青みがかった薄闇で、シーツの白だけが自棄に眩しい。
 事後の膿んだ熱を持て余し、は大きく息を吐いた。
「足らないか?」
 に覆いかぶさったまま、萎えた肉を抜こうともしない男がもぞりと蠢いた。
 萎えては居ても、繋がっていることに変わりはない。
 ぞくんと迸る感触に、は眉根を寄せた。
「足りた」
「嘘だ」
 きっぱりと言い切られ、軽く腰を揺す振られる。
「私が足りぬのだから、お前が足りる訳がない」
 何という無茶だ。
 この調子で同棲から結婚まで、ごり押しもごり押しで突き進めてしまった。
 なまじっか外面だけは良かったから、の親もすぐに陥落させられた。
 今では、娘よりも旦那の方が信用されていて、の泣き言はすべて戯言に付されている。
 コンチクショウとは思っても、の対人スキルが甘いからであるから、一人むせび泣いて我慢するよりない。
 友人に愚痴っても、『自慢かコノヤロウ』で相手にされたことがない。
 こんなことなら披露宴にも二次会にも呼ぶんじゃなかったと泣きだけ入る。
 呼ばなかったら呼ばなかったで、勝手に携帯覗かれて適当に招待状送るぐらいはしそうだったから、それを考えれば自分で絞首台に登ったことを褒めてやりたい。
 とにかく、趙雲という男は外面がいいのだ。
 そしては泣くより外にない。
 泣かない日がない。
 隙があれば啼かされる。
 そして親や友人に叱られる。
 どうにもならない。
「もう無理」
「無理なものか。未だ、一度しかしていない」
 世の中のか弱いサラリーマン見習えよお前はよぉぉぉぉ、と吠えたくなる。
 結婚前はピルを飲ませてくれていたが、結婚したらピルさえ飲ませてくれなくなった。
 いつでも妊娠していいとにっこり笑って言われたが、幸い未だ妊娠には至っていない。
 諸葛亮課長に何と言って交渉したかは定かでないが(知りたくもなかったが)、先日趙雲と係が別になった。
 補充が入り、趙雲の下に二人ばかり配属になって、は折り良くお払い箱になる筈だったのだが、何故か今も趙雲の隣に座っている。
 仕事が多過ぎて、引き継ぎが難儀しているのだ。
 それに関しても常々苦言を進呈しているし、どうやら上からも早急に対応しろと迫られているようなのだが、趙雲はしれっとしている。
 口では詫びを入れているようだったが、口ばかりなのは見え透いていた。
 それに付いて趙雲は、『結局次第なのだから、頑張って教えてやるように』としか言わない。
 頑張って教えはしようが、教えてくれる人がいつまでも居たら甘えて覚えるのが遅くなるのは自明の理だ。
 何日までと区切れ、移動先の係にも言っとけと散々怒鳴りつけているのだが、聞く耳を持つ様子もない。
 意外と頑固、意外と腹黒なこの男は、やっぱり意外なことに酷く焼き餅焼きで独占欲が強いのだ。
 が移動になるのを、実は嫌がっているに違いない。
「……抜いて」
 怒鳴るでなく、ぼそっと呟く。
 これはが本気で怒る直前だという合図だった。
 趙雲も、この時ばかりはおとなしく従う。顔では不満を露にするが、そこまで追及して遣ろうとは思わないようだった。
 濡れた肉が引き摺り出されると、は趙雲を押し退けるように起き上がる。
 そのまま、趙雲の股間に顔を寄せた。
「……?」
 やや慌てたような声は、趙雲にしては珍しい。
 二人の愛液に塗れた肉に、は丁寧に舌を這わせて咥え込んだ。
 独特の匂いに吐き気を覚えるが、堪えて含む。
 舌で舐め上げ、頃合いを見て吸い上げる。
 尿管に残されていた残滓が搾り取られて出てくるのを、喉奥に送り込んで飲み下した。
 びく、びくと趙雲の体が跳ね上がる。
 必死に声を殺しても、切なげな吐息が趙雲の感じる快楽を如実に現しているようだった。
 下腹がぶるぶると震え、執拗に吸い上げるの髪に趙雲の指が絡む。
 拒絶されているのか強請られているのか、微妙だ。
 が顔を上げると、掬い上げられるように上向かされて、口付けを受けた。
 口付け、と言うのもおこがましいくらい、熱く乱雑に掻き回される。
「……どうした、突然……」
 間近でを覗きこむ趙雲の目が、苦しげに潤んでいる。
「別に。嫌だった?」
 努めて冷静に返すと、趙雲の表情が曇る。
 は趙雲の首に手を伸ばし、自ら口付けた。
「時々は、私にリード権くれたっていいでしょうよ」
 唇を尖らせると、趙雲の目が丸く見開かれ、次いで優しく緩んだ。
 二人で横倒しに倒れて、くつくつと笑い合う。
「……病院、行ってみる? 子供、欲しいんでしょ」
 趙雲が親とそんな話を良くしているのを知っている。そんな時、趙雲はほんの少しだけ困った顔をしていた。
 あの顔だけは演技でないと、は密かに感じている。
 趙雲は笑って、に軽く唇を押し付けた。
「未だいらない。今は、私だけがを独占したい」
 言うなり赤子のように乳房を吸われ、は半ば呆れていた。
 頑固、腹黒かつ焼き餅焼きで独占欲が強いこの男は、更に意外なことに結構甘えたがりなのだ。
 よしよし、と緩く抱いてやると、乳首の先を軽く噛まれる。
「いっ」
 睨んだ先で、趙雲は常のしれっとした笑みを浮かべてを見詰めている。
 嫌だと言いきれないのが、の悪いところだった。
 なし崩しに二度目に突入しながら、これはこれである意味正しいクリスマスかなぁと考えた。
 クリスマスは家族で過ごすのが、本来正式であると言う。

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