放ったものが、中から溢れ出して来る。
 もう一杯なんだろう、とはぼんやり考えた。
 何度となく熱を受け止め、体はだるく重い。
 孫策を受け止め続けている女の部分だけ、酷く火照って熱かった。
 ヤリ過ぎで炎症でも起こしたかな、と他人事のように考える。
 痛みはあったが、孫策のものが抜け落ちる喪失感の方が痛手に感じられていた。
 オットセイみたいな男だと断じて来たが、こうしてみると自分もそう変わらないのかもしれない。
 孫策のものを意識的に絞り上げると、すぐ傍で荒い息を吐いていた孫策が小さく呻いた。
「……腹、減ったなぁ」
 昨晩遅くに来たとは言え、時刻は既に夕方近い。
 セックスしては微睡み、微睡みから醒めてはセックスしていた。
 飽くことを知らない情交に、互いに疑問の余地は微塵もなかった。
「そうだね。何か、食べに出る? それとも、出前でも取る?」
「んー……そうだな……」
 言いながら、孫策はの首筋に顔を埋めた。
 温く湿った感触が、汗を拭い取っていく。
 くすぐったさの中に込み上げる熱を感じ、は思わず声を上げた。
 内側から、緩いながらも確実に変化する肉を感じる。
 声だけでも勃つ、と言ってはいたが、そんな男は珍しかろうと思う。
 欲求を溜めに溜めていたのならともかく、これ程の回数をこなしてまだ勃つだけでも脅威だろう。
「……伯符、後ろから、して」
 それに応えられるもまた、脅威かもしれない。
「お前、バック好きだよな」
 笑いながらもの腰を抱え直す孫策に、は枯れ掛かった声でぼそぼそ呟く。
「くっつけるじゃない」
 単に関節の向きの都合の話だ。
 向かい合わせに抱き締めあえば、どうしても触れ合う部分は限られてくる。
 バックからなら、理屈上だが密着する部分は更に増え、肌の感触を感じる部分が多くなる。
 折り畳んだ紙を重ね合わせるようにぴったりとくっつく、その感覚が好きだった。
「じゃあよ……」
 孫策は、の体を抱え上げた。
 膝の上に抱きかかえるようにして、座らせる。
 の背中が孫策の胸に密着し、抱え上げられたおかげで足も重なるように触れ合っている。
「これなら、もっと好きだろ?」
 な、と得意げに笑う孫策に、は微かに笑う。
「まぁね」
「好きって言えよ」
 間髪入れずに言い返してくる孫策に、は吹き出した。
 孫策が眉根を寄せたのは、たぶん納めた肉から微妙な振動を感じてのことだろう。
「……好き」
 無理矢理振り返って孫策に口付けを落とす。
 孫策の手がの乳房を鷲掴みにし、柔々と揉みしだいた。
「んっ」
 背筋を逸らしたに、孫策の目が潤んで揺蕩する。
「気持ちーか、
「……ん、気持ちいい……」
 頬を紅潮させ、孫策の為すがままに肌を震わせるの艶容を、孫策は食い入るように見詰めた。
 不意に、固くしこった乳首に爪を立てた孫策に、は膝を跳ね上げる。
「痛っ、伯符っ!?」
 膝裏を抱え上げ、乳房を掴み直すと、孫策は激しくを貫いた。
 固い逸物で擦り上げられる膣壁が、ぴりぴりとした痛みを伝えてくる。
 それでも、これは孫策のものだと思うと、何故か嫌悪は感じなかった。
、もっと、声……な、声、出せよ」
 掠れた声で強請られると、それだけで鳥肌が立つ。
「声、聞きたい、の……ん、わ、私の、声……?」
「ん、お前のやらしー声、聞きてぇ」
 な、と揺すぶられ、は小さく悲鳴を上げた。
「もっと」
 続けざまに揺すぶられ、の嬌声も立て続けに漏れる。
「伯符、後ろから、して、もっと、もっと、して」
 の言葉に、孫策はベッドから降りての腰を引き上げる。
 高々と抱え上げた尻に突き込むと、はすすり泣くように啼き始めた。
「あ、あぁ、凄、後ろ、ずんって、ずんて、くるっ……」
「ん、気持ちーぜ、
 こくこくと頷くは、固く目を閉じて前を向いてしまった。
 けれど、孫策の肉を締め上げる柔らかな内壁は、今まで以上に強靭に、吸い付くように孫策を責めている。
 さんざ射精した余韻で、感覚が鈍くなっているのは否めない。
 が与えて寄越す快楽は凄まじいものだが、それでも射精までは時間が掛かると思われた。
 却って好都合と、孫策は小さく唇を舐める。
 射精で得る快楽より、という存在を自分が掻き乱しているという悦楽が、異様な程に孫策を昂ぶらせていた。

「で、結局ほとんど一日犯りまくりですか!?」
「声がデケェんですけど、さん」
 は、月曜日から居酒屋の個室という爛れたコースに身を置いていた。
 連休制の為、孫策との情事の後でも一日は体を休められたが、さすがに丸一日近くの耐久レースはきつかった。
 孫策は、夜中になってから一人起き出し、シャワーを浴びてからとっとと着替えて帰宅すると、日を改めてまたやって来た。
 デパ地下で買ってきたと言う大量の弁当と惣菜を持ち込んで、腰が抜けて寝たきりになっていたの面倒を甲斐甲斐しく見てくれた。
 馬岱のような肌理細やかな世話ではなかったが、手馴れていない孫策が懸命に面倒を見てくれるのは、それだけで感動に値する。
 幼い恋人同士のように(普通は逆なのだろうけれども)あーんと言いながら食べさせてもらうのも、実にこれが初めての経験だった。
 美味いか、と問い掛けられ、美味しい、と答えると、孫策は無邪気に破顔する。
 その顔が、可愛い、愛しいと思われる辺り、最早病気なのだとは自覚した。
 休み明けの今日、お陰で歩くのに支障はなくなっていたけれど、時折腰がよろけたようになるのは致し方ないことと言えた。
 勘の鋭いが気付いたのなら、恐らく馬岱も気付いているのではないか。
 営業で外勤の馬岱が席に残っている筈もなく、見られた訳ではなかったが、は何となくそう感じていた。
「そんっなに凄いテクだったって言うんですか!?」
「だから、声がデケェって。ちょっと、彼氏でしょう、何とかして下さいよ」
 半ばうんざりしたは、の隣に腰掛けていた趙雲に救いを求める。
 だが、赤裸々な情事の話を聞かされた趙雲は、顔を真っ赤にして口が聞けない状態だった。
 元々、二人の何だかの記念日で、デートの約束をしていたらしい。
 それをがぶッ千切ってに詰問すると言い出したもので、さすがの趙雲もキレたのだ。
 揉めに揉めた挙句、二人で話していても埒が明かないとが言い出し、今度はを巻き込んでの騒動となった。自棄になったが、そんなら事情だけ手早く話して聞かせるから、後は好きにしろと言い出して今に至る次第だ。
 職務時間中に、訳の分からん話で痴話喧嘩するなとは喚いたが、を引っ張り出したのは昼休みのことで、昼休みが終わるぎりぎりまで平行線を貫いた辺り、確信犯なのではなかったかと思う。
 今更なので問い詰めることも出来ないが、最近のの扱いに妙に長けてきているような気がしていた。
 趙雲を巻き込んだのも、案外タイマンだと誤魔化されかねないと踏んだのかもしれないし、実際のところ二人きりだったら丸め込んでいたかもしれない。
 無辜の被害者たる趙雲に明け透けに話して聞かせるのは申し訳なかったが、それ以上に、が満足するところまでさっさと事情を説明して、自分はお暇させてもらおうと思っていた。言葉が赤裸々になってしまったのは、そのせいだ。
 お陰で話は早かったが、誤魔化せるところも誤魔化せなくなった。
 は時折、そんなの思考を読んでの行動だと思われるような悪魔の神算を見せる。
 それこそ、馬岱と相通じるものを感じさせた。
「……岱くんは?」
 が馬岱の名を思い出すと同時に、はおずおずと問い掛けてくる。
 狙ってやったのであれば神業だろうが、その様から偶然だろうと察しが付いた。
 だからこそ、素直に言う気になったのかもしれない。
「なるようになるしかないと思ってる」
 『契約内容』を言い出したのは馬岱の方であり、それをなし崩しに付き合っていることにしようとしているのも馬岱の方だ。
 の方に馬岱に甘えるつもりが欠片もなかったとは言わないが、正直勝手なやり口には辟易させられている部分が大きい。
 孫策が好きだと改めて自覚して、どうしても別れられないと分かってしまった以上、馬岱と付き合う訳には行かない。
「仕事の方は」
「……うん、……」
 溜まらずといった態で口を挟んだ趙雲に、は明瞭な返事を返すことができなかった。
 が趙雲のわき腹をど突いているのを見遣りながら、答えの輪郭をなぞっている。
「……まぁ、迷ってるってとこかな。まだ、はっきりとは言えないんだけど、なるべく迷惑掛けないようにするつもりだから、もう少しだけ時間頂戴」
 立ち上がったを、が慌てて捉えようとする。
 その手をすいっとかわし、は笑った。
「……じゃ、私ゃ帰るわ。悪いけど、今の話はもうしばらくオフレコでお願いします……ね?」
 何故か隣室に向けて話し掛けるに、も趙雲も肩をすくめた。

 が帰った後、隣の個室からわらわらと移動してきた者達が居た。
 馬超に姜維、の四人は、皆それぞれに複雑な顔をしていた。
 特に馬超は、自分の従弟が蔑ろにされるが如きの扱いを受けていることに、酷く立腹しているようだった。
 口に出しては言わないが、そのことが尚更本気で腹を立てているいい証に見える。
「この件は、諸葛亮課長に報告させていただくわね」
 唐突に口を開いたがそんなことを言い出すもので、一同がぎょっとする。
「そ、それはちょ、待ってもらえん、さん」
「どうして?」
 本気で分からなそうな顔をするに、は言葉を失った。
「私達が居ると分かって、さんは話していたんでしょう? それなら、私達が完全に黙秘するとは考えないと思うけれど」
「で、でも、オフレコでって、あの子」
「勿論、課長以外には言うつもりはないわ。オフレコで、と言っていた旨もお伝えするつもりよ」
 要するに、無駄に喋ってくれるなと言っているのだとは受け止めていた。
 そして、無駄に喋るなというメッセージを誰より伝えたかったのは、恐らく馬岱の従兄である馬超に対してだったと推測している。
「話す時は、さんが自分で話すと思いますよ」
 馬超の肩がぴくりと跳ね、剣呑な視線がに向けられる。
 はそれを怯むことなく受け止め、静かに言葉を続けた。
「貴方から伝え聞くことでどれだけプライドを傷つけられるか、考えて差し上げて下さい」
 の立場を守ろうというのではない、と敢えて明言されることにより、馬超の感情が大きく揺らいでいるのが見て取れた。
 馬超にとって、馬岱が如何に大切な存在なのかが知れる。
 人の繋がりの、何と脆く堅固なことか。
 複雑怪奇な筈の感情の糸ですら安易に読み取れてしまう諸葛亮という人となりの恐ろしさを、は改めて空恐ろしく感じていた。
「……悪いんですけど、先に帰ってもいいですか」
 酷く疲れた顔をしたが、ぽつりと漏らした。
 馬岱贔屓のにとって、が馬岱を選ばなかったことが少しばかりショックだった。
 まるで自分が選ばれなかったかのような胸の痛みが、を苦しめている。
 趙雲がの肩に手を回し、優しく抱き寄せる。
「特に話すべきこともないでしょう? なら、ここで解散したらどうかしら」
 が場を仕切り、一同はその場で解散することになった。
 誰もが程度の差はあれ、苦い感情を抱いている。
 どうしてこうも上手くいかないのか、訳が分からなかった。

  

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