。
私は確かに、貴女に魏延を見張るように申し付けました。
見張るように、ですよ。
私は、貴女に魏延を調教しろとは申し付けておりません。
誰がいつ、お手を仕込めのお代わりを仕込めの言いつけましたか。
何ですって?
私も月英に?
夜、報告に来た時に見た?
……。
…………。
……………………。
それはどうでもいいんです。
魏延は、あれで一応我が蜀軍に属する将軍です。あまり無体な真似をしないように。
人目と言うものがあるでしょう。
誰も見ていなければいいか?
…………。
まぁ、魏延次第でしょう。
……露骨に喜ばぬように。
貴女は変わっている。
普通の女子は魏延の容貌に恐れを為し、近付こうともせぬというのに。
可愛い?
あの魏延がですか!?
……。
…………。
……………………。
貴女は本当に変わっている。
いっそ、夫婦にでもなってしまったら如何ですか。副官程度で甘んじているよりは、その方が調教、もとい軍務外に置いて共に在ろうと、誰も文句は言えますまい。
それに、魏延も多少は人間らしくなるやも知れない。
おや、どうしました。
俯いて、肩など震わせて。
さすがにそればかりは恐ろしくなりましたか。
え?
包み隠さず言って御覧なさい、何ですって?
……。
…………。
……………………。
既に魏延と、そのような。
そうですか。
え?
お手やお代わりでなく?
あれは、手を繋いでいただけだと?
確かに魏延のあの爪では、迂闊に手も繋げますまいが、広げた手の上に魏延の拳など乗せていたら、それは見た者が誤解しても仕方ない……いえ、論点がずれていますね。
もう少し、何とか誤魔化しようはなかったのですか。私が貴女を呼び出さねば成らぬ程、噂になってしまっているのですよ。
貴女は、もう少し聡い方かと思っていましたが……。
はい?
昨夜、腰が立たなくなる程責められて、ぼーっとしていた?
……言い訳になりますか、そんなことが。
もう、結構。
今後、気を付けなさい。二度目は、魏延に叱責が行きますよ。
……えぇ、お願いいたします。
貴女の働き次第では、私が魏延に辛く当たる必要もなくなりますからね。
え?
いいえ、私はあの男が嫌いですよ。猪突猛進で考えなしで、私の命を命とも思わぬ男を、どうして好きになれましょうか。
ですが、同じ蜀の臣として、劉備様にお仕えする身として、敬服するところがない訳でもありません。命令違反をすると言うなら、それを含めて策を練るだけのことです。
……何が可笑しいのです。
笑うのを止めなさい。止めねば、貴女と魏延のことを言い触らしますよ。
中には、魏延が無理に乱暴したのに違いないと気を回すお方も居られるやも知れない。
事実など、どうでも構わないのですよ。
噂など、そんなものです。
私の噂を?
結構、おやりなさい。月英の怒りが恐ろしくないのであれば、どうぞご自由に。
おや、どうしました。そんな唸り声など上げて。
もう結構ですと申し付けた筈です。早くお帰りなさい。
魏延が、貴女を待っていますよ。
えぇ、今後は気を付けなさい。
蜀が天下を統一し、殿の大徳があまねく広がる平和の世まで、今しばらく貴女方には尽力してもらわねばなりません。
すべてはその後の話となるでしょう。
終