孫権の手が、やけにゆっくりと膝を撫でる。
くっと力が篭もるのが分かり、も負けじと膝に力を篭めた。
孫権が、綺麗に手入れされてしまったそこを見ようとしているのが分かった。
開かない膝に、孫権が焦れている。
そして、楽しんでいる。
がどんなに抗おうが、鍛え上げた武人の腕力に拮抗できるものではない。
猫が鼠をいたぶるように、孫権もまたの脆弱な抵抗を楽しんでいるのだ。
力を篭めた膝が、徐々にふるふると震えだす。
早くも体力の限界を迎えつつあった。
孫権は薄笑いを浮かべ、更に力を篭めに掛かる。
「あ、あ」
ぐぐ、ときしんだ音を立て、の膝が少しずつ開かれていく。
「やっ……」
身を起こして手で覆い隠すも、今度はその手をむしりとられてしまう。
足の間に体を入れ、閉じられないようにしてしまうと、孫権はの手をその膝裏に置いた。
「持っていろ」
苛烈な命だった。
「や、やだ」
恐怖から舌すら縮こまるが、は孫権へ慈悲を希う。
その懇願が、却って孫権の気を昂ぶらせようとは思わない。思っていたとしても、そうするより他になかっただろう。
綺麗にされたそこは、にとってはありとあらゆる意味で恥部と化していた。見られたくなくて、見せずに済むものなら何でもしようとさえ思わせた。
「持っていろと言っている」
薄闇に浮かぶ孫権の双眸は、人魂を思わせる冷たい炎の色をしていた。綺麗だと思うが故に、恐怖を加速させる。
湧き上がる冷たい怖気に飲み込まれ、逆らえなくなって自ら膝裏を支える。
その手が、指が、がたがた震えていた。
「もっと、大きく」
孫権は気にも留めず、の膝を大きく割った。
姿勢を保てずころんと背中から引っ繰り返ったに、孫権は柔らかな微笑を浮かべる。
それは、残酷な笑みだった。
孫権はうつ伏せるように屈むと、改めての恥丘に目を向ける。
「なるほど、陰唇とは良く言ったものだ」
感嘆すら滲む声音に、孫権の目の前の唇がぴくりと震えた。
誘われるように口付ければ、遠くから切なげな声が漏れて孫権を煽る。
「孫権様、や、やめて、やめて下さい」
泣き言めいた戯言を聞き流し、孫権はこの『口付け』に夢中になっていった。
厚い唇を割れば、中に犬の舌のような薄い襞がある。そこを舌先でなぞると、の体は面白いように跳ねた。
「やめ、ホントに、やめて下さいって!」
「お前とて、私にしただろう」
己の男根をむしゃぶりつくように舐め、吸い上げたの手管を孫権は忘れていない。
唇と舌と歯、口蓋と、余すところなく使い孫権を追い詰めた手管だ。忘れようもない、艶やかな記憶だった。
ならばこの行為も、許されて然るべしだ。
酔いの回った孫権には、己の正当性を疑う余地は微塵もない。
舌を震わせるとの体もがたがたと震え、零れ落ちる声は一層鮮やかに濡れていく。
「やめて、やめてって!」
執拗に止め立てしようとする煩わしい声に、孫権は顔を上げた。
ほっとして息を吐くの表情を目の当たりにし、孫権の暗い感情が更に大きく波を打つ。
「うるさい口だ、酒でも飲んで閉じておけ」
倒れた酒瓶を引き寄せると、の口元に押し付ける。
油断したせいもあったが、酒瓶には意外に多くの酒が残っており、突然酒を喉に流し込まれたは激しく咽た。
「よし、こちらにも呑ませてやろう」
言うなり、孫権はの秘裂に酒を注ぎ込む。
冷たさに驚き足を閉じるが、孫権の腕がの足首を掴んで引き摺り上げた。
咽ているせいでろくな抵抗も出来ず、舌の愛撫で緩んだ秘裂に情け容赦なく注ぎ込まれる。
すぐに空になった酒瓶に、孫権は不服顔だ。
「……私の分が、なくなってしまったではないか」
酔っ払いの戯言は、得体が知れぬ分何を仕出すか分からない恐ろしさがある。
放り出された酒瓶が立てる音に、は身をすくませ小さい悲鳴を漏らした。
「仕方ないな」
「ひゃっ」
孫権は、酒に塗れたの秘裂に口を付けると、その酒に濡れた肌を啜る。
じゅ、ちゅと派手に立つ音に、の神経は熱を帯びて侵されていく。
恥毛は失われて、滑らかな肌に遮るものはない。
酒の味はすぐに消えたが、孫権は執念深く舌を這わせた。
最早酒でないものに塗れ潤む秘裂を、孫権の舌が丹念に舐め取っていく。
「……あ、ひ、いっ、あ……」
意味のない音の羅列は、が悦に浸り始めた証拠のようなものだ。
律儀に膝裏を押さえる手はともかく、中空にぶらんと浮いていた足は今や孫権の背に回って更なる悦を急かしている。
「あっ、いっ、いっちゃ、達っちゃう……!」
白色の点滅がの脳裏を焼くものか、肢体の痙攣もいよいよ大きくなっている。
ふ、と、孫権が体を起こした。
快楽を生み出す創造者の暴挙に、の秘裂は不満げにヒクつく。
孫権は膝立ちになると、の顔に顔を近付けた。
意識は悦の波に漂わせたまま、紅潮した頬に汗が浮いている。虚ろな眼で孫権を捉えたは、何事か言いたげに唇を震わせた。
「どうして欲しい、。言ってみろ」
「……って……」
眉根に皺が寄る。
だが、孫権は是が非でも言わせたかった。言わせなければならぬと思っていた。
「どうして欲しいのだ」
ここを、と指で掻き回せば、が悲鳴を上げて身動ぐ。
それでも、孫権はが嫌である訳がないと確信していた。
「どうして欲しい、この、涎を垂らした卑屈な口に、何をして欲しいか言ってみろと言っている」
の目が歪んだ。眦から透明な雫が零れ落ちたが、孫権はそれをも舌で拭い奪る。
惑い続ける唇は、それでもようやく決意を固めて言葉を紡ぐ。
「い、挿れて下さい」
「よし」
短い返事は、決して理解してのものではなかった。
孫権は、の言葉通りに『指』を突き入れる。
一本とは言え武を志す男の節くれ立った指だ。ねっとりとした悦が込み上げるが、所詮は指一本の話で、すぐに物足りなくなる。
「そっ……じゃなく、て……」
淡い悦に翻弄されて、は荒く息を吐いた。
「では、何だ」
いっそ清々しいまでに冷淡な孫権に、は涙を滲ませながら目で希う。
許されることも折れてくれることもなかった。
膣壁を擦るように前後に挿入され、は達した感覚もなく大きく体を震わせた。
孫権の手は、の愛液に塗れて尚、指の動きを止めようとはしない。
「指で、良いようだな」
「……や、だ……」
自分の中が、強く強く孫権の指を締め上げているのが分かる。
欲しているようにも思えるが、欲しいものがこれではないことは明らかだった。
意識の欠片も残さず焼いてくれるような、もっと熱くて凄まじいものを請うている。
「孫権様の……そ、孫権様の、を、下さい」
「私の、何が欲しい」
は押し黙る。
この遣り取りは、いつか誰かとした。
誰だったろうと目を閉ざすと、途端に激しく苛まれた。
「逃げるな」
そうではない。
でも、そうかもしれない。
孫権の指がもたらす曖昧模糊な霧が、の意識を覆ってしまう。
それだのに、腰が浮き、孫権の指をより深く飲み込もうとしている己の様に気付いてしまう。
これだもの。
気取ってたってしょうがないじゃないか、上も下も涎垂らして、挿れて欲しいとせがんでる。
口で言うか体で言うかの差でしかなく、ならばもう口で言っても同じことだと思った。体は、真っ正直に孫権を欲して甘えている。
「……お」
声が漏れた途端、かっと顔が焼けた。
鮮明になる意識は、鮮明な羞恥を連れてを責める。
やはり言えない。どうしても言えない。
一度は口を開いたにも関わらず、またも口を閉ざしたを孫権はいぶかしげに見詰める。
顔を真っ赤にし、眦に涙を浮かべて耐えている。
その様は、孫権の虚栄心を甚く満足させた。
今宵のところはもう、いい。
孫権はの手を取り、剥き出した得物に触れさせる。
「これか、」
既に熱く猛った得物は、が指で触れただけで歓喜に震える。
「……これだろう?」
触れるだけだったの指が、その指先でおずおずと撫で始める。
柔らかく、優しく、愛おしむような動きに孫権の腰が引けた。
心地良い。
良過ぎて、腰が砕ける。
指から逃れ、綺麗に剥かれた恥丘へ先端を押し当てる。
滑らかな肌と柔らかな肉の質感を確かめるようにするする動かすと、は緩く熱い吐息を深く吐き出す。
得たいと願ったものの存在に、安堵しているように見えた。
このまま挿れてしまうには何故だか惜しい気がして、孫権は限界を迎えた己の分身をの恥丘に擦り付ける。
「んん……」
心地良いのか、鼻から抜けた嬌声が漏れ、孫権の肉は新たな潤いに濡れていく。
気が付けば、膝を押さえていたの手は、牀に敷かれた布を掴んで居た。
孫権が目を遣ると、の膝は大きく開かれたまま、孫権の悪戯にゆらゆらとくすぐったそうに揺れている。
「…………」
先端をわずかに押し込めれば、の喉がくっと反る。
同時に、広げられた膝も外側に傾いだ。
限界一杯まで広げられた膝の動きは、孫権自身を尚も奥へと誘うかのようだ。
挿れて、と体が言っている。
口では言わずとも、の体ははっきりと孫権の雄を欲していた。
だがしかし、それでもどうしても得たい言葉がある。
「、私を呼んでくれ」
薄っすらと開いたの目に、己が映る。
「私の名を呼んでくれ」
重ねて請うと、はこっくり頷いた。
「孫権様」
そしてすぐに言葉を継ぐ。
「……仲謀様、の、雄の印を、下さい」
言い終わった瞬間顔を赤らめ、そっぽを向くに孫権は虚脱する。
もったいぶって、渋っていると捉えたのだろうか。
どうしても言わせようと、だから挿れないのだと、そう捉えたのだろうか。
そうだとしたら、何と浅はかで愚かな、鈍い女だろう。孫権はただ、誰に抱かれているのかを確認させる為に、自分で良いのだと証す為に、己の名を呼んで欲しかっただけなのだ。
そしてどうして、そんな女をこうも愛おしいと感じてしまうのだろう。
それも、改めて、堪えられない程鮮烈に、だ。
「あ」
先端を沈めていくと、の眉が苦しげに歪む。
けれど、とても心地良さそうにも見えた。
何度肌を合わせても、どうにも不可思議なことだ。
「あ、あ」
静かに、ゆっくりと沈めていく。
の中の起伏が雄の印を通して感じられ、締め上げてくる肉のしなりに言い知れぬ甘美を覚える。
根元まで埋め込むと、の体が大きく震えた。
目は閉ざしたままだから見えては居るまいに、何かの感覚や質感でそれだと知るのだろうか。
ぴりぴりとした悦を感じ、孫権は腰を揺らした。
わずかに抜いたものを、ず、と押し込めると、とん、と小さな衝撃が返る。
は背を弓形にし、声にならない嬌声を上げている。
は、と深く息を吐き出し整えると、快楽の欲するままに律動を始める。
繋がった肉は、指では感じられなかった類稀なる一体感を孫権に与え、駆り立てていく。
「、分かるか。私達は今、繋がっているぞ」
答えは期待していなかったが、は意外にも反応した。
「うん、うんっ、繋っ、繋がって、るっ」
必死な声音すら、愛おしいと思う。
布を掴むの手に触れると、は噛み付くように孫権の手を掴む。
いなし、手を合わせるように繋ぎ直すと、ただ迸るような快楽が何か別のものへと転じた。
はっきりと口では表し難い感覚に、しかし孫権はそれまで以上の目も眩むような快楽を覚えた。
その後は無我夢中となり、気が付けば眠りに落ちていた。
目を覚ました孫権が、他の酔人同様失くした記憶を辿るのは今少し先のことだった。