「女性の方は、口に咥えさえすれば男が気持ちよくなるものだと思っておられるんですかね」
 馬岱は宙を見ながら、リラックスして四肢を伸ばしていた。
「どう思います?」
 はおもむろに顔を上げると、ベッドから降りた。
「怒ったんですか?」
 馬岱が起き上がると、は取り上げたブラウスを放り投げた。
「人が咥えてる最中にンなこと言うからでしょうが」
 互いに全裸で、ラブホテルにしけこんでいる。
 馬岱が口淫をねだったので、が了承してフェラチオしていたところだった。
「いや、同じ女性としてさんの意見を伺いたいなぁと」
「口に×××咥えて何をどう話せってんだ、あんたは」
 続き、というように両手を伸ばしてくる馬岱に、は溜息を吐きつつベッドに戻る。
「口でしてくれるのは嬉しいですよ。でも、ただ咥えるだけであんあん喘ぐってことにはならないじゃないですか。女の人じゃないんですから」
「女だって、ただ突っ込まれてりゃ気持ちいいって訳じゃないわよ」
 馬岱が話を切らないので、は手で擦りながら舌を這わせる。
「そりゃ、だって、男だってずっと腰振ってるだけじゃないでしょう? それと同じで、咥えてもらうだけじゃ気持ちよくないんですよ」
 口の中とあってはこちらから腰を振る訳にもいかないし、と口淫の最中とも思えぬ程、馬岱は酷く呑気だった。
「……下手だって言いたいなら止めるけど」
さんは上手いですよ。そうじゃなくて、一般論の……話です」
 鈴口を突付かれて、馬岱は一瞬仰け反った。
 ざまを見ろ、と多少気分を持ち直したは、カリの部分にちろちろと舌を這わせる。
「あ〜……上手い、ですよ、さん」
「あっそ」
 今更褒められても嬉しくない。
 根元に舌を移すと、馬岱は再び軽口を叩き始めた。
「……だから、何と言うか、そういう空気があるんですって。上手いよ、気持ちいいよって……喘いで、や、らないと、いけないみたい、な」
「言えばいいでしょうが」
 手で強く擦り上げると、馬岱は気持ち良さそうに目を瞑る。
 しゅ、しゅという摩擦音と共に、の手の中で馬岱のものが膨れ上がる。
「口で、言うと、何か……醒めるでしょう、お互い……何て言ったらいいのか……何だかこう、してあげてるんだ、感謝しろ……みたいな……」
 そういうの、醒めるでしょう。
 途切れ途切れに喘ぎながら、馬岱は無理矢理言葉を綴る。
「お互い様だと思うけどね」
 醒めると言うならやらせなければいいだけの話だ。
 下手だと言うなら教えて遣れと思う。
 はそうして『仕込まれて』きた。男嫌いで通してきたから彼氏を作ったことはないし、男は一人しか知らない。
 その男が大のセックス好きで、快楽を得る為なら大概のことはしてきた。鞭や蝋燭、スカトロの類以外は、一通りこなしたと思う。
 この年でセーラー服を着たこともある。それ用のコスチュームだったが、こちらがどん引きするぐらい興奮されて、服の上から精液ぶちまけられてしまった。洗濯するしかなくなって、洗濯したら縮まって、それっきりだ。
 口淫も、教え込まれた性技の一つだった。
 上手いかどうかなど、分からない。
 馬岱が口を閉ざしたので、は改めて口に含む。
 舌で舐めたり口の中で締め上げると、馬岱のものはびくびくと踊った。
 年が若いせいか、元気がいい。
 早々変わらない年齢の筈だが、は馬岱のものを見てそんな風に感じた。
「あ、あ、さん、出ます、出る、ああっ……!」
 馬岱の手がの後頭部を押さえ付け、の口内に生臭い汁が飛び散る。
 やむなく飲み干しながら、馬岱の嬌声を何となく聞いていた。
 ちゅぽん、と音を立てて肉を吐き出す。
 舌の先から糸が引いて、つっと伸びた。
「……さん、本当にフェラ、上手いですよね」
 褒められても困るな、と思った。
 馬岱の指が伸びて、の秘裂を撫で上げる。今度はこちらで、ということらしい。
「あんたがこんな減らず口多い男だとは、思わなかったな」
 倒されながらが言うと、馬岱は悪戯っぽく笑った。
「何だか私は、真摯で世話好きな男と言うイメージで見られるようでしてね。お付き合いする方お付き合いする方、皆さん何かと頼みにして下さるもので」
 いいことではないのか。
 が首を傾げると、馬岱は笑いながらの眦にキスを落とした。
「どちらかと言うと、甘えたい方ですよ、私は。それに、言い難いことですが、どうも皆さん普段頼りにしているご褒美とでも思われるらしくて、強姦紛いに乱暴されるのがお好きでしてねぇ」
 好きにしていいと言わんばかりにマグロになってしまうのだそうだ。それこそ、脱がせるのも腰を振るのも馬岱任せで、本人は馬岱の好きにさせてやっている、さぞ満足なことだろうと悦に浸っているらしい。
 リクエストにうかうか応えてしまう自分も悪い、などと一見殊勝なことを言っているが、そうでないのは話の内容からして明らかだ。
 それにしても口が悪い。
 人当たりは良さそうに見えたのに、案外と毒舌家なのだ。
 第一、他の女との遣り取りをに聞かせる神経が分からない。褒めて気を良くさせる手立てとでも思っているなら、お門違いも甚だしい。
 は、顔も知らない女の子達の未熟を嘲笑う程、太い神経ではないのだ。
 何だかむっときて、言い返してしまう。
「男だって、そういうのあるんじゃないの。昼は貞淑な妻、夜は娼婦って二面性がいいとか何かに書いてあったけど」
 人によるだろうという馬岱の主張は、成る程確かにその通りだと思われた。
 は割合、蹂躙されることが多かった。
 それが好きだとは口が腐っても言いたくない。
 好むと好まざるに関わらず、あの男は自分のしたいようにする。蹂躙目的ではなく、今したくなったというただそれだけの理由でを犯すのだ。
 考えてみると、動物と変わらない。
 良く付き合ってたなぁと、我ながら感嘆する思いだ。
「どうか、しましたか」
 馬岱の目が、の心の奥底を探るように覗き込んでくる。
 苦笑して、気だるく髪を掻き上げた。
「……あんた、どうしてこんな時でも敬語なの。私が年上だから?」
 何となく口にした質問に、馬岱は口を閉ざす。
 重い空気に、問うてはならぬことだったかと胸が急いた。
「……どうして、なんでしょうね」
 分からないと呟いた言葉に感情はなかった。
 ややこしい男だな。
 は馬岱の首に腕を絡めると、その下から抜け出した。
 疑問を表情に映す馬岱に、はいいから寝転がれと軽く蹴りを入れる。
「騎乗位でいってみよ、騎乗位で」
 馬岱は、はぁ、とおざなりに頷いて、の言うまま寝転がる。
「それにしても、ムードないですね」
「別に、だって付き合ってる訳じゃなし」
 セフレとして、欲求不満を解消しているだけだ。
 の言葉に、馬岱は納得したようなしないような複雑な表情だ。
「何よ」
「だって、この間初めてしてから一週間経ってないんですよ。どれだけストレス溜まってるんですか」
「滅茶苦茶溜まってるわよ」
 うるさい黙れ、と腰を落とすと、鈍い衝撃と共に馬岱の肉が入り込んでくる。
 ゆっくり腰を下ろしている最中、馬岱が茶目っ気を出して腰を突き上げた。
「茶目っ気、ちゃうわっ……と、こら、勝手に……」
 跳ね上げられ、次第に馴染む膣が快楽を呼び覚ます。
 腰を振って応えると、馬岱も小さくうめいて眉を顰めた。
、さんを仕込んだ人、よっぽど上手かったんでしょうねっ……」
 また減らず口を。
「あんた、最中に他の男の話すんなとか、言ってなかっ、たっ、け……?」
 言いました、と馬岱は素直に頷いた。
「でも、腰とか使うの、凄く……上手い、な、と、あぁ、あ」
「黙ってさっさとイッちゃいなさい、よ、バカ」
 空手をやっていた名残で、足腰のばねにはそこそこ自信が有る。
 騎乗位は眺めはいいけどなかなかイけねぇんだよな、でも、が乗ると、すぐイきそうと笑っていた男の言葉が蘇る。
「……ホラ、気持ちいいんでしょ。イきなさいよ、ほら、ほらぁ……っ……」
 あの男相手なら絶対言わない言葉を、馬岱には平気で言えてしまう。
 絶頂を堪える馬岱の艶めいた顔を見下ろしながら、は目を閉じ自ら引き出す快楽を貪った。

さんて、女王様願望強い方ですか」
「知らんよ、そんなこと」
 事を済ませ、休憩していた。
 もう一度してもいいし、でも仕事も忙しいからこのまま帰ってもいいかな。
 余裕を残すセックスは、スポーツと何ら変わらない。
 こういうのも、悪くはないなと思った。
さん、俺と付き合いません?」
 俺?
 耳聡く聞きつけたものの、別にいいかと受け流した。
「ヤダ。セフレっつったのあんたでしょ」
 すげなく拒絶すると、馬岱は大袈裟に不平を漏らした。
「だって、もうすぐクリスマスですよ。イヴに一人身なんて、キツイですよ」
「何であんたを楽しませる為にお付き合いせないかんちゅうねん」
 それに。
 気持ちがすれ違ったままクリスマスを過ごすのは、一人身よりももっと寂しい。
「え、何ですか」
 馬岱には聞こえなかったようで、は笑って誤魔化した。
「シャワー浴びよっか。おねーさんが馬岱君のお××××、キレイキレイしてあげまちゅからねー」
 さすがにそれは、と馬岱ががっくり項垂れて、はけらけら笑った。
 涙が出る程笑った後、うつ伏せになった馬岱の背中にえいと飛び乗る。
「重っ、重いですよさん」
「失礼だな、君は」
 しかし馬岱は、に圧し掛からせたままくすくすと笑っている。
 子供っぽい無邪気な笑みが、あの男と重なった。
「……クリスマスの週はさー、私、偽薬の日だからさー」
 何の気なしに口にする。
 馬岱は、偽薬という耳慣れない言葉に不思議そうな顔をしたが、の言葉を遮ることはなかった。
「でも、この間の忘年会で、いいシャンパンもらっちゃったからさ。セックスしないでいいんなら、呑みに来る?」
「家に?」
「汚いけどね」
 ゴミ屋敷だと文句垂れられたこともあるが、一部屋片付ける分にはさほど手間もかかるまい。
 馬岱は、を見詰めながら穏やかに笑う。
「俺が、片付けてあげますよ。何なら料理も作りましょうか」
 まただ。
「へー、料理できんの」
 何気なく流す。
 馬岱いわく、従兄が我がままで外食は食べ飽きたとうるさいので、馬岱が作らざるを得なかったのだという。
「じゃ、作って」
「……さん、家事、全然駄目なんでしょう」
「うん、駄目」
 が平然と答えると、馬岱は新鮮だと言って笑う。
 今まで馬岱が付き合ってきた女の子は、料理上手の掃除上手で、馬岱が料理を作ることなどまずなかった。だから、新鮮なのだそうだ。
 勢いで、二人で食べるだろうディナーメニューのリクエスト大会になった。満願全席とか高さ三メートル越えのウェディングケーキとか、絶対に作れなさそうなメニューを次々挙げるに、馬岱は声を上げて笑っている。
 俺、と馬岱が一人称を変えた理由は定かではない。
 だが、が馬岱にとって愚痴を吐ける場所になるのなら、少しぐらいは甘えさせても良いかと思い始めていた。
 たぶん、馬岱も無理をしてきた奴なのだろう。
 自分と同じに。
 そうして傷を舐め合っているような後ろめたさには、蓋をした。

  

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