孫堅は笑っているし、しかし挿れられないしでは困惑し切っていた。
 状況がどうあれ、はあくまで『取引』の為に孫堅の言いなりになっている。孫堅を満足させねばならなかったし、ここで止める訳にもいかなかった。
 孫堅に抱かれることに、迷いはなくなった。
 まったくないかと言われればそんなこともない。けれど、少なくとも嫌悪とか怖気といった類の負の感情は湧いてこない。
 淫乱だと認めたくはないが、孫堅の股間でそそり立つ肉に食欲とはまた別に『美味そう』と舌なめずりしている自分も確かに居た。
 我ながら訳が分からない。
 孫堅が、の上衣を左右に割る。
 露になった乳房を、丹念に揉み解し始めた。
 ぞわぞわして唇を噛むと、先端を指で転がされて小さく声が漏れる。
 固くしこった乳房を舌で突付かれると、確かな悦に体が震えた。
「お前がどう思おうと、お前の体は傾城のそれだ。美人は三日で飽きるが、こちらはなかなかそうも行かぬのが定説」
 また訳の分からんことを。
 口を開くと取りとめもない嬌声しか出てきそうにない。胸の内で突っ込んだ。
「もう一度、してみるといい」
 言われるがまま、は孫堅の昂ぶりを指で支え、そっと腰を下ろす。
 と、孫堅の指がするりと伸びて、の秘裂を大きく割った。
「ちょ」
 驚きで声もない。
 かなり力を篭めているのか、大きく広げられた膣口は肺に清い空気が取り込まれるような冷たい空気に晒されている。
「そのまま」
 孫堅は冷徹にに続行を命じ、互いに互いの性器を触れ合っているという奇妙な体勢で、再度の挿入を試みる。
「ん、ん……!」
 ずぶ、と鈍い音がして、孫堅の亀頭がの中に埋め込まれた。
 それでもかなりきつい。
 無意識に腰が浮き上がろうとするのを、いつの間にか腰に回っていた孫堅の手が許してはくれなかった。
「そのまま」
 トイレにしゃがみこむような姿勢で、腰だけが沈んでいく。
 ずぷ、ぶぷっと耳障りな音が立つ。
 恥ずかしさに暴れだしたくなるが、ただ腰に回されているだけの孫堅の手からそれを許さない圧力が醸されていた。
 半ば剥き出しになった裸体に、孫堅の肌の感触が心地良い。
 孫堅の腿の際に尻が落ち、傍から見れば孫堅の膝上に不敬にも座しているように見えるだろう。
「……あ、ぁ……」
 膝ががくがくと揺れる。
 閉じてはいるものの、孫堅の体を跨いでいるから肝心の繋ぎ目は丸見えだ。
 からは見えなかったが、孫堅の視線がそこに向けられていることで分かる。
「み、見ないで下さい」
 今更と思いつつ、だが恥ずかしさに上衣の裾を手繰り寄せる。孫堅が押し留めた。
「見せろ。お前が俺を飲み込んでいる様を、焼き付けておきたい」
 露骨な物言いに体の芯が熱くなる。
 孫堅が眉を寄せた。
「よく締まるな。これでは、若い者は持たぬだろう」
 言った端から締め上げてくるの膣壁に、孫堅は奥歯を噛み締めた。そうでもしてないと、すぐに気を遣ってしまいそうだ。
 狭過ぎる程狭くもなく、無論緩い訳でもない。
 吸い付くようにぴったりと咥え込まれた肉が、ざらついた壁に擦られ悦楽の波にきりきり晒されていた。
 は固く目を閉じ、内側に埋め込まれた異質な感触に耐えているように見える。
 歪んだ眉の形に、欲望が加速する。
「動け、
 ぴく、と震えた睫が、わずかに浮く。
 薄目を開けて、不貞腐れたような顔をしたが孫堅を睨め付けるが、孫堅は気にせず同じ命を下した。
 ややもして、の足にぐっと力が篭もる。
 孫堅の肩に手を置き、裸の胸を合わせると固くしこったままの乳首が孫堅の肌を掻いていく。
「……あぁっ、あ……」
 音を立てて引きずり出される孫堅の肉槍が、の愛液でぐっしょり濡れているのが染み込む冷気で分かる。
「あ、んんっ!」
 ずん、と音を立てて再び肉が沈む。
 軽く息を吐き、の体がまた浮き上がり、沈む。
 何度か繰り返し、合間合間に休憩が入る。
「どうした」
 終いには止まってしまったを、孫堅が容赦なく促す。
「……にく、いです」
 憎い、と聞こえて孫堅は眉を顰めた。
「やり、難いん、ですっ」
 沈黙を聞こえなかったと取ったのだろう、は自棄気味に怒鳴った。声が掠れているので耳は痛くなかったが、またも笑い出したい心境に駆られて孫堅は密かに堪えなければならなかった。
「寝、て、下さい……そしたら、もう少し、何とか……」
 荒い息を吐いているのは、疲れと言うよりは敏感な肌がもたらす悦に焼かれてのことだろう。
 言う通りに体を横にずらすと、長椅子に寝そべる。
 は、繋がったまま動く孫堅に中を擦られ、首をすくめて耐えていた。
 変に無駄口が多く、悦に溺れて訳が分からなくなることはない。
 けれど、理性が残っている分恥ずかしさが一向に消えてくれず、それ故に勝手が違って戸惑いも大きい。
 おかしな話だが、孫堅に性技を教わっているような感覚すらあった。
 孫堅が完全に寝そべることで、は割合自由に動けるようになった。
 膣に納めた孫堅の分身から、滾るような鼓動を感じる。
 思いつくまま、腰を前後に軽く揺さ振った。
 ぞわぞわっと湧き上がる悦楽が、の背筋を這って全身に広がる。
「ひぁ……」
 ぼぅっと霞んだ視界の片隅で、孫堅が笑っているのが見えた。
 はっとして動きを止めると、孫堅の手が下から乳房を持ち上げ、やわやわと揉む。
「いいから、好きに動くといい」
 ゆさり、と下から突き上げられ、は高く一声啼いた。
 嬉しげな孫堅の様に、はあからさまにむっとする。
「えっち、っていうか、やらしいのがお好みですか」
「男は皆、そんなものだろう」
 嫌味にも動じずしゃあしゃあとした孫堅の態度に、は妙なスイッチが入るのを感じた。
「じゃあ、やらしい女に、なってあげましょうか」
「まだ、なっていなかったか」
 それは残念、と笑われて、は負けん気までもくすぐられてしまった。
 孫堅の腹に手を置くと、膝を使って腰を振る。
 膣壁を激しく擦り上げられ、は思わず声を立てた。
「む」
 孫堅の目が顰められた。
 眉間の皺は快楽の深さに比例しているように見え、はほんの少しだけでも意趣返し出来たような満足感を得た。
 だが、それもそこまでだった。
 突然、下から腰が跳ね上げられる。
「やっ」
 文字通り浮き上がる体が、孫堅の肉槍に深く貫かれる。
 立て続けに浮き上がる体に、が腰を振る余裕はなかった。
「や、だ、駄目、私が、あっ……!」
「いやらしい女になってくれるのだろう?」
 これでは、まだまだ足りない。
 孫堅は身を起こすと、今度は逆にを横倒しに倒した。
 引っ繰り返され、驚く間もなく孫堅の腰が打ち付けられる。激しく突き込まれ、息が上がり始める。
「ひ、あ、あん、んんーっ!!」
 声を上げ乱れるの様に満足したか、孫堅の腰が不意にゆっくりとしたそれに変わった。
 の中を、まるで探るように蠢いている。
「あ、う、な、何して……」
 突き落とすなら一気に突き落として欲しかった。
 焦らしているのだと思うと腹が立ち、涙が浮く。
 もっと激しく、とか、こんなの初めて、とでも言ってやろうか。
 ぞわぞわした感触に身悶えていると、突然全身が反り上がった。
「ここか」
「へっ」
 頓狂な声を上げるを無視して、孫堅は見つけた箇所に向けて丹念に亀頭を打ち付ける。
 の体が跳ね上がった。
 孫堅は素早く足を抱え込み、出し抜けの攻撃を封じてしまう。
 ごりごりと擦られ、涎のように飛び散る愛液がの尻を濡らした。
「や、そこばっかり、ヤダ、だ、駄目っ……!!」
 孫堅に聞く耳はない。
 擦られる度にの体が硬直し、目は虚ろに焦点を失くす。
「……あっ、あぁ、あ、やぁっ、あっ!!」
 びくっ、びく、と大きく痙攣したの体から、力がすとんと抜け落ちた。肌は細かに痙攣しているが、一見して達したのだと知れる。
 体を倒し、耳元に舌を這わせると、仮死状態が解けた魚のように跳ねてしがみついてきた。
「ここがいいのか、
「…………」
 唇は何か言おうとしてか微かに蠢くが、音にはならずただ熱い吐息が立て続けに吐き出される。
「言わなければ、止めてしまうぞ」
「…………」
 返事はない。
 けれど、孫堅に巻き付く四肢の力がわずかながら強まった。
「よし、いい子だな、
 褒美に、お前に教えてやろう。
 孫堅は小さく腰を揺らしつつ、の耳元に囁き続ける。
「お前が何をどう教わり生きてきたか、俺は知らん。だが、この中原の男達はここの具合のいい女には滅法弱い。お前が政に携わろうというのなら、お前の体は男にはない武器になろう。そのことを、お前は誇りに思うがいい。それはお前を紛れもなく臥龍の珠とし、その輝きを以って国を乱しも鎮めもする力だ」
 言葉を切ると、孫堅の息遣いは荒く、熱く変化した。
 業火のように焼かれる悦に、冷静を取り繕うのも最早限界だった。
 身を起こし、解き放って終わりにしようとする孫堅を、の腕が許さなかった。
「……?」
 閉じていた目が開き、濡れた眼が孫堅を見つめた。
 恥ずかしそうに唇を戦慄かせて、一度閉ざし、また開く。
「……も、もっと……して、下さい……」
 孫堅の唇の端にの唇が押し当てられ、ちろりと覗いた舌が舐め上げる。
「もっと、気持ちよく、して」
 唇を舐められ、潤んだ目が孫堅に縋っている。孫堅の髪の中に差し入れられた指が、煽るように髪を乱していく。
 髪は、魂を堰き止め宿らせる、冒さざるべきものだ。粗雑に扱っていいものではない。
 だが、の指は孫堅の髪を粗雑に扱っているようには思えなかった。
 孫堅の魂を愛おしいと思い、押し頂くような敬虔さがあった。
 思い違いも甚だしい。
 そう感じながらも、の方寸が自分にひたと向けられているような錯覚を覚える。
「して」
 きゅっ、と強く締め付けられ、孫堅は走り抜けた快楽に我を忘れた。

 眠りに落ちたを胸に抱きながら、孫堅は半ば畏怖を覚えてを見つめる。
 女など、疾うに飽いていたつもりだった。
 頭のどこかがいつも冷めていて、射精する一瞬でさえも常に冷静に女を観察している。
 だから、飽きたのだと思っていた。己は女には夢中になれぬ性質なのだと見切っていた。
 違っていた。
 周囲に注意を払うこともなく、誰が近付いたとしても気付くこともなく、恐らく殺意を持つ者であればそれは容易に成し遂げられた筈だ。
 それでも良かったと思う痴呆振りに、何よりも愕然とさせられていた。
 あの白く輝く視界に身を投じたまま果てることが出来たなら、それはそれで幸せだったろうと本気で思うのだ。
 この己が。
 呉の君主、孫文台ともあろう者が。
 それと察して、だから欲しかったのだろうか。
 ただの退屈凌ぎでなく。
 得たいと望んで止まない文人としてでなく。
 ただ愛しい女として、を望んでいたとは思わなかった。
 抱きたいとは望んでいた、いたがしかし、抱いて尚飽きぬとは思っていなかった。
 このままでは、冗談抜きに息子と戦になりかねない。
 これが、諸葛亮の策だと言うなら。
 いっそ、今ここで。
 孫堅の頤を指が這う。するすると伸びて頬を伝い、頬骨の辺りを優しく戒めて引き寄せる。
 口付けを送るの顔は、眠っているそれと変わりない。
 眠りながらも孫堅の不埒な考えを覚り、叱り付けてでもいるつもりなのだろうか。
 生意気な、と思いつつ、笑みが零れた。
。今一度だ」
 策でも構わぬ。今しばらくは興じていよう。
 君主らしからぬ緩い判断に、しかし孫堅は愉快を禁じ得なかった。

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