互いに登り詰め、半ば気を失うようにして眠りに落ちた。
が目覚めたのは、まだ外が日の光の恩恵を浴びる前の時間で、何故こんな時間に目が覚めたのか一瞬不思議でならなかった。
見知らぬ天井、普段と肌触りの違うシーツ。
そして、腹の上で蠢く誰かの体温にやっと気がついた。目覚めの原因は彼だ。
が目覚めたことに気がつくと、張遼は身を起こしの面前に顔を近付けた。
覆われた体の一部、漲るような固い感触がの下腹を擦り上げた。
猛っている。
男の生理現象なのか、それとも傍らで眠るの体温に触発されたものなのか判断はつかない。
口付けは、の許しを依願する言葉と同義に思えた。
昨日から今日にかけて、何度目になるだろう。既に腰から下がだるく、痺れている。
疲れを知らぬ張遼に、並々ならぬ飢えを感じた。
飢えている。ならば、与えてやらねば。
義務感めいた感情がの中に芽生え、は無言のまま張遼の頭を抱いた。
張遼はの腕に抱き寄せられるままに抱かれ、その胸の膨らみに顔を埋めた。
手の平で擦り、指先で摘み上げ、舌で転がす。
敏感な先端の朱を嬲られ、は艶やかな声を上げた。
埋め込まれる昂ぶりの質感に、痺れていたはずの腰はびくんと跳ね上がった。
二人でシャワーを浴び、互いに互いの体を清め、は張遼に送られて自宅のマンションに向かった。
張遼はから道順を聞きだすこともなく、極自然にマンション前に車を着けた。
知っていたとしか思えない。
考えようによってはストーカーのようだ。
がくすりと笑い、張遼は目だけをに向ける。
無表情だが、目に疑問符が張り付いているようだ。意外と素直な男なのだ。
自分にだけかもしれないが、と思うと、何となく誇らしげな気持ちになった。
の胸の内を測りかねたのか、張遼が尋ねてくる。何でもない、と誤魔化して、は車を降りた。
「ここで待っていよう」
張遼の申し出は有難かったが、は首を横に振った。
「まだ時間早いですし……二人で出社なんかしたら、すぐ噂になっちゃいますよ」
それが何かと言わんばかりの張遼に、は苦笑した。甘寧と噂になったばかりで、今度は張遼と噂になったら、それこそどんな悪評を立てられるかわからない。波風は立てないでおくに越したことはない。特に、のようなただの事務職の女なら尚更だ。
「魏に、戻ってこられればいい」
何であれば、そう続けて張遼は口を閉ざした。
「え、何ですか?」
が続きを問いかけると、張遼は微かに首を振った。
「……こんな場所で、ことのついでのように申し上げるべきことではない。日を改めて、また申し上げよう」
を見上げる目が少し優しくて、はきゅっと引き締まるような、それでいて甘美な鼓動を感じた。
車のドア越しに口付けを交わす。人目を気にすらしなかった。人気がない早朝とは言え、路上でこんなことをするようになろうとは思ってもいなかった。
大胆な行動を取れる自分に驚き、くすぐったいような喜びには微笑みを浮かべた。
張遼は、の微笑みに目を細め、優しげな表情を向ける。
「では、後程」
「はい」
はっきりとした約束はしていなかったが、後でまた会えるだろう。あの書庫でだろうか、と考えると、陵辱の記憶も甘やかな秘め事に一変する。
顔が赤らみ、は自分のお手軽さに呆れつつ、出勤の時間までの時間配分を考え慌ててエレベーターに向かった。
着替えを済ませ、軽く食事を済まし、化粧をして出勤する。
思いの外手間取り、会社に着いたのは出勤時間ぎりぎりだった。
昨日、書庫整理に出たまま戻らなかったことに、上司からお叱りを受けると覚悟していたは、だが何の呼び出しも音沙汰もないことに首を傾げていた。
手持ちの仕事を済ませ、書類を纏めて、様子見がてら上司に恐る恐る近付く。
判子を頼むと、上司の呂蒙は何事もなく受け取り、書類に目を通し始めた。
普段と違ったところもなく、は逆にはらはらとした。
呂蒙は判子を押すと、に書類を返してきた。
「……あの……」
思い切って、から切り出すことにした。あまりにも居た堪れなかったのだ。
「き、昨日は、すみませんでした」
ところが、呂蒙はきょとんとしてを見返した。
「昨日? ……あぁ、そうか。遅かったのか?」
「え? あ、えぇと、はい……」
呂蒙の反応は、予想外といっていい。動じず、何の疑問も持たずにいる。
「魏から応援要請があるのは滅多にないが……あのTEAMも、最近は人事の件では色々あるようらしいな。まぁ、借りを作っておいて損になるわけでもない。お前も面倒だろうが、こちらも今は手が空いておるし、手伝ってやってくれ」
はぽかんと口を開けた。呂蒙の口振りからすると、どうも張遼が手を回しておいてくれたらしい。
「……え、と、でも……」
「ん? 俺に報告なら、別にせんでも構わんぞ? TEAM同士の業務への干渉は、基本的にはタ
ブーだからな。とは言え、人事に関してはそうもいかんし……お前は昔、魏に居たのだから向こうも使いやすいのだろう。書庫じゃ、電波も入りにくかろうて」
書庫は、特製故に携帯の電源も入りにくい。中に内線が引かれており、連絡する際はそれを使うのが常なのだが、古い作りの為か、広さに反して受話器は一つきり、しかも内線専用機とあって使いにくいこと甚だしい。携帯で連絡の遣り取りをするようになった昨今では、尚更だ。
の日頃の真面目さからか、呂蒙のへの信頼は深い。昨日も、張遼の急な依頼で書庫にこもっていたと信じて疑ってないようだ。
嬉しい反面、複雑な思いに駆られ、はただ黙礼して席に戻った。
「」
突然脇から肩を抱かれ、ぎょっとして振り返る。甘寧がそこに居た。
「これ、書庫に戻さなきゃいけねぇんだけどよ。手伝ってくんね?」
見ると、甘寧の背後には台車に詰まれた資料が山のように積まれていた。ここ最近の持ち出し分が溜まっていたらしい。
いつものことではあるのだが、は困惑した。
書庫とは、あの書庫のことだ。
甘寧と共に行くのは憚られた。
「……自分で片付けなさい、自分で」
努めて明るく声を作り、普段の自分を演出する。
甘寧は、うぇ、と頓狂な声を上げた。
「あんなだだっ広い書庫に、コレ整理して返すのかよ。俺に出来ると思ってんのかぁ?」
は眉間に皺を寄せた。
昔ならいざ知らず、あの書庫はが長年こつこつと整理し、やっと統計だてて配置したものだ。まだ細かいところは終わってなかったし、運び込まれる資料は膨大でなかなかおっつかないのだけれど、TEAMを問わず、こと人事部でのの業績を称える声は大きい。
いわば、あの書庫はの城のようなものなのだ。だだっ広いだの整理できないだのと貶されては(例えそんなつもりがなかろうとも)、腹立たしくもなるというものだ。
「わかりやすいようにしてあるでしょ。テープの色とナンバー見て、書庫の棚と見合わせればいいんだから」
「面倒臭ぇ」
適当に突っ込んでおきゃいいか、などと恐ろしいことを言うので、は悲鳴を上げて甘寧を追った。
「ほら、色とナンバー併せて、棚見ればすぐわかるじゃない」
見る見る減っていく台車の資料を片付けながら、は甘寧に文句を言った。
甘寧も、生返事しながら資料を片していく。特にこれは何処だのあれは何処だの聞いてくることもない。
何だ、一人で出来るんじゃない。
は肩透かしをくった気分で、資料を抱えて仕舞っていった。
ファイルの背表紙に振ったナンバーを見て、ぎくりと顔を強張らせる。
「……どした?」
台車前で座り込んでいた甘寧が、訝しげに見上げてくるのを誤魔化し、は目当ての棚に向かった。
奥の方に、乱雑に脚立が置かれているのが見える。
昨日、張遼に乱暴された場所だ。
複雑な感傷が胸を過ぎり、は息を大きく吐いて奥に進む。棚にファイルを仕舞おうとした時、どこからかがちゃん、という音が響き、身を竦ませた。
すたすたと足音が近付いて来る。
が棚と棚に切り取られた空間を凝視していると、そこに突然甘寧が現れた。
瞬きのタイミングと上手く合ってしまったのか、本当に突然現れたかのような錯覚に捕らわれた。思わずファイルを取り落とす。
と、何かの拍子でレバーが浮き、中の資料が散乱した。
飛び散った資料を慌てて拾い集めていると、背後から抱き締められた。
「ちょ……ふ、ふざけないで」
「ふざけてねぇよ、がケツ向けて誘うからいけねぇんだろ?」
耳元でくつくつと笑う声に、鳥肌立つ。
冷静に、と自分に言い聞かせて資料を拾い集めた。
抱きついている甘寧をそのままに、集めた資料をページ順に数え、抜け落ちがないか確認する。
どうやら全部拾えたようだった。安堵してファイルに閉じ直す。
「……ほら、もうふざけてないで」
ファイルを棚に戻そうと立ち上がろうとして、背後の甘寧を諌める。
振り返った先の甘寧の目が、鋭い光を放っていた。
瞬間的に恐怖に駆られ、は甘寧の腕から逃げようとする。それを突き倒し、這わせると、甘寧はのスカートを捲り上げた。
「や、何考えてんの!」
押さえようとした手を逆に取り押さえられ、捻り上げられる。痛みに悲鳴を漏らす間に、甘寧の手はのショーツをストッキングごと引き摺り下ろしてしまった。
「パンツ、濡れてんぜ?」
いやらしいなぁは、と侮蔑の言葉を囁かれ、恥辱で頭の中が真っ赤になる。
甘寧の指が、の秘部を弄った。
薄い襞の部分を撫で回し、潤いを促すと朱玉に移る。形を確かめるように撫でまわされ、緩やかでいて強烈な刺激には悲鳴を上げた。
「やだ、やだ、こんなとこで……!」
甘寧は首を傾げ、擦り上げる指はそのまま、の体に圧し掛かる。
「こんなとこ?」
蔑み笑う声が、を脅かす。
「その『こんなとこ』で、昨日あんあん啼いてたの、誰だったっけか?」
心臓が止まるかのようだった。
さっと青褪めるを、甘寧は引き攣った笑みで見詰めた。
「……やっぱりかよ」
「違……!」
違わない。けれど、甘寧が思っているようなことでは決してない。
甘寧は、の言葉を必要とはしなかった。言い訳も、詫びも、すべて拒絶した。
己の猛りを取り出すと、勃ち上がりきっていないそれを無理矢理の中に沈めた。
勢い良く突きこまれたそれは、ぐぷ、と濁った音を立ててを貫いた。
甘寧が手を添え、抜けないように気遣いながら腰を揺らすと、まるでの愛液を吸い取ってでもいるかのようにぐんぐんと硬度と質量を増した。
体の奥で大きくなっていくものの存在に、は身震いした。甘寧のものに、体の中が貪られているような気がした。
恐怖が体を強張らせ、興奮を呼び覚まし、甘寧のものをきつく締め上げた。
「……喜んでやがる……エロ女」
は首を振って否定したが、膣は更に狭まり、甘寧の言葉を肯定しているかのようだった。
より深く穿とうと、甘寧はの腕を引き、上体を持ち上げる。
浮き上がった体が不安定さを生み、その不安定さ故に甘寧のものをきつく締め上げる。
「っ、食い千切る気かよ……!」
痛みすら呼び起こすの秘部に、甘寧は腹を立てたように乱暴に腰を突き立てる。柔らかな脂の乗った尻が、その激しさに耐えかねて赤く充血していく。
「も、もう……もう……」
耐えかねたが許しを請うと、甘寧は口の端を歪めた。
「中に下さい、お願いしますって言いな。そしたら、終わりにしてやる」
は首を振って拒絶する。
甘寧の目が吊り上った。
「……そうかよ」
手を離し、の腰を掴み直す。が崩れ落ちるのも構わず、腰だけ引き上げ、その足を跨いだ。
ほぼ垂直に引き摺り上げられ、下腹部に混じりあった愛液が滴り落ちる。無理な体勢のまま甘寧はを貫き、翻弄した。
「……いく、ぜ」
「いや……! 嫌、お願い、嫌!」
の悲鳴は甘寧を煽るのみだった。
甘寧は喉を反らせて甘く呻くと、の中に大量の精液を放った。
「いやぁっ!」
手を伸ばしたところで押し留められるものでもない、けれどはそうせずにはおられなかった。
その手を、甘寧が捕らえ、己が手に繋ぎとめる。
「……あんた、俺のもんだ。俺が、初めてあんた感じさせてやったんだろ? 責任取るって言ったじゃ
ねぇか。あんたをもらうって、俺、言ったよな? 言っただろ? なぁ、そうだったろ?」
手と、秘部を繋いだまま、甘寧は器用に体勢を変えた。腰の上にを乗せ、あやすように揺らす。
の中に埋め込まれた甘寧のものが、徐々に力を取り戻していく。の中を擦り上げ、は甘い呻き声を漏らした。
「好きだ。俺、あんたのこと、ここに来てからずっと好きだったんだよ。だから、あんたとこうなれて、すっげぇ嬉しかった。俺、マジなんだよ。信じてくれよ。な、信じてくれよ」
の目から、涙が零れ落ちた。
「……わかんな……私、どうしたらいいのか、わかんないよぉ……」
ぼろぼろと涙を零すを、甘寧は痛みを分かち合うかのようにぎゅっと抱き締めた。
「俺はあんたが欲しい……んにゃ、必要なんだ。あんたなしの生活なんて、俺にはもう、考えらんねぇよ」
甘寧はの頬に顔を摺り寄せ、柔らかな口付けを幾度も送る。濡れた眦に舌を這わせ、丁寧に拭っていった。
薄っすらと目を開いたを、触れ合うぎりぎりのラインを保って見詰める。吐息が肌をくすぐるほどの近さに、は不思議な安堵を覚えた。
「好きだ」
の胸に楔を打ち込むような、ひたむきな告白だった。
甘寧はを抱き締め、は体が繋がっているのが嘘のような、穏やかな温もりに包まれた。
決めたと、思ったのに。
は、肩を抱きこむ甘寧の5本の指の感触が、じりじりと肌に焼き付けられているような気がした。
続