紅葉を見に行こうと孫堅に言われ、連れて行かれた先は孫堅の持つ別荘だった。
 さすが専務、あるところに金はある。
 ろくでもない感心をしていると、孫堅がワインボトルを手に戻ってきた。
「そんなの、買ってましたっけ」
 孫堅の車に乗せられ、ここまでやって来た。
 が、記憶を辿ってみるものの、途中にあったレストランで食事はしたものの、ワインを買えるような場所には寄らなかったように思う。
「何、地下にワインセラーがある」
 普段は管理人に託しているのだというワインセラーには、これだけでなく他にも孫堅秘蔵のワインが寝かせてあるのだという。
 どんな金持ちか。
 呆れると同時に、嫌な予感がした。
「……泊まる仕度なんて、してませんけど」
 一泊だけだと言われても、下着ぐらいは替えたいというのが女の心理だろう。
 それに、どうせ致すのだろうし。
 けれど、そのままで帰るのかと考えると身震いした。
 一度で済ましてくれた試しがない。時間を空けてもう一回、となるのが常だ。
 ご飯食べて一回、酒呑んで一回、風呂入って一回と、何の日常習慣かと暴れたくなるような性癖を孫堅は持っていた。
 その度にいちいち服を着て脱いで、としているのだから、これは当然下着の一枚や二枚は汚れるのが道理と言うものだった。
「俺に立て続けに腰を振れと言うのか」
 年を考えてくれと軽口叩かれ、そんなタマかと暴言吐きたくなる。
 これでも直属の上司だから、多少は耐えなければと思う。思うが、この上司は馬鹿みたいに口が達者なのだ。放っておくと、をからかう為だけに延々と喋り続ける。
 喜ばせるだけと分かってはいるのに口答えしてしまうのは、性分故に致仕方ない。溜めれば即座にストレスに繋がってしまう。だから、『多少』で譲歩せざるを得なかった。
 孫堅の困った性癖も、元はと言えばのせいだから何とも抗い難い。
 以前は二度三度と立て続けに挑まれていたのを、頼むから一度で済ませてくれと泣き付いたのはの方だった。
 の方が若いには若いが腰が立たなくなることもしばしばで、孫堅としてはどうも最大譲歩の妥協案として、時間を空けて致すことにしたようなのだ。
 物足りなそうな孫堅を邪険にあしらうことも出来ず、有耶無耶の内に受諾してしまっている。
 万事譲り合いで成り立つ関係だった。譲る比率は1:9で、無論が後者に当たる。
 そんな次第で、着替えは必須なのだ。
 しかし、孫堅は動じもしない。
「どうせ、二人しか居らん」
「……は?」
「暖房も完備している」
 嫌な予感の正体が分かった。
「……裸、で(過ごせと)?」
 裸で、とこっくり頷く孫堅に、は玄関に足を向けた。
「何処へ行く?」
「帰ります」
 お疲れ様でした、と頭を下げるの後を、孫堅はとことこと追い掛けて来る。
「帰るのは構わんが」
 足はどうする、と尋ねられ、は口篭った。
「近場にはバス停もタクシーの停留所もないぞ。この時期のこの辺りは、温暖化の今日この頃とて冷え込むのに代わりはない」
「温暖化を謳う人が、暖房付けっぱなしとか言わないで下さい」
 の刺々しい言葉に、孫堅は深く深く頷いた。
「では、人肌で暖めあうとしよう」
「お疲れ様でした」
 無理は承知で歩いて帰ろうとするを、孫堅は軽々と抱き上げる。
「足はどうするつもりだ」
「ヒッチハイクでもします」
「性質の悪いのに引っ掛かって乱暴でもされたら如何する気だ」
「ここにもお一人、居られるようですが」
 ソファまで連れ戻されて、座らされてしまう。
「俺は、性質が悪いと?」
「これ以上ないくらいに悪いと思いますけれども」
 ブラウスのボタンを片手で外す器用さに、は不機嫌そうに孫堅を睨め付けた。
「紅葉をまだ見ていないだろう」
「どうせ、ベッドの中で見るとか仰るんでしょう」
 ここまで車に乗ってきて、紅葉なんぞ見た覚えがない。まだ早いのだ。
 本来の紅葉の時期には、この別荘の周りも賑やかになる。
 以前はなかった貸し別荘も増えて、変に騒々しくて治安も悪くなるから、その時期は使わないのだと孫堅は説明した。
 説明が終わる頃には、のブラウスもすべてのボタンを外されていた。
「俺は、ベッドの中でなくてもいいのだが」
 どうせ、二人しか居ない。
 話が元の木阿弥になって、は深く溜息を吐いた。
 スカートから先は、自分で脱いだ。

  終

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