※ダークです。嫌いな方は読まないで下さい。


 が目を覚ました時、そこは暗い牢の中だった。
 視界もほとんど利かぬような有様に、長の疲れが重なり目を開けてからもぼんやりとしていた。
 相手が気が付かなかったのは、その為だったのだろう。
 ややもしてが目覚めたとようやく気が付いたらしく、ひそひそと声が上がる。
 横たわったままのの周りを、ぐるりと取り囲む気配は三つ四つ。
 状況からして敵兵の、それも若い男のものに違いなかった。
 どうせ考えていることは一つだろうと、は自害の機を狙っていた。下手に勘付かれて、猿轡でも噛まされてしまったら一巻の終わりだ。
 陵辱されるぐらいなら、死んだ方が遥かにマシだった。
 じっと息を潜めるを、兵士の言葉が鞭打った。
「成る程な、こいつのお陰って訳か」
 が囚われた原因は、実はが潜ませた埋伏の毒たる手飼いの兵に裏切られたことにある。
 綿密な作戦を立てて臨んだ戦だっただけに、その切っ掛けとなる埋伏の毒が機能しなかったことは、作戦そのものの崩壊を招いた。
 どうやってあの混乱した戦場から抜け出したのか、最早記憶もない。
 せめてこの方だけはと、最愛の主たる曹丕を連れて馬を駆けた。
「曹丕様は」
 が口を開いたことに驚いた兵士は、しかし次の瞬間には口の端を捻じ曲げた。
「……お願い、曹丕様は、曹丕様がどうなったかだけ教えて」
 必死に懇願するに、兵士達はただ顔を見合わせて複雑な顔をしてみせるのみだ。
 後から入ってきた中年の男が、無造作にを引き起こした。
「忘れちまったな。だが、お前の態度次第では思い出すやも知れぬ」
 頭然とした男が顎をしゃくると、若い兵達はハッとしたように身を固め、おずおずながらも自ら股間のものを晒した。
「何だ、貴様等。この女の仕出かしたことを忘れたか。この女に、俺達がどれだけ苦しめられたか。悔しいとは思わんのか。思い知らせてやろうとは、思わんのか。
 そう言いながらの服を剥ぐ。
 剥き出しになった乳房が、ふるんと揺れた。
 戸惑っていた男達の顔に、密やかに興奮の色が浮き立つ。
「……ほれ、柔らかくて染み一つない、いい乳だ。しゃぶってみたいとは思わんのか」
 柔々と揉まれ、の顔が嫌悪に歪む。
 けれど、その顔にこそ煽られて、男達はの体に飛び掛った。
 左右の乳をそれぞれの男達がしゃぶり、下着を掻い潜るように指を突き込んだ男が叫ぶ。
「もう、濡れてるぞ、もう」
 遠慮と言う言葉がまったくなくなり、は人形のように振り回され引っ繰り返された。
 口も膣も男のものを咥えさせられ、悲鳴を上げる暇もない。
 乳を吸われながら陰核を擦られ、は苦しさとそれを上回る屈辱に涙を零した。
 死んでしまいたい。
 切実にそう願った。曹丕に処女を捧げ、曹丕のみが触れた肌だった。こんな汚らわしい扱いを許すには、の曹丕に対する忠心は深過ぎた。
 だが、は未だ死ぬ訳にはいかなかった。
――曹丕様がどうなったか、それさえ分かれば。
 生きて居られるなら未練はない。死んで居られるなら生きている価値がない。
 結果が同じだとしても、どうしても確認せずには居られなかった。
 膣の中に、熱い迸りを感じる。
 嫌だ。
 涙を散らし、は悲鳴を上げていた。

 の悲鳴と嬌声を、曹丕は遠く聞いていた。
「……本当に、よろしいので?」
 先程男達を煽った頭然が、やや怯みながら曹丕に伺いを立てる。
「やれと命じた筈だ」
 曹丕は厳格として答える。
「ですが、生き残った兵は、少ないとはいえ千を下りますまい。……その相手を、本当にさせるおつもりで……」
「一人一度で構わん。但し、私の消息を決して漏らすな。魏兵だと覚られることも許さぬ。しくじれば、生き残った千人ごと首を落とす」
 男……魏軍兵長は思わず首を押さえ、曹丕に深く頭を下げた。
 が犯した失態は、曹丕の命を救ったことで穴埋めとされた。
 しかし、主たる曹丕はその処分を不服とし、自らに私刑を化すことに決めたのだった。
 それがこの『陵辱』である。
 のせいで敗戦の屈辱を余儀なくされた兵士達に、自らの体を以って慰めを与えさせることにしたのだ。
 一度は情人として慈しんだ女に酷いことをなさる。
 兵長は、曹丕の薄情に恐怖した。

 の声を聞きながら、曹丕は静かに目を閉じた。
――私が死のうが生きようが、お前はきっと死を選ぶだろう。私のことなど振り返りもせず、私からの懇願すらも退けて、死を選ぶに違いない。
――許さぬ。お前は永遠に、私の元に在るのだ。
 その為であれば、自身を壊すことも厭わなかった。
 の声が聞こえる。
 早く壊れてしまえと念じながら、曹丕は我が手にが戻る日に思いを馳せ、焦がれていた。

  終

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