周瑜に決着の判定を押し付けてしまうと、はただ待つより他ない身となった。
後から考えてみれば悪いことをしたと思う。
あれだけ面倒を掛けていると自覚した後、更に厄介ごとを押し付けてしまったのだ。
自分の考えなしの部分にはほとほと呆れ返るが、周瑜の方も、酔った勢いではあろうが押し付けられた竹簡を素直に受け取りまた後日と言い残して出て行ってしまったのだから仕方がない。
周瑜は周瑜で、自分なりにを理解しようとしてくれているのかもしれなかった。
最初の内こそやたらと剣呑な視線を送って寄越した周瑜だったが、今は違う。やり方に幾分か不器用なところはあったが、懸命に気遣ってくれているのが分かる。
は鈍いところがあるので、きっとただでさえ細い神経を磨り減らしているに違いない。
どのようにして応えるべきなのか。
周瑜個人に関してはさておき、他大勢に対しての答えは一つしか見出せなかった。
即ち、自分を殺すことだ。
我慢するしないのレベルの問題ではない。
この呉では、は求められたら求められるままに赦す女であることを望まれている。
これは呉の君主たる孫堅自身が宣言したも同然の話であった。寝てみたければ寝ろとの言葉は、性質の悪い冗談などではなく至って真面目に放たれたものらしい。
張昭は、そうではないと言っていた。
選ぶ権利はにあり、だからこそ受け入れる理由と受け入れられない理由を明らかにしろと助言してくれた。
が求められる理由の第一は、の体がいわゆる名器であることにある。
どんなにが嫌がろうと、それは変えようのない事実だった。実際、孫堅はそう言って皆に薦めたそうだ。
これはに取って重い事実だった。
口では何とでも言える。
例え体が目当てであっても、口では甘く愛を囁くことは出来る。否、目的があからさまであれば尚のこと、口から出任せを紡ぐのは容易いに違いない。
それを嘘だと見抜くのも骨だろうが、嘘だと気付いた時の衝撃が如何程のものなのか、には想像し難い。
そもそも、心と体は一つのものだ。例え本当にを好きで居てくれたとして、では抱きたくならないかと言えば大概の男はそうはなるまい。好きな相手なら、抱きたくなって当然だ。
だが、では体を目当てにを求めたとして、心を欲することがないかと言えばそれもまたなくはないだろう。目当てのものが手に入れば、他もと思うのは人として自然な欲求のような気がした。
例えて言えば、目当てのフィギュアにセット商品があればつい手にとって見たくなるような、ゲームソフトに限定特別版があればそちらを選んでしまうような、そんな感覚に似ている。
「嫌な話だなぁ」
私はお菓子のおまけなのかい、とぶつくさ文句を垂れる。
仕事と私事が半ば融合してしまっている今の状況では、上手く気持ちを割り切ることが出来ない。
それでも今日は約束していた訪問をこなし、尚香への竹簡を一巻き書き上げている。
いつまでもへこんでいては、上司たる諸葛亮にも申し訳がない。
またも近くなってきた会合に備えて、幾らか勉強もしておかねばならなかったので、今夜は孫権からもらった竹簡を読み下ろしている。
やることは幾らもあるのに、それらのほとんどに色恋沙汰が絡み付いてくる。しかもそれらは、如何にの知識が乏しいとは言え、のみではどうにも判断の付かない複雑且つ厄介な常識を突き付けていた。
当然、それら常識に関する書物の類などない。
自身が少しずつ実践して覚えていかねばならないものだった。
気が重いどころの話ではない、『Thank you』を『有難う』と覚えた人間に対し、それは『有難う』ではなく『貴方にお礼をしたい』という意味だ、と教えられるような戸惑いがある。
なまじ一度覚え込んだものを、それは違うと否定され、しかもその内容が微妙に重なっている。
いっそまったく違う意味だったら吹っ切って覚え直せるかもしれないのに、とは戸惑うばかりなのだ。
その辺りも、実は当帰に教えてもらえればと思っていた。
当帰は今頃何をしているだろうか。
あの時、一旦引いておけばこんなことにはならなかっただろうか。
後悔先に立たずの言葉通り、取り返しようもない今になってぐだぐだと思い悩んでいる。
と、扉の向こうから声を掛けられた。
周瑜かと思って急ぎ戸を開けると、そこに居たのは太史慈だった。
「あ、……どうも」
そう言えば来ると言っていたのをすっかり忘れていた。
頭の中の引き出しが極端に少ない自分を呪いながら、は努めて笑みを浮かべて太史慈を招き入れる。
「……どなたかと、間違えられたのだろうか」
太史慈はさすがに敏い。
「いや、あの……周瑜殿に、ちょっと頼んでいることがあって」
隠しても仕方あるまいと正直に白状すると、太史慈は少しばかり不機嫌そうな顔を見せたが、すぐに諦めたように溜息を吐いた。
太史慈はが好きなのだ。
そうと聞いても、未だにそれがどんなことなのかしっかりとは理解できずに居る。
の知識の中では、恋愛と言うものはもう少しさっぱりしている。片思いはうじうじしている内に自然に消滅するか思い切ってぶち当たるかのどちらかしかなく、ぶち当たって色好い返事がもらえなければそこで終了だ。
よしんば諦めきれずに思い続け、二度三度と飽きることなく告白を繰り返すことがあったとしても、その割合は珍しい部類に入るのではないかと思う。
現代人は、色恋に命を掛ける程のスタミナを持ち合わせていない。
下手に執着すればストーカー扱いされるのがオチだし、本物のストーカーともなると相手の都合などお構いなしで、ただ自分の矜持を満たそうとするばかりだ。
それが恋だの愛だの言えるものか、は甚だ疑問だ。
この世界の男達の恋愛事情は、の居た世界のものとは勿論かなり異なっている。
振っても諦めない男は居るし、いつまでも待ちますと本気で言ってのける男は居るし、逆にの都合などお構いなしで迫ってくる男も居る。
困るのは、そんな連中を本気で拒めないことだった。
どうしても嫌いになれないのは、下世話な話、地位も名誉も顔も揃った高レベルの男達であるということも大きいが、やはりその一途さと掴みきれなさにが惹かれてしまうのが原因だと思われた。
元々好きだったのだ。嫌いになる要因はほとんどない。
確かに、いきなり尻に突っ込んでくるような馬鹿だったり他の男を待っている女を寝取ろうとするような阿呆だったりする訳だが、それさえも許せてしまうような、それどころか馬鹿で可愛いとか阿呆過ぎてほっとけないなどと寝言すら言えてしまうような相手なのだった。
住む家も職も確かでないという不安定さが、の判断能力を狂わせていることもあるかもしれないが、何より彼らはとてつもなく魅力的で、どうしても嫌だと拒みきれない。
要するに、自分が一番馬鹿なのだ。
結論は出るものの、では最初に立ち返って相手が誰でも足を開けるかと言うと話は別だった。
同じ思考を何度も何度も繰り返している。
誰でもいいって訳じゃないのと言って、相手が納得してくれるかと言ったら納得してくれないに違いない。
張昭の助言を守るには、には未だかなりの健闘が求められるようだった。
ぼんやりとしているように見えたのか、太史慈はを心配そうに見下ろした。
「少し、根を詰め過ぎて居られるのではないか」
卓に広げた竹簡や墨を見てのことだろうが、からしてみれば未だ全然足りてない。
もっともっと勉強しなければならないのに、何かと理由を付けてサボってしまうので穴は幾らも埋まらなかった。
それが、もどかしい。
「俺などから見れば、貴女はずいぶんと頑張っているように見えるがな」
何せ、に課せられる要求は尋常ではない。
はそれを分かっていないようだが、周囲の者がに優しいのはそれらに同情するところが実に大きかった。
普通の女がの状態に置かれれば、神経質になって泣き喚くか、浮かれてすぐに呆れられるのが目に見えていた。
この際、の鈍さが良い方向に効果を発したのだろう。
細かいことを言えば気に病むのは目に見えていたから、太史慈は口を閉ざした。
「周瑜殿に、何をご依頼か」
さりげなく会話を摩り替えると、案の定は困った顔をしてどうにか誤魔化そうと思案している。
特に聞こうと思って訊ねた訳ではないが、そんなを見ていると不思議と問い詰めたくなった。
人の気持ちは、容易くまた微細に揺れる。
「太史慈殿、それは?」
が指差した先に、太史慈が持参した酒瓶がある。
苦笑しつつも、の言葉に乗ってやることにした。
「珍しい酒だそうだ。貴女にもと思って、分けてもらってきた」
卓の上を片し、なし崩しに二人きりの宴会に入る。
太史慈が持参したのは、葡萄酒だった。
「ワインなんて、あるんだ」
びっくりして目を見張っているに、太史慈こそ内心で驚いていた。
西方の酒で、値もそれなりに張る。
如何にが中原の西方、蜀の文官とは言え、生半に口に出来るものではない筈だった。
それとも、蜀では西方との交流がそこまで盛んなのだろうか。
太史慈の心配を余所に、は杯に満たされた葡萄酒を呑気に嗅いでみたりしている。
乾杯をして一口啜ると、舌に軽やかな渋みが染みた。
「……やっぱり、ちょっと酸っぱい、かな?」
「合わなかったろうか」
太史慈の言葉に、は勢い良く首を振る。
「否、そんなことないです。いただきます」
心なしか嬉しげなの様に、太史慈もまたくすぐったいような喜びを感じる。
一気に打ち解けたような気分になって、何処で手に入れたとか、どうして手に入れたかなどと会話は賑わった。
珍しい酒の効用か、の頬がいつもより早く赤くなった。
目元がとろりと蕩けて、酔っているのがよく分かる。
「……赤ワインポリフェノールは、体にいいんですって。太史慈殿、知ってます?」
「ぽりへのーる?」
そう、とは笑いながら話を始める。
酒が入るとやたらと饒舌になるのがの癖らしく、しかし太史慈はそんなの話を聞くのは嫌いではなかった。
話はぽんぽんと飛びまくり、まるで太史慈の介入を許さない。
それでも、太史慈が時折相槌を打つと、は嬉しそうににっこり笑って話を続ける。
和やかで、何処か暖かだった。
ふと、が目線を上に向ける。
くるりと太史慈に向け直すと、はそそっと太史慈の側に椅子ごと寄ってきた。
「……付かぬ事を伺いますけど、太史慈殿」
何事かと無言で応えると、は更に声を潜めて太史慈の耳元に唇を寄せる。
「男の人って、初めての時は、だいたいどうしてるもんなんですかね?」
噴き出さなかったのは、太史慈自身も多少酔っているせいもあっただろう。
ぐびりと喉を鳴らして口の中にあった葡萄酒を飲み下すと、努めて冷静を装ってを見詰める。
「……それは、どのような?」
は太史慈の努力を無駄にすることなく、疑う素振りもないままこくこくと頷く。
「女の子って、お牀入りの前にちゃんと教えてもらえるらしいじゃないですか。でも、男の人ってそういう話聞かないんで、どうしてんのかなーって思って」
単なる好奇心らしいが、酔った勢いで口にしていい話でもない。
しかし、太史慈は敢えて答えた。
「通常であれば、そこそこの年になれば学びの師に付く。同門の兄弟子から大概のことは教えられるし、もし師に付かずとも同じ村や町の年長者が、やはり同じように教える」
「あぁ、成程」
納得納得、としきりに感心するに、太史慈は酒を注ぐ。
「知っている者は知っていると自慢したがる傾向にあるから、その手の話が途切れることはないようだな」
「でも、やっぱり最初だと色々分からなかったりするんでしょう? ……あ、太史慈殿は……」
「教えてくれる相手が最初だったがな。だが、やはり男として意地もある。導かれるままという訳ではなかった」
言い難い話もすらすらと答える太史慈に安堵してか、の杯の減りが早い。
酒で口を湿らせては話を弾ませるのだが、葡萄酒の持つ独特の渋みは含めば含む程渇きを促すようだった。
減れば杯は満たされ、満たされれば杯に口を付ける。
まったく用心することのないに、太史慈は静かに笑みを浮かべた。
「言葉で教える以外に、教える手立てもない訳ではない」
「……いきなり娼館に連れてっちゃう、とかですか?」
それもあるが、と太史慈は立ち上がり、閉めてあった扉を大きく開け放つ。
誰か居るのかと覗き込んだだったが、夜の闇に沈むのが見えるばかりだった。
太史慈は扉を開け放ったままの元へ戻ってくると、矢庭にを抱え上げる。奥へ向かう訳でもなく、そのまま椅子に腰掛けた。
膝の上に乗せられ、落ち着かない素振りで太史慈を見上げるを捉え、太史慈はその唇を貪る。
指先はの足を這い、素早く秘部へと滑り込ませた。
「……これ、は……?」
の顔が朱に染まる。
子供のようにつるつるにされたの秘部に、太史慈が触れるのはこれが初めてだった。
腕を振り上げて逃れようとするのを難なくいなし、太史慈は唇を噛み締めた。
「……ちょ……、ん……っ……」
抗議しようとするを押さえ付け、その舌を吸う。
感じやすい体はすぐに反応を見せ、太史慈の指先に濡れた感触を与えた。
ゆっくりと指を沈ませると、の体が強張ってしなる。
酔った体がみるみる内に汗に塗れる。
背中から回した手を襟元に差し込み、色付く先端を嬲ると実に良く声を上げた。
敵わないと理解していように、未だ抵抗を続けるの秘裂に、素早く楔を打ち込む。
串刺しにされた体は大きくしなり、太史慈の肩口に擦り付けるように背を反らせた。
太史慈は、閉じたままのの膝へ手を掛ける。
強靭な力でじりじりと押し広げられる先に広がっているのは、闇に閉ざされた景色だった。
「やだ、や……やだ、やだって……!」
の抵抗も虚しく、太史慈に貫かれた秘部が露にされる。
羞恥に縮こまるの体は、意図せず太史慈を締め上げることに繋がった。
「こうして、何処で、どのように繋がるのか、見せてやる。そうして、初めてでも恥を掻かずに済むよう、教えてやるという次第だ」
荒い息がの耳に吹き掛けられ、の悦楽を遠回しに嬲り尽くす。
「わか、分かったから、分かったから、閉めて……!」
声を震わせるに、太史慈は憐れを覚えることはなかった。真逆に、追い立てられるような衝動のままにを激しく貫いて揺さ振る。
悲鳴じみた声は一瞬で、すぐに感じ切った嬌声が途切れ途切れに漏れ出した。
溢れる愛液が、太史慈のものだけでなくその腿をも濡らす。
締め上げる膣壁の感触は凄まじく、太史慈の脳髄に直接悦を衝き込む様だった。
最上を求めて、太史慈の動きが荒く激しいものへと変わっていく。
その荒さに、しかしは淫らによがり狂っていった。
「あ、あぁ、や、ぁ、あっ……!!」
耳元に、首筋に、太史慈の熱い荒い息が吹き掛かる。
濡れた秘裂から滴り落ちる愛液を、太史慈の凝った肉が掻き雑ぜ捏ね上げる音が室に響いて、の意識を掻き消していった。
「い、や、達っちゃ、達っちゃう、からっ!」
の体がくっと反り上がり、太史慈の肉を追い詰める。
素早く抜き取られた肉は、の足の間から白い飛沫を噴き上げた。
「あ、あ、出て、る……」
自らが射精しているかのような錯覚を覚え、の神経は爛れるように焼ける。
腹や胸乳までもが緩く粘る精液で汚されるのを、は真っ白な頭でただ見届けていた。