孫堅と孫策の間でどういった遣り取りがあったかはわからない。
 ともあれ明朝一番で戻り、討伐を済ませた後はもう一度討伐なりに行かされるだろう、というのが偉そうに腕組みして茶を啜っている孫策の言い分だった。
 細かい話をさせようというのがそも無理だとわかっているから、も追求はしない。余程やりあったのだろうと言うことだけは、その不貞腐れた顔でわかった。
 孫策は、ちらちらと星彩を見ている。星彩は星彩で澄ましたもので、孫策の視線を完全に無視していた。
 同席した孫権は居心地悪そうに視線を伏せ、その背後には周泰が顔色一つ変えもせず控えている(周泰が顔色を変えたところなど見たことはないが)。
 が居ない間に周泰がやって来て、半狂乱だったらしい星彩を取り成してくれたそうだ。
 どんな説得をしたかはわからないが、の脳裏には、斬り付けるように立て続けに苦言を呈す星彩を、無言でじっと見下ろす周泰の姿が浮かぶ。暖簾の周泰に、腕押ししかできなかった星彩が根負けしたというところで当たらずとも遠からずだろう。
 を室に送り届けてきた凌統も呑気に茶を啜っていて、二喬も鎮座まし、周瑜が苦虫を噛み潰した顔をしている。の室はここしばらく見ないほど賑わっていた。
「……あの……」
 に声がけられ、大喬の顔にふっと翳が浮かぶ。先程のの暴言を気にしているのだろう。
「さっきは……酷いこと、言ってしまって……」
 大喬は、目に涙を浮かべて頭を振った。
「いいえ、大姐のお気持ちも考えず、勝手をした私がいけないんです。本当なら、私が大姐をお慰めしなくてはいけないのに、私に勇気がなくて……」
「お姉さまをお慰めするのは、私だわ」
 突然割って入った星彩に、大喬は驚いたように目を見張る。小喬が憤慨して飛び上がった。
「ちょっとぉ、今はお姉ちゃんと大姐が話してるんだから! 邪魔しないでよ!」
「邪魔したのは、貴女方の方。私は、これからお姉さまとご一緒する約束だったのよ」
 星彩が帰る前に、なるべく書付けを済ませようと思っていたのは確かだった。だが、書付けをやるのはだけで、星彩はただ手伝うと言っていただけだった気もする。
 下手なことを言うとまた揉めそうなので、は努めて平静を保っていた。
 なし崩しに仲直りしてはいたが、星彩の愛情にいわゆる欲情の気配を感じてしまった以上、同性だからと言って迂闊にそばに置いておけない気がした。
 不意に星彩の裸が記憶に蘇り、は顔を赤らめた。
 孫策の目が、探るようにを見詰める。
 うわぁ。
 先程煽られたばかりだっただけに、孫策のその目はに堪える。ぞくぞくとして、たまらなかった。
「……お前ら、仕事は如何したんだよ」
 さり気なく厄介払いに入る孫策に、星彩はピンとくるものがあるのか眉を吊り上げた。
「職務を放り出してきた貴方に言われたくはないわ。貴方こそ、武具の手入れでもしたら如何なの」
 一応同盟国の跡取りなのだから、星彩の物言いは非常にまずい。
 孫権と周瑜がむっとしているのがわかったし、釣られるようにして周泰や小喬も機嫌を悪くしているようだ。
「いや、あの、星彩。そう、そうだ、あの、今晩泊まりに行っていいかな」
 誤魔化そうと話題を振ってみたが、逆効果だった。
「何でだよ!」
 恐らく先程の続きをする機会を伺っていた孫策がぶち切れ、二喬も不平の声を上げる。
「いや、だって、扉に穴開いちゃったし」
「俺が開けたんだから、俺の室で寝ればいいじゃねぇか! 何でこいつの室なんだよ!」
 言っていることが滅茶苦茶だと気がついていない。怒り心頭の孫策に、は周囲に救いを求める。
「私達の室に泊まればいいよ!」
「う、えと、でも、お二人一応、室は別々ですよ、ね?」
 どちらの室に、と恐る恐る伺いを立てれば、小喬と大喬が顔を見合わせ、すぐさまどちらの室にを泊めるかで揉め始めた。
 星彩は喜色満面で、二喬の討論に水を差す。
「お姉さまは蜀の文官なのですから、同じく蜀の臣たる私の所にいらっしゃるのが当然だわ。……ですよね、お姉さま」
 に二の句を継ぐ勇気はない。
 同性だから云々、と言っていた矢先に自ら網に囚われるようなことを言い出してしまった。今更後には引けないし、実は孫策のところに泊まりたいなどとは口が裂けても言えない。一度灯った火が、の内側をじりじりと焼いていた。
「いっそ、俺の屋敷にでも来るかい?」
 凌統が軽口を叩いた瞬間、女性陣から一斉に非難を喰らい、凌統はたじたじになって冗談だと必死に取り繕わなくてはならなくなった。
「……別室を用意させる。それで良かろう」
 渋い顔をした孫権が、疲れた溜息を漏らして折衷案を出した。
 それにが飛びつき、話は収まったかに見えた。
「…………」
 後で行く、と気付かない者はないほど力強く主張する孫策の眼差しに、は顔を赤らめた。
 拒否しようにも拒否しきれない。腹の下の方の肉が、きゅうんと引き締まるのがわかる。
 したい、孫策のものを受け入れたいと体が喚き散らしているかのようだ。こんなに我慢の効かない体だとは思わなかった。
「大丈夫です、お姉さま。私がお守りいたします」
 星彩が優しげににこりと微笑む。
 は焦りながらも、こくこくと頷くしかなかった。
「お、お前、ちょっとは気を利かせろって!」
「貴方に気を利かせなければならない義理はないわ」
 いい加減苛立ったのか、孫策が明け透けに言うのを星彩はつんとしていなす。
「お前なぁ、だって……」
 その気になってた、それもすげぇその気になってたと続けたかったが、それはぐっと飲み込んだ。幾分かはまだ理性が残っている。残っていなければ、孫策はを抱えて人気のない裏庭にでも駆け込んでいたことだろう。
 孫策の侵略を待ちわびるように横たわった肢体を、孫策ははっきりと覚えている。
 恥ずかしげに目元を隠す腕、濃い影が落ちた目元は赤く染まり、唇が微かに震えて孫策を誘う。
 さり気なく隠してはいたが、孫策の昂ぶりは押さえきれないところまで来ていた。ぶっちゃけてしまえば勃起していた。
 ぎりぎりと限界以上に膨れ上がったものは、孫策に耐えがたい痛みを伝えている。自慰は端から考えにない、の肉に埋め込むことだけを熱心に考えていた。
 それこそ孫策の熱が鎮まらない原因なのだが、孫策はどうしても気付けない。
 に目で訴えるが、とてこの面前で孫策を誘い出すのは如何にもはばかられる。
 悩みぬいた挙句、お手洗いに立つことにした。
「では、私が」
 星彩が立ち上がり、を促す。
 ぎょっとして立ちすくむも、自分からトイレに立ってしまったのだから愚図愚図するわけにもいかない。
 すぐ戻るとだけ告げて、仕方なく室を後にした。
 孫策は、卓に額をぶつける勢いで倒れこむ。
 大喬が心配して隣に座るが、今の孫策には却って辛いだけだ。
 周瑜は厳しい顔で孫策を睨み、孫権は情けない兄を見ても消えない敬慕の念に自己嫌悪して、それぞれ悩ましく溜息を吐いた。

 尿意はないが、冷ますのにはちょうどいいかもしれない。
 裾をそっとめくり上げると、熱く火照った秘肉は太腿まで濡らし始めていた。
 しかし、どうしたものだ。
 星彩を待たせているから、そう長居はできない。お手洗いに時間がかかるのはある意味お約束なので(何せ高貴な方はトイレのたびに着替えるのが常識と言う話だ)、後は思い切りだけだろう。
 えい、と気合を入れてそっと指を這わせれば、背筋をぞくっとしたものが駆け上がる。
 寄りかかるのも躊躇われる、座り込むこともできない場所で、は一心に秘裂を擦り上げた。
 それでも涙が浮くほどだ。
 裾を噛んで声を殺し、熱を一気に高める。
 突然、背後から抱き締められた。
 振り返ると、星彩がいつもの冷静さでを見詰めている。
 頬が焼け付くのと同時に、新たな刺激がを襲った。
「ちょっ……星彩っ!」
 の指の代わりに星彩の指が秘裂に吸い込まれていく。柔々と撫でられ、腰が抜けそうになった。
「や……やだ、星彩……!」
「こうですか、お姉さま。それとも、こう?」
 つぷ、と音を立てて沈む指に、は声もなくのけぞった。
「や、ん、そこは……駄目っ……」
「……では、何処がよろしいのですか」
 困惑したような星彩の声に、は、星彩にとってはこの行為が何ら異常ではないのだと言うことを覚った。
 そんなものなのだろうか。同性愛とかではなくて、本当にただの奉仕としての行為が存在するのだろうか。
「星彩……っ……」
 問いかけようとして、馬鹿な質問だと我に返る。
 では、星彩のこの冷静さは何なのだろう。懸命にを煽ろうとする指は不器用でたどたどしい。崩れそうになるのを押さえようとしてか、の胸を鷲掴みにしている乱暴さが、秘裂に回された指の動きとあまりに食い違っていて、は加速する興奮を押し留められなかった。
「……ここ、ですかお姉さま」
 珠玉を執拗に嬲られ、もう隠しようがなかった。
「や、あっ、あぁっ……!」
 びくん、びくんと立て続けに二度跳ねて、はぐったりと力を抜いた。

 下半身に水を掛け、ぬめりを流し落とすと手巾で拭う。
 星彩がやろうとしたのだが、は頑として許さなかった。
 顔を赤くして渋い顔をするに、星彩は困惑して小首を傾げている。
「……私、上手くできませんでしたか」
 しょんぼりとさえするので、の内心は複雑を極めた。
「こういうことするの?」
 堪えきれずに問い掛けたに、星彩はきょとんとしている。
「中原って、そのぅ、だから、女同士でも、こういうことするもんなの!?」
 星彩はしばし考え込み、申し訳なさそうに問い返してきた。
「やはり、私は上手くできませんでしたか……?」
 だから。
 そうじゃないと喚き散らしたいのを我慢して、はトイレを後にした。すぐさま星彩が追いかけてくる。
 どうしたもんなんだ。
 性欲の対象と見られているのか、あくまで敬愛する姉に対する奉仕なのか判断できず、はおかしくなりそうな頭を抱えた。

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