「……良かったのか」
 罪悪感に満ちた言葉は、自分で言うことはあっても聞かされたことはまずない。
 言い慣れた言葉だけに、孫権の胸の内が手に取るように分かった。
 起き上がると、隣に寝そべっていた孫権に口付けを落とす。
 躊躇いながらも甘受する孫権に、はほんのりと笑って見せた。
「仲謀様に、して欲しいって思いました」
 誰でもいいと思われているに違いないと思っていた。
 だから、自分が抱いてもいいかと問い掛けた孫権に抱かれたかった。
「……仲謀様こそ、良かったんですか」
 に孫堅が手を着けたことを知っていたのだろう。本当かどうかは分からずとも、そうに違いないと察しは付いていた筈だ。
 気持ち悪くはないのだろうか。
「そんなことを思う筈がない!」
 わざわざ飛び起きて否定する孫権に、は目を丸くした。
 自分でも勢い込んだと感じたか、孫権の頬が赤く染まる。
「わ、私は……その、お前が……良い……」
 かぁっ、と、それこそ音を立てて赤くなる様に、は尻の座りが悪くなるようなくすぐったさを感じる。
 どうしよう、滅茶苦茶可愛い。
 頬を押さえ、自ら自重を促すに、孫権は不思議そうな目を向けた。
 どうしたと問われても、素直に話していいものかどうか。
 重ねて問われて、は思い悩んだ末に白状することにした。
「……怒りません?」
 一応、前置きはしてみる。
 孫権は、愚図愚図するに少し苛立ったようだ。
「怒らないから、言ってみろ」
 もう怒ってるではないか。
 内心呆れながら、正直に告白する。
 孫権の顔が、再びぼっと赤くなった。
「お、お前は私を馬鹿にしているのか!?」
「馬鹿になんてしてません、ホントに可愛いって思ったんですっ!」
 愛おしいと思ったのだ。
 そう付け足すと、孫権は顔を赤くしたまま俯いてしまった。
 は、釣られたように俯いて言い訳を募る。
「男の人って、可愛いって言われると馬鹿にしてるって受け取るみたいですけど……ホントに、好きだなぁって、胸がきゅんってするんですよ。分からないかもしれないけど」
 あまりにのぼせて熱くなったか、孫権は額や頬の汗をやたらと拭い始めた。
「お前は、」
 話題を変えようとでも思ったか、孫権が考え考え言葉を捜しながら話し始めた。
「その、お前は、私……達に、抱かれることを気にしているようだが。それこそ、道家の者共などは、それらを教えの術としているのだろう。あながち悪いことにはならぬと思うぞ」
 は驚いて孫権を見つめる。
 道家といえば、あの黄巾賊や五斗米道の教えだ。
 孫権ら為政者にとっては悩みの種とも言える教えなだけに、孫権が好意的な解釈を述べるとは思いもしなかった。
「確かに、教えが高じて人心を惑わせたり、無意味な争いを起こしたりするのは気に食わぬが。教えそのものが悪いとは、私は思わぬ」
 指導者の質により、教えの内容が歪められていると孫権は解釈していた。
 孫権の冷静な言葉に、はただ感心する。事、宗教において、その解釈の差異により血塗られた惨劇が起こることはままある。の生まれ育った日本はまだマシだと言えるが、それだけに現実味もない。
 現実味がないから傾倒することもなく、それで冷静に考えられるのだが、少なくとも孫権はそうではないだろう。努めて私情を挟まないようにして、本質を掴むように心掛けているのだと思う。
 思わず拍手したくなったが、怒られるに決まっているのでしなかった。
「彼らは、房中術をもって人の病を治したり、健康を保たせると聞く」
 それはも聞いた覚えがあるが、しかし肝心のとの関連が見出せない。
 話の続きを待つに、孫権もやや矛盾を感じたか、口が重くなってきた。
「……その、つまりだな。それを生業とする者も、居ると言うことだ」
「……私、これを生業にすればいいってことですか」
 猛烈に怒り出した孫権に、は首をすくめて小さく詫びた。

 身なりを整え、孫権の室を辞す。
 孫権は未練を見せたが、仕事が溜まっていると聞いていては、としても落ち着かない。
 頑張って、と声援を送ると、孫権は照れ臭そうに頷いた。
 可愛い、と思う。
 立派な成人男子を捕まえて、可愛いとは失礼の極みかもしれない。
 見た目も仕草も男らしいのに、どうしてか孫権を可愛いと思ってしまうのだ。
 真面目一途なところがそう思わせるのかもしれないし、意外に(?)純情な一面から感じるのかもしれない。
 泰×権は守備範囲外だったが、今なら読んでみたいような気がした。
 うんうん、と頷いていると、目の端に黒くて大きなものが映る。
 あれ。
 足を止め、何気なく振り返る。
 周泰が立っていた。思わず仰け反る。
 欄干がなければ、またすっ転んで居ただろう。
「な」
 周泰から逃れるように、目一杯後ろに下がる。欄干で阻まれているのを、敢えてぐいぐいと体を押し付け後退る。
「な、な、何でしょう」
 廊下と廊下の合流地点だ。
 偶然歩いてきたとも思えないから、誰かを待っていたと考えるのが自然だろう。誰かと言うと自分しか居ないのだが、は敢えて考えないようにした。
「仲謀様なら、執務室です」
 訊かれてもないのに答えてしまうのは、やましいことがあるからか。
 あからさまに怪しいの態度に、周泰はおもむろに足を踏み出した。
 視界がぐるりと大きく回転し、はいつもより高い位置から廊下の床板を見下ろしていた。
 何のことはない、周泰に抱え上げられたのだが、あまりに想像外の出来事に状況を認識できずに居る。
 そのまま荷物のように運ばれていく。
「ちょ、あの、周泰殿」
 周泰が何をしようというのか分からない。夕方近いとは言え、まだ辺りも明るかった。こんなところを人に見られたら困る。
「しゅ、周泰殿って」
 下ろせともぞもぞ動きまくるに、周泰はやっとその気になったか下ろしてくれた。
 と思ったら、目の前の扉を開けて中にを押し込んでしまう。
 誰かの執務室らしいが、が入ったことのない室だ。きょろきょろして室内を見回すが、他に人の気配はないようだった。
 誰の室なのだと周泰を振り仰ぐと、周泰はの手を引き奥へと向かう。
 ああ、周泰の室か。
 割に孫権の室からは遠い位置にあるらしい。身分、業務の差を考えれば当たり前かもしれないが、周泰は孫権の護衛と言う印象が強かった為に何だか意外な気もしていた。
 それと分かったのはいいとして、何故周泰の室に連れてこられたのだろう。
 未だ判然としない疑問に、周泰は行動で示してくれた。
 仮眠室と思しき室には、周泰の図体に似つかわしい大きな長椅子の背もたれに、寝る時に被っているのか毛織の布が掛けられているのが見えた。
 その上にの体を横たえて、片膝を腿に乗せて動きを封じてしまう。
 周泰の唐突な行動に面食らっていると、口付けと乳房への愛撫が同時に始まった。
 いやいやいやいやいやいやいやいや。
 上へとずらすようにして逃れると、重過ぎないように加減してくれていたらしい周泰の膝が外れる。
 それは良かったのだが、周泰はを逃すまいと遅ればせながら力を入れたらしく、の膝を割る形で足の間に入り込んでしまった。これでは閉じられない。
 周泰にとっては勿怪の幸いだろうが、にとっては自縄自縛もいいところだ。
 つい先程、孫権に抱かれたばかりだ。
 中で出されたから股間もねとついているし、そもそも体を清めていない。
 もうしないと誓ったのは今朝のことなのに、三日と持たずに孫権に抱かれてしまったことで自己嫌悪する気持ちもある。三日どころではない、一日と持たなかったのだ。
 どんだけ意志が弱いというのか、凹んでも凹みきれない。
 この上周泰を受け入れる訳にいかなかった。自身も、もういい加減にしておけとさすがに理性が働く。
「……孫権様に、抱かれただろう……」
 重々しく呟く周泰に、は戸惑いながらもこっくりと頷いた。
 分かっているなら退いてくれ。
 しかし周泰は逆に、だからだと言わんばかりに強引にの襟を寛げた。
 露になった乳房が目の前で震え、思わずぎょっとして見守ってしまう。
 見守っている場合ではない。
 我に返ってじたばたと暴れると、周泰の膝がの秘部をぐりぐりと刺激して寄越す。下着に孫権の残滓が擦られ、気のせいかねちゃねちゃと音を立てた。
 顔がかぁっと熱くなり、居ても立ってもいられなくなる。
 余計に暴れ始めたを持て余したのか、周泰は一度の両手を捕らえて頭上に縫い付けた。
「……孫権様が、お許し下さった……」
 は?
 の動きがぴたりと止まる。
 気を良くしたのか、周泰は微かに微笑んだ。
「……お前を、本気で狙えと……俺にお許し下さった……」
 いや。いやいやいやいや。いや、いいから待てよ。
 物凄く嬉しそうな周泰に、はたらりと冷や汗を垂らす。
 何がどうして、いったいいつの間にそんな話になっているのか。それではまるきり、孫権が孫策に許しを得たと告白した時と変わらない。
 男同士で許可をもらったなどと、勝手に約定交わされても素直に従えるものか。
「わ、私聞いてないし、関係ないし!」
 またじたばたと暴れ始めたを、周泰は困った顔でじっと見つめている。
 周泰が如何に困ったとて、自分に何の関係があろうか。
 気合を入れて自分を激励する。そうでもしないと、流されそうだった。
 ここまで来て、何で嫌じゃないのか私っ!
 怒ってもいいところ、ここは怒ってもいいところと呪文のように繰り返すのだが、どうしてもどうしても嫌だと思えなかった。
 いい加減にしろとは思う、それは本当にそう思う。
 だが、それは自身の甘さに対してであって、懸命ににしがみついている周泰に対してではないのだ。
 懸命、と言い表してしまうところからしてもう、推して知るべしだろう。
 でも、でもと頑張って自分を諌めながら、周泰の体を押し返す。それも大した力でない。我ながら、情けないと感じていた。
 ただでさえ非力なのだから、その上本気で押し返せないのなら演技で煽っているのと大差ない。
 周泰だからそれでも気遣ってくれているようだが、趙雲孫策辺りなら嬉々として覆い被さってくれるだろう。
「…………」
 周泰は言葉少ない。
 それだけに、その口から名を呼ばれることには特別な感慨を覚える。
 宥めるように眉間に口付けられ、そこに皺が寄っていることが分かり、そしてそれが解けていってしまうことも分かってしまった。
「……俺だと……分からねば、良いか……?」
 引っ繰り返され、腰を高く上げさせられる。
 同時に裾をたくし上げられ、下着は素早く下ろされてしまった。
 孫権の残滓で濡れた秘部が晒される。見られたと思った瞬間、の体は羞恥で硬直してしまった。
「…………」
 再度名を呼ばれる。
 体が酷く熱くなっていて、周泰を受け入れる悦びで震えているのを知りつつ、けれど認めたくはなかった。
 自棄になった、と思うしかなかった。自棄になって、好きにしろと投げたのだ。受け入れたのでは、ない。
 こく、とが頷くのを見て、周泰はすべてを了承した。
 無言で昂ぶりを押し当て、静かに埋め込んでいく。
「……っ……や、ぁ……挿って、くる……っ……駄目……だ、め……!」
 周泰は、自分だと分からねば良いかと訊いてきた。
 だが、取らされたこの体勢は、周泰の顔こそ見えはしなかったが、周泰の熱を、昂ぶりを濃やかにに伝えて寄越した。
 ぞわぞわする感覚が、尻から脊椎を通して這い上がってくる。
 の言葉に動きを止めた周泰は、しかし埋め込んだ肉を強く引き絞られて声もなくうめいた。
「やめ、ちゃ、駄目っ……」
 切羽詰った声が周泰を詰る。
 高く差し出された腰が、自ら蠢き周泰の肉を呑み込もうと震えた。
 周泰はの腰に手を添え、が求めるままに打ち据えた。

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