一日置いて、ようやくは出社することが出来た。
 朝一番に出て、フロアを掃除し全員の机を拭いた。
 二番目に出てきた後輩の陸遜が、恐縮して頭を下げた。
 面倒な掃除当番というシステムは、この会社にはない。そんなことをするならそれだけ仕事に熱を入れた方がいいということらしい。
 清掃業者を雇い入れてはいたが、やはり気分的には自分できちんと掃除した方がいい。業者が手を抜いているとは思わないが、やはり隅から隅までという訳にはいかないようだったし、何よりいい気分転換になる。
「いいの、ずっと休んでたし、迷惑かけちゃったかもしれないから」
 陸遜は微笑み、辺りを見回してからの耳元に口を寄せた。
「実は、甘寧殿が思いの外頑張っておられて。殿がこなすようにとはいきませんが、お気に止むほど業務が滞っているわけではありません。どうぞご安心下さい」
 そう言って、デスクに向かっていった。
 陸遜の言葉が真実かはわかりかねたが、甘寧が頑張っていたというのは事実のようだ。
 のデスクには、書類はほとんど溜まっていない。
 以前、実家の法事で急遽一週間ほど休まねばならなかった時があったのだが、戻ってきた時には笑いがこみ上げるほどうず高く書類が積もっていて、思わず鞄を取り落としたほどだ。
 ちょうど繁忙期で、呂蒙の手が回りきらなかったこともある。
 すまん、と苦笑いされて、その遅れを取り戻すのに呂蒙ともども三日ほど会社に泊まりこんだ。
 がデスクに腰掛けて書類に目を通していると、陸遜がコーヒーを持ってきてくれた。
「ずいぶん早かったようですが、朝食は?」
 は黙って肩をすくめた。
「いけませんね、朝はきちんと食べなくては」
 陸遜は自分が買ってきたサンドイッチを出すと、に勧めてきた。
 食欲はなかったが、折角の好意を無下にするのも気が引けて、野菜サンドを一つもらうことにした。
「呂蒙課長、心配されてましたよ」
 何気ない言葉に、は俯いた。
「……でももう、大丈夫なんですよね?」
 陸遜が微笑む。
 はこくりと頷いた。
「よかった。憧れの先輩がこのまま辞めてしまったらどうしようって、私も心配していたんですよ」
 へ、とが顔を上げると、陸遜は照れ臭そうに笑った。
「大丈夫ですよ、私も身の程は弁えてますから。あぁ、でも、もし気が向いたら是非お願いします!」
 ふざけて言っているのか本気なのかわからない。
 陸遜がデスクに戻っていく後姿を見詰めながら、はこっそりと『最近の若いもんは』と呟いた。

 呂蒙が出社してきた。
 は、デスクに着いた呂蒙の元に出向くと深々と頭を下げた。
「ご迷惑をおかけしました」
 頭を下げたままのに、呂蒙は目もくれない。
「もういいのか」
「はい」
 問いかけられて頭を上げると、呂蒙は初めて笑みを浮かべた。
「……このまま辞められてしまったらどうしようかと思ったぞ。もう二度とこんな真似はしてくれるな。頼むぞ、まったく」
 仕事が山になっていると言われ、は自分のデスクを振り返った。
 朝来た時にあった書類はとっくに片した。別の部署に持っていかなくてはならない書類もあったが、それも持っていけば終わりだ。
「え……と……?」
 呂蒙は無言で背後を指差した。
 大きなダンボールが二箱、縦に積まれている。
「……え、まさか」
「そのまさかだ、常務の気紛れが始まった。再来月に招待客を集めてプレゼン兼ねてセールをやるそうだ。しばらく残業してもらうぞ」
 常務の孫策は野生児みたいなところがあって、突然思い立って企画を打ち上げる。それがまた不思議なほど当たるのだが、その準備を任される課は溜まったものではない。大抵ぎりぎりの準備期間しかなく、酷い時は来週やる等と戯けたことを言うので、嵐のような業務期間を迎えることになる。
「わかりました、じゃあ早速今日から泊り込みで」
「いいのか」
「幸い、今日は生ゴミの収集日でしたので。台所が汚染される心配さえなければ、何とでもします」
 ぷっと吹き出す呂蒙にウィンクして、は腕まくりしてダンボールの中身を漁りにかかった。

 大事な話があるから、と甘寧に呼び出され、書庫に連れて行かれた。
「忙しいのよ……何で書庫なのよ」
「人が居ないし来ねぇだろ」
 まだ内緒の話なんだよ、と笑う。
 甘寧は扉に鍵をかけると、を奥へと引っ張り込む。
「何、どうしたの」
 やたらとにやにやしている癖に、ちっとも話し出そうとしない。やり途中だった諸計算に思いを馳せると、いてもたってもいられなかった。
「ねぇ、ホントに何」
 イライラとして問い詰めると、甘寧はに甘えるように肩口にもたれかかってきた。
「……キス、してくれたら教えてやる」
「何それ」
 ホントに忙しいんだってば、と言いつつ、は甘寧の唇にそっと自分の唇を当てた。
 嬉しげに唇を舐める甘寧に、は頬を染める。
「ま、ベラ噛みのディープじゃねぇけどいっか」
「馬鹿なこと言ってると、ホントに帰るよ」
 邪魔な資料を片付けるという名目で出てきたのだ。これは甘寧一人でも片付けられる仕事なのだが、何故か呂蒙は黙認してくれた。
「あのな。まだ正式じゃねぇけど、俺、ここに就職できることになった」
 突然の話に、の目が丸くなる。
「うそ、凄いじゃない! 良かったね!」
「ん、まぁな……前からおっさんに声掛けられてはいたんだけどよ、その……とのこと、はっきりしてからと思ってよ」
 自分の名前が何故そこで出るのかわからず、は甘寧の顔を覗きこんだ。
「……だってよ……俺と駄目になったら、、ここに居辛ぇだろ……?」
 言いにくそうに目をそらす甘寧に、は思わず言葉を失った。
「俺、一応マジだったし……だって、やっぱバイトとじゃマジに考えらんねぇだろ? だから、俺もちゃんと仕事決めて、胸張ってお前と付き合ってるって言いたかったから、よ」
 へへ、と照れ臭そうに笑う甘寧に、はしがみ付いた。
 甘寧がよろけて壁に背を着くと、はそのまま唇を押し付け、自ら舌を差し出す。甘寧も答えて強く吸い上げた。互いの呼吸も奪い合うような激しいキスだった。
「……馬鹿、勃っちまっただろ……」
 唇を離して吐き出される息が、熱く湿っている。
 甘寧の言葉通り、甘寧の昂ぶりはジーンズの厚い生地を押し上げ、きつそうに浮き上がっていた。
「……口で、してあげようか」
 お祝いに、と言うと、甘寧が笑う。
「そんなら、の中のがいい。お前ん中、挿れてぇ」
「……この間、いっぱいしたでしょ」
 一昨日の話だ。が赤面して逆らうと、甘寧はの腰に手を回し、自らの腰を押し付けて揺らした。
 挿れられた訳でもないのに、の口から甘ったるい声が漏れる。
「つったって、5回しかしてねーじゃん」
「……あのね。5回もしたら、普通はお腹いっぱいなの。やり過ぎなの。わかる?」
 わかんねー、と茶化して、甘寧はのスカートのホックを外しにかかる。
「あっ、こら!」
 チー、と軽い音をたててファスナーが降ろされる。
 甘寧の指が滑り込んできて、ストッキング越しにの尻の割れ目を撫で上げた。
「ゴム、こないだの余りがあっから」
 耳元に囁いてくる甘寧に、は上目遣いに睨めつける。
「仕事中にこんなことして、クビになったらどうする気よ」
「今日だけ、今日だけ」
 へら、と笑う顔が無邪気で、可愛いとさえ思えた。
 ああ、もう。
 ずり落ちるスカートを押さえながら、甘寧の手をとって更に奥に向かう。
「一回だけ、だからね。早くしないと駄目だからね」
 言いながら、意思の弱い自分に情けなくなった。

 スカートを畳んで棚に置き、ストッキングとショーツを順々に下ろす。
 甘寧はその場にしゃがんで、にやにやしながらを見上げていた。
「何見てんの」
「すげぇ、いい眺め」
 馬鹿、と詰ると、甘寧はずりずりと前に進み、そのままの足の間に顔を寄せた。
「……時間、ないって」
「んでも、濡らさねぇと」
「……もう、濡れてるってば」
 ちろりと舐め上げられて、はびくりと腰を揺らした。
「ホントな」
 甘寧は立ち上がると、同じように下だけ脱ぎ捨てた。自分の昂ぶりに手早くコンドームを装着すると、に向き直る。
「早く、終わらせてね」
 上がった息を堪えながら、甘寧の首に手を回す。
「ソレ、急いでってことか、それとも、激しくってことか?」
「……両方」
 不貞腐れるように返事をするに、甘寧が耳元でくっくっと笑う。
「了解」
 囁くついでにの耳に舌を這わせ、片足を持ち上げる。露になった秘裂に昂ぶりを押し当てると、一気に突きこんだ。
 衝撃を耐えている時、ふと気がついてシャツの裾をまくり上げた。白い腹が露になる。
「……どした?」
 震える呼吸を抑え、甘寧が尋ねてくる。
「汚れちゃう、もん……」
「そっか」
 の腹のラインを、甘寧はじっと見詰める。視姦されているような気分になって、の中は自然に甘寧を締め上げた。
 緩く突き上げ始める甘寧に、の体に汗が滲み始める。
「……早く」
「ん、つか、もうイきそう……」
「早いよ」
 思わず口走った言葉に、は慌てて口を押さえる。
「何だよ、だって楽しみたいんじゃねーか」
 顔を赤くして口をぱくぱくさせているに、甘寧は笑いが止まらない。体を震わせて笑うもので、膣の中をも微妙に震わせて、は甘い声を漏らした。
「んじゃ、が満足するくらいまでは我慢すっか」
「……うん」
 真面目な顔をして不真面目な打ち合わせを済ませ、甘寧はの体を抱え直した。
「……っあ……あん……っ」
 打ち込まれる昂ぶりに声が漏れる。潤いが甘寧を包み、濡れた昂ぶりは更に動きを早めてを追い詰める。
 甘寧の額から汗が滲み、バンダナに吸いきれなかった分が頬に伝い落ちてのシャツに染みを作った。
「……エロ女」
 わずかながら、も自ら腰を揺らしていることに気付き、ぼそりと呟く。
「……エロい、もん……っ……もっと、して……」
 の言葉に、甘寧は少し驚いたように目を見張り、ついで笑みを浮かべて上唇をぺろりと舐め上げる。
「よっしゃ、任しとけって」
 激しく抜き差しされ、の嬌声は徐々に留められなくなり大きくなっていく。
 水音と叩きつける肉の音が書庫中に響き渡っているように聞こえ、の悦を煽った。
「あっ、あぁっ駄目、……ダメ……!」
 突然ぶるぶると体を震わせ、弓なりに強張ったの体が弛緩する。
「ちょっ、待……」
 焦ったように甘寧が叫ぶが、叫んだところでどうなるわけでもない。沈黙が落ちる。
「……もしもーし、サーン。…………早ぇよ」
 呆れたような甘寧の口振りに、は顔を真っ赤にして甘寧の肩に顔を埋める。
 げんなりした表情を浮かべていた甘寧だったが、しばらくして口元がひくひくと蠢き、堪え切れないように笑い出した。
 挿れたままけたけた笑っているので、は達した余韻に更に煽られて唇を噛み締める。
「わ、笑わないでよぉ」
「無理、メチャクチャ可愛ーし。そんな気持ちよかったのかよ?」
 にやにやとの顔を覗きこむ甘寧に、は顔を赤くしながら、こく、と頷いた。
「ごめんね……」
「いーけど。そん代わり、第二ラウンド入ってもいい?」
「ダメ」
 即座に駄目出しをするに、甘寧はむっとした顔をする。
「だって、腰抜けたら仕事できなくなっちゃう。……口でしたげるから」
 甘寧は、溜息を吐いて渋々の中から昂ぶりを引き抜く。
 足元に屈みこんだが、甘寧の昂ぶりからそっとコンドームを外した。触れると、先走りの液が漏れてでもいたのか、濡れていた。
 ぬるぬるとした感触に、手の平からぞくぞくとした悦が湧き上がる。
「大体、こんなとこで始めちゃうからダメなんでしょー」
 もう一度挿れたいという衝動に駆られて、は誤魔化すように文句を垂れた。
「犯りたがりな年頃なんだよな、俺」
 筋の通らない屁理屈をこねる甘寧に、は笑って昂ぶりに軽く歯を立てる。
「いっ……おいコラ」
「馬鹿なこと言うからでしょ」
「……何だよ、すげぇスレてね? 初めてヤった時は、マジで泣いてたくせに。まだそんなに経ってねぇだろ」
「誰のせいよ、誰の」
 甘寧がにんまり笑って、俺、と返してくる。
「そうだよ、甘寧が私を染めたんだからね」
 ちゃんと、もっと体の隅々まで染め上げて。他所向く暇がないくらい、夢中にさせて。
 口には出さず、密かに甘寧に強請った。
 胸の中にわずかな違和感がある。黒い染みのような違和感だ。染めようとしても染めきれない、黒い染みだった。
 甘寧の肉棒を舐め上げながら、時折指で擦って強く刺激する。
「忙しいの終わったら、二人でどっか行こうか。私、ラブホテルって行ってみたいな。行ったことないから」
「……そーゆーエロいことを、エロいことしながら言うなって……」
 甘寧の声が震えている。
 はより深く甘寧の昂ぶりを咥え、吸い上げた。
「……出るっ……」
 口の中に広がる粘液を、は残さず啜った。そうすることで初めて、染みが消せるような気がしていた。


  

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