劉備様、もっと、ん、もっと奥に、いっぱい……!」
 四足に這い蹲り、尻を掲げて振る。
 獣を相手にしていると思ってくれれば良い。
 実際、は悦楽に身悶えし、劉備の固い肉で貫かれて涎を垂らして喜んでいる。
 何も気にしないで欲しかった。
「あン、イッちゃう、イッちゃう、も、イッちゃうっ!!」
 高い声を上げ、果てる。
 膣の中で劉備の肉が震え、鬱情を蓄えた精が迸っていく。
 すべて受け止め、未だ残留する澱を吐き出させるべく、は再び腰を振った。
「あ、まだ、まだ固い、凄い……劉備様、まだ……私……」
 強請っているのは自分の方で、劉備のせいでは決してない。
 劉備はただ、その優しさ故に貪られてくれたらいいのだ。
 彼には、何の罪も咎もない。
 あってはならないのだ。

 劣情の時が過ぎ、気を失った振りのから劉備は身を起こした。
 夜着を肩に掛け、窓枠に寄り掛かると空に浮かぶ月を見上げる。
 その背中は小さく、酷く頼りないものだった。
 が密かに盗み見ていると、不意に劉備が振り返った。
「おいで、。ここで、お前を貪りたい」
 にっこりと笑った劉備の顔は、とても清廉で美しい、何の邪気もないものだった。
 彼は強い。
 けれど、脆く弱い。
 そして、酷くしたたかなのだ。
 はふらふらと劉備の元へと歩み寄り、言われるがままに窓枠へと手を着いた。
「あぁっ!!」
 濡れているとは言え、早急に根元まで尽き込まれて悲鳴を上げる。
 だが、口は自然に淫猥な睦言を繰り返していた。
「中、擦れてる……あ、あ、いい、気持ち悦いです、劉備様……もっと、もっと擦ってぇ!」
 哂っているだろう劉備の気配に、肌が粟立つ。
 ぞくぞくして、失神してしまいそうな程気持ち良かった。
 何も持たない彼に惹かれる本当の理由を、おぼろげながらに悟ったような気がした。

  終

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