目が覚めると、いつもの天井が見えた。
 愛用の枕と布団が乱れていたが、これは単にここで寝ていたからに過ぎない。
 何の異常もない朝を迎え、は一つ大きな欠伸をした。
 埒もない夢を見た。
 同じような夢を繰り返し見たような気もするし、様々な夢を幾つも見たような気もする。
 どんな夢かはもう思い出せない。
 起きた拍子に皆飛んでしまった。
 夢などと言うものは、得てしてそんなものだろう。
 布団から抜け出すと、ふと、頭を載せていた枕に何か乗っていることに気が付いた。
 え、何、とぎょっとして一気に覚醒する。
 確かに頭を載せていたにも関わらず、潰れもせずに置かれていたのは見たこともない紫の花だった。
――何これ。
 薄気味悪いような気もしたのだが、何故か涙が込み上げて来た。
 にとって、どうしても外せない、何か大切なものだと直感が喚いている。
 訳も分からず、はパソコンに飛び付いていた。
 起動させる時間も惜しい程に、切羽詰まってネットに繋ぐ。
 思い付く単語を片端から検索欄に打ち込んだ。
 この際、検索に掛かるCO2排出量に関しては目を瞑っていただきたい。
 埒もないことを考えながら数分後、手にした紫の花と寸分違わぬ画像を発見することが出来た。
 情報の渦の中から得難い情報を手に出来た幸運に、はまたしても浅からぬ運命を感じてしまう。
 花の名は、金瘡小草と言うようだった。
 金のかさ(できもの)の小草と書く。あまりロマンチックとは言い難い名称だ。
 うぬ、と唸るも、の目は次の項目で点になった。

 金瘡小草の花言葉 【待っています】

 待っています。待っている。
 彼が、私を待っている。
 はパソコン前から後退ると、その場にへたりと座り込んだ。
 待っている。
 そうか、待ってて、くれるんだ、私を。
 何故かは分からないが、はそう理解し、得心した。
 彼が、私を待っている。
 行き方も、その術も知らないけれど、彼が私を待っていてくれると言うのなら。
 は流しに向かうと、コップに水を溜めて金瘡小草を生けた。
――私、行っちゃうかも。

 朝の忙しい時間も、何らを諌めるのに役立たない。
 の胸は今、待っているだろう彼のことだけで一杯になっていた。

  終

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