孫策は閉じた扉から離れず、外の様子を窺っているようだった。
 そんな孫策に手を繋がれたまま、はどこか気抜けた顔で虚空を見詰めている。
 太史慈の気配が遠ざかるのを確認し、振り返った孫策がの様子に気付いた。
「どーした?」
 声を掛けられて、釣られるように一旦は孫策と目を合わせただったが、合わせた視線をすぐに逸らせた。
「……どうしたって」
 孫策の声に焦りが滲む。
 の悪い癖が現われる兆候を、見て取ったのかもしれない。
「ちゃんと、言えよ。わかんねーよ」
 察しがいい方でないことは、孫策自身否定できない短所である。
 細かいことにこだわらない鷹揚さは、同時に大雑把で気が利かないとも言える。
 幾度となく失敗を重ねてきて、つい昨日も同じ過ちを犯していた。
 早々繰り返していいことでもなく、無論繰り返したいとも思わない。
 とて、それは同じ思いだ。
「……えっと」
 だが、脳裏を占める思いは、とても言い出し難いものだった。
「私……伯符と居る時が、一番楽しい……っていうか……楽だなぁって思ってたんだけど……」
「た、んだけど?」
 微妙な強弱を付けて問い返してくる孫策に、は怯んで唇を噛む。
 を見下ろしていた孫策は、不意に自らの頬を引っ叩いた。
 音の良さに驚愕し、目を丸くして孫策を見詰める。
 孫策は、自ら叩いた手をそのまま、の顔を見た。
「悪ぃ、別に、お前を責めてるつもりはねぇんだ。だから、これで勘弁、な?」
 にっかりと笑う孫策とは裏腹に、の顔はさっと青ざめ、孫策の手を引き剥がした。
 頬が、思い切り赤くなっている。
 気のせいか微妙に腫れても居るようだ。
 大喬に叩かれたところを、これでもかと言わんばかりに打ち据えていた。
 偶々重なった偶然であるにせよ、の胸は痛んだ。
「私、伯符には大喬殿が居るから、だから楽だったんだ。私が他の人とどうこうしてたって、伯符ならおあいこじゃないかって思って、だから」
 気付いてしまった。
 卑怯だ。
 そう思った。
 自分でない誰かを好きになっている、というただ一点で、孫策がに文句を言える立場でないと思い込んで安心していた。
 口では、頭では何だかんだ言っても、結局胸の奥ではそんな風に考えていたことを突き付けられたのだ。
 途端、己の卑怯さに反吐が出る思いがした。
 孫策と自分では何もかも違う、相手に向き合おうとする気持ちも真剣さも、何もかもが違っている。
 それで、何で『同じだ』等と思えたのだろう。
 厚かましい。
 今まで気付きもしなかったこと、そのこと自体に、眩暈がする。
「いいじゃねぇか」
 強い口調で言い放つ孫策に、はぐるぐる回る思考から一時解放された。
 孫策はの肩をしっかり掴み、逃げられないように固定すると、ぐっと顔を寄せて来る。
 目と目が近い。
 虹彩の為す線の一本一本が見える程だ。
「俺と居ると、安心するんだろ? そしたら、それでいいじゃねぇか。お前は俺と居る時が一番ラク。な、いいだろ」
「でも」
「でもじゃ、ねぇ」
 強い、射抜かれるような眼差しが、ふっと緩む。
「……俺が、居ると一番楽で、楽しいんだ、な?」
 それなら、嬉しい。
 孫策の声は何処かしみじみとしていて、心の底から喜んでいるように感じられた。
 言葉の表面だけ見れば、その通りかもしれない。
 しかしは、『だけど』とそれらすべてを否定している。
 本当は、そうではない。
「細かいことは、いいって」
 孫策の腕が、を巻き締め閉じ込める。
「俺が、好きだろ?」
 限定しなくても良い、だけど、俺のことも好きな筈だ。
 な、と穏やかに促す孫策を、は心底馬鹿な人だと思う。
「……うん……」
 だけど、孫策が好きだという気持ちに、嘘はなかった。

 孫策は例の紙包みを取り出すと、ざっと口の中に放り込む。
 水差しの口を直接含むと、の顎を取る。
 逆らおうとも思えず、は孫策の為すがままに受け止めた。
 飲み干して、の眉が軽く吊り上がる。
「……何か、多くなかった?」
「気にすんな」
 多かったのだ。
 適当なことをして、と腹も立つが、本気で怒った訳ではない。
 腹を立てられる訳もない。
 孫策はの襟を左右に割りながら、耳元にひそと囁き掛ける。
「……今日は、お前を苛め抜いてやっからな」
 ばくん、と心臓が跳ね上がる。
 一気に血が逆流し、顔が真っ赤になった。
 首の後ろまで紅潮するのを見て取って、孫策は満足げに笑う。
「あー、お前、口で色々言われんの、好きだったもんなぁ」
 座した足で孫策の腹を蹴るが、無理な体勢からの蹴りは痛みどころか痒みさえ与えられない。
 いいように捉えられて引っ繰り返され、は牀に倒された。
「……結構、いい眺めだな」
 倒れた拍子に裾が肌蹴て、片足とはいえ腿まで剥き出しになっている。
 深く割られた襟からは、胸乳が描く膨らみの一端が淡い影を宿していた。
 馬鹿なことをと思うも、孫策の胸板が作る影がぐんと迫って、は目を閉じた。
 温かな吐息が耳元に近付き、濡れた感触が耳朶に触れる。
 つっと舐め上げる舌がちろちろと小刻みに揺れ、ぞわぞわと悦を醸し出す。
「相変わらず、耳、弱ぇなぁ」
 吹き込まれる声は、囁きにも満たないような小さな掠れ声でも、の耳には不思議なくらい鮮明に聞こえてくる。
 無意識に身動ぎして逃れようとするのを、がっしりと引き戻されてより強い愛撫を施される。
 ぞわぞわ、が、ぞくぞくに変化し、寒気のような波は全身に広がって行く。
 神経に鋭く打ち込まれる悦とは別に、肌はほの赤く染まり、徐々に熱を帯びていった。
「んっ」
 耳孔に舌先が入り込む。
 濡れた、冷たい感触に、は身を竦めた。
 鼓膜に直接響く濡れた音に、は震えを止められずに声を上げ続ける。
「ん、ん……んん、ん……!」
 孫策の含むような笑い声が加わり、一層を責め立てた。
 が幾らもがいても、決して離さず気の済むまで愛撫を施し続けた孫策は、体を起こして改めてを見下ろす。
 すっかり熟したように全身を朱色に染めたは、固く目を閉じ眉を寄せている。
 眉間に刻まれた深い皺が、却って禁忌的で酷くそそられた。
 膝を割った手をそのまま上に滑らせると、の体は大きく跳ね上がる。
 熱く湿った肌が、孫策の手に吸い付いてくるようだ。
「ホントに、耳、弱ぇよなぁ」
 笑う孫策に、一度は不機嫌そうに目を開けたであったが、小刻みに触れる孫策の指に耐えかねたように再び目を閉じる。
 薄い襞をなぞるように擦ると、滲み出る粘液と相まってくちくちと小さな音を響かせる。
「聞こえるか?」
 は顔を腕で隠すようにして、孫策が与える微細な悦楽に耐えているようだった。
 目元の辺りこそ濃い影に隠れていたが、涙に潤んだ目が薄く開き孫策を睨んでいるのは分かる。
 構わず、秘裂に置いた指はそのまま、首筋に顔を埋めて舌でなぞっていく。
 逐一反応を返す体が愛おしい。
 腰に空いた手を回して抱き上げると、胸乳の先端を丹念に舐めしゃぶった。
「……ん、く……!」
 必死に堪えて噛み殺す声が、孫策には心地良い。
 嬌声という愛撫を受けているような気にさえなる。
「すっげ、ピンピンになってるな」
 舌先で突くと、丸く勃ち上がった乳首が舌を跳ね返してくる。
 ちろちろと舐め続けると、の吐息が熱く荒く変化した。
「そこ、ばっか……ちょっと……」
「ん?」
 ならば何処だ、と問い返されても、に答えられよう筈がない。
 返事がなければと愛撫を再開させる孫策に、はしばらくいたぶられるままだった。
 秘裂に触れる孫策の指が、溢れる愛液に濡れそぼつ。
 滑りでもするのか、時折気紛れに突き込まれる指はすぐさま引かれて緩く触れるだけに戻る。
 舌先の愛撫も指先の愛撫も、心地良いには違いない。
 だが、の体は既に雄の印による快楽を嫌という程覚えてしまっている。
 心も白く溶け行く強烈な悦と比べるには、あまりにも微弱に過ぎた。
「伯符……」
「ん?」
 孫策もそれは知っているのだろうが、『苛め抜く』の宣言を果たすつもりででも居るのか、まったく取り合おうとはしない。
「……い、挿れて……」
 またも滑り込む指に、全身に鳥肌が立つ程の衝撃が走る。
 素早く引き抜いてしまう孫策を、は恨めしげに見詰めた。
「……ん?」
 気付かぬ振りで笑って見せる孫策の目も、熱に滾っているのが何となく分かる。
 懸命に熱を抑え込んでいる孫策は、恐らくが言えばすぐさま望みを叶えてくれるだろう。
 口で言うだけ、簡単な話、と促されているのも気配で分かる。
 はおずおずと口を開くが、どうしても言葉が出ない。
「伯符……お願いだから……」
 腹の奥の方に火が点ったかのようだ。
 じりじりと熱く、全身から汗が噴き出してくる。
「ね、お願い……お願いだから……!」
 ひしと縋り付くを哀れに思ったのか否か、孫策はしばし考え込んで居た。
「……お前の×××に、俺の×××を突っ込んで欲しいんだよ、な?」
 露骨な物言いにの顔が更に赤くなる。
 が、その通りで否定も出来ない。
 は逡巡してみせたが、体の奥で引き攣る肉を感じ、大きく頷くことで降参した。
 孫策は、浮かせた腰をそのままにの背後に回り込み、大きく足を開かせる。
 羞恥から反射的に足を戻そうとするが、孫策の手に阻まれ、叶わなかった。
「上の穴が小便垂れる穴で、後ろが糞垂れる穴、真ん中が涎垂れて×××挿れる穴、と。女って、良く出来てるよな」
 な、同意を求められても、にしてみれば素直に頷ける問いではない。
 言わずにいいことを一々問い掛けてくる今日の孫策は、『苛め』というにも非道が過ぎる気がする。
 横たわる孫策の上に乗せられたは、それでも密着した孫策の肌に煽られて逆らうことが出来なかった。
 視界でさえ白く濁り、体は熱くなるばかりで、拒絶することなど思考の片隅にすら浮かばない。
 言えば、いいのか。
 自棄になって考えると、ほぼ同時に口から言葉が飛び出していた。
「挿れて、涎垂らしてる口に、伯符の、挿れて」
 届かない指を伸ばし、尻を揺らして孫策の先端に潤みきった秘裂を擦り付ける。
 可能であれば、そのまま呑み込みたかった。
 理性より飢えを優先させたに、孫策は一瞬放心し、次の瞬間以上に飢えてを求める。
「ほら、喰えよ、俺の、根元までしっかり、喰え……!」
 一人分の重さでさえ物の数ともせず腰を浮かせ、孫策は自分の凝った肉をの中へ押し込んでいく。
「あ、あ、嫌……」
 嫌などころか、泣く程気持ちいい。
 動かれたら気が狂ってしまうと思った刹那、孫策の腰が跳ね上がった。
「あ――――――――っ!!」
 絶叫に近い声に、孫策の体が一度止まる。
 途端、の悲鳴が迸った。
「駄目、止めちゃ駄目ぇっ!!」
 早く、と甘えた声で頭を振るに、孫策は苦い笑みを浮かべ、の望むとおりに腰を突き上げる。
 絶叫の合間合間に切なくよがり狂う声が混じり、更にその合間に孫策の字が連呼される。
「あぁ、いい、気持ち、いい……! 溶け、ちゃう、頭、溶けちゃう、伯符、溶けちゃ、あー……!」
 大きく足を開き、辛うじて爪先立ちするのを軸に自ら腰を揺する。
 鷲掴みされた乳房に自分の手を重ね、強く揉みしだいていた。
 いつもにも増して激しく乱れるに、孫策の興奮も強い。
「凄ぇ、も……お前、俺が居ない間、ずっとこんなじゃなかった、ろう、な……!」
 二人共に汗まみれで、飛び散る雫が汗なのか愛液なのかも区別が付かない。
 孫策の肉が押し込まれる度、の尻に当たって打擲めいた痛々しい音が響き渡った。
「……死んじゃう……も、良過ぎて、死んじゃう……!」
 ぼろぼろと涙を零すと、の体は喉を逸らして微かに痙攣し始めた。
 絶頂が近いと感じた孫策は、を起こすと動きやすいように這わせ、腰を引き上げる。
 四肢に力が入らず、くてっと体を投げ出すであったが、孫策を受け挿れた膣だけは強靭に孫策を締め上げていた。
 一息吐いて、矢庭に腰を突き出した孫策に、はびくんと跳ね上がり牀に敷かれた敷布を鷲掴みにした。
「あ、あっ、ああっ……!」
 甲高い嬌声が切羽詰まっていき、拳がぶるぶると震える。
 孫策が低く呻くと同時に、の中に熱い感触が迸った。
 びくびくと震える腹の中の肉に、大量の精を注ぎこまれたと自覚する。
 中に、と思うも、妙に満ち足りて嫌な気持ちではなかった。
「……んっ」
 未だ硬い肉が抜け落ち、はその場に臥した。
 孫策の手がの背中を撫で、すぐに止まる。
 一点を見詰めて動かぬ孫策は、いつの間にか入り込んでいた最愛の人の姿に愕然としていた。

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