孫権の肌の熱さは、孫策と何処か相通じるものがある。
武一筋の孫策と違い、孫権の肌は荒れて硬くなった感じはせず、どちらかと言うと滑らかだった。
孫策と肌を合わせると、組み敷かれているように感じるのだが、孫権の場合は包まれているという感じがする。
事後の取りとめもない思索に耽っていると、孫権が片肘を突いて起き上がった。
「私も、お前の何処がとは、はっきり言い表せない」
何の話だと問いそうになった。
口を開き掛けてすぐ、『自分の何処が好きなのか』と尋ねたに対する答えだと察した。
ので、そのまま口を閉ざし、孫権の横顔をただ見詰める。
孫権は考え考え、一番相応しいと思われる言葉を綴っているようだった。時折伏せる目の下に、睫の影が一層色濃く落ちる。
あれから孫権の室に移って、灯りを消さぬまま事に及んだ。
一度だけにしてくれとが請うと、孫権も太史慈と同じように了承してくれた。
違ったのは、太史慈には事に及ぶ前に頼み、孫権には事が終わった後に請うたことだった。
孫権はやや物足りなそうに見えたが、は敢えて気付かぬ振りをした。
普通は、逆なんじゃないのかなぁ。
男の方が女の何倍も疲れるという話だ。二度三度と請う女の話は聞いたことがあっても、男の話はあまり聞かない。
むしろ、もう勘弁してくれと拝む男の笑い話の方が多い気がした。
体力の差であろうことは勿論だが、性に対する執着があまりに強い気がする。
お国柄なのかもしれないが、余興の少ない時代だから、自然、性に興味を持つようになるのかもしれない。何せ、男と女が居ればすぐにも始められる事で、何であれば男と男、女と女でも十二分に……と、そこまで考えては慌てて首を振った。
孫権が折角真面目に答えてくれようとしているのに、一体何を考えているのか。
案の定、孫権はの唐突な仕草に怪訝そうな表情を浮かべた。
笑って誤魔化そうとすると、孫権は深い溜息を吐いた。
「……本当に、私は何故お前がいいのだろうな……解せん」
おい。
今の今まで肌を合わせていた相手に言うことではない。
受ける印象とは違って、孫権も意外と考えなしなのかもしれない。
DNAって、恐ろしい。
そこで、DNAの元の方を思い出す。
「どうして孫堅様、あんなこと仰ったんでしょう」
を共用の娼婦扱いするような発言は、あまりに衝撃的だった。
一応、は蜀の文官としての身分も立場もある筈だ。そういう女を娼婦扱いするなど、理解の範疇外だった。
それとも、この世界では当たり前なのだろうか。
「いや、まさか」
孫権はの想定を一蹴した。
身分の高低の問題ではなく、そういう『職』に就いてもない者を勝手に『任命』するなど有り得ない。
お前には嫌な話かもしれぬが、と前置きした上で、孫権はこの世界の実際を話し出した。
「確かに、街や軍には共用の娼婦という者達が存在する。だが、それは確固とした職だ。その……敗軍の将兵の妻子が多いとも聞くが……それとて、生活の糧として得るものがなければ生きられぬからこそ、だ」
言い訳がましいようにも聞こえたが、は特に軽蔑するとも思わなかった。
考えてみれば、敗軍の将兵はともかく、その妻子の扱いとなると複雑だろう。丁重に持て成す訳には行かないし、かと言って殺す程の話ではない。
男なら、子供とて成長した暁には親の仇と後日の禍根となる可能性が高いのだが、妻や幼い娘となるとその可能性はぐっと下がる。
乱世の常として男は戦で死に易く、女はだから、一々仇討ちすることを考えていては身がもたないのだ。
余程身分が高い女ならばともかく、討ち取られた将の妻は、実は以前に討ち取られた敗軍の将の妻だった、ということも稀ではない。
だから、妻にと望まれた女以外の多くは娼婦として生き長らえる。
逆らうならば死を賜るのみで、生きたければ娼婦にならざるを得ず、しかし娼婦になれば命は助かるという形式だ。どうしたいかの選択の自由は、形ばかりとは言え与えられていることになる。
武将文官の奥方として生きてきたからには、今更田畑を耕して生きていくこともままなるまいし、そうなると出来ることは限られてくる。
冷酷なように思えるが、娼婦として日々の糧にありつけるならば、それは乱世の作法としては有りなのかもしれない。
しかし、ではも同じようにと言われれば、断固として御免被る。
勝手な話と詰られようが、にその覚悟はまったくない。名も知れぬ赤の他人の身の上だから、実感もなく無責任に考えられるというだけで、自分の身には到底当てはめられなかった。
第一、蜀が負けた訳ではない。
友好の印として送られた『品』という訳でもない。
覚悟してきたのは、あくまで蜀と呉の蜜月をいつまでも続けられるよう、文官として努力するという一点のみだ。
でも、と後ろめたさに似た影が落ちる。
自分がそんな大役を勤められるだろうか。
もしも足を開いて受け入れて、それの数だけ友好度が上がると言うなら。
想像してみて、涙が滲む。
頭でいくら利点を考えても、本能の方が拒絶する。
理屈ではないのだ。
「どうした。やはり、嫌だったか」
孫権が心配そうにを見詰めている。
何でもないと孫権の肩を軽く押し、牀から下りようと背を向けた。
その背を、抱き締められる。
「何故、今宵に限って一度限などと言い出した」
今夜限りという訳ではない、出来得るならずっとそうしていただきたい。
孫権には失礼な話かも知れないが、今夜のペースで一度なら、も何とか相手を勤められる。
これが二度三度となれば、翌日には腰は痛いわ体はだるいわで、到底仕事がこなせなくなる。
の仕事はあくまで文官としての折衝であり、プライベートが仕事に影響するなどあってはならないことだと思う。
頭が固いと言われようが、これはのポリシーだった。
孫権は、黙ったままむっとしている。
ぎゅうぎゅう押し付けてくる体の一部が、固く凝っているのが分かった。
でも、じゃあもう一回だけ、なんてことになったら、昨日の太史慈殿みたいになるかもしれないし。
それでは元の木阿弥なのだ。
「……あの……手、とか、口で……良ければ、しますけど……」
出来る限り譲歩したつもりが、孫権の顔に浮かんだ怒気は更にその色を濃くする。
えええええ。
どうしたらいいのだろう。
本当に、仕事に差し支えるようでは困るのだ。明日は呂蒙のところで勉強を教わる予定になっていたし、やろうと思っていた大喬の為のお話作りは、結局アイディアを考えるところにもいっていない。
「お前も共にでなくては、嫌だ」
孫権の言葉に、は目をぱちくりとさせた。
「私一人が吐精しても何の意味もない。お前と共に果てなくては、意味がない」
恥を堪えているのか、孫権の頬は赤くなっていた。
わぁ。
の頬も釣られて赤くなる。
可愛いぞ、この人。めっちゃくちゃ可愛い。
頭の中で、サイレンのようにわぁわぁ喚きたてる声が反響している。
心臓が高らかに鳴り響き、自らには隠しようもない昂ぶりの証が秘裂を潤していた。
「……えと……」
口で説明するのはどうにもはばかられ、は牀に戻ると孫権の体を倒す。
「あの……ちょっと、失礼します」
自ら孫権の体を跨ぐ。恥ずかしかった。顔が熱くなるのと同時に、潤いはますます広がっていく。
の為すがままに任せている孫権だったが、何をしようとしているのかまでは想像が付かない。首を持ち上げ、を見上げる。
下からの角度で見上げる女の体は、その凹凸を際立たせて艶かしい。
思わず生唾を飲むと、孫権の昂ぶりの上に濡れた秘裂が押し当てられた。
「挿れるのは、やっぱり駄目ですけど、だから、あの……ちょっと、失礼します」
言うなり、孫権の肉を扱くようにの腰が前後に揺らめく。
挿入とは違い迸るような悦こそなかったが、それでも、ぬらぬらと濡れた肉に擦られ肉棒は反応を返す。
股間に沸き立つ悦よりも、どちらかと言えば下から見上げる眺めこそが心地良かった。
胸乳が震え、目の前で揺れている。
も感じているのか、紅潮した頬に潤んだ眼が艶かしい。
漏れ出る嬌声は小さかったが、その分背徳に満ちて孫権の興奮を誘った。
揺れている胸乳を掴むと、の顔が小さく仰け反る。心地良さの度合いを深めたようで、が必死に律動させていた腰の動きも止まってしまった。
「止まっているぞ」
孫権が意地悪く促すと、は不平も零さず素直に律動を再開させる。
「気持ち、悦く、ないです?」
途切れ途切れの声を出すのも辛そうなに、孫権は笑いを禁じ得なかった。
「お前は? 心地好くないのか」
は首を横に振り、熱い深い溜息を吐いた。
「……気持ち、いいです……」
恥ずかしげに伏せてはいたが、潤んだ目元に注した朱にの悦が見え隠れする。
意識を飛ばさない程度の緩い悦だけに、も甘んじて心地好さを感じられるのかもしれない。
「そうか」
孫権は起き上がると、体を反転させた。
が組み敷かれる形となり、驚きに固まっている。
「ちょ、だ、駄目って」
「挿れはすまい、だが、このままでは足らぬ」
孫権が笑い、肉棒を押し付けたままの腿を閉じ抱え上げる。
挿入そのままの動きで突き動かすと、の腿で擦られた肉から強烈な悦が湧き上がった。
「あ、あ」
の目は閉じられることもなく、互いの性器が触れ合い擦れ合うのを、魅入られたかのようにじっと見ている。
孫権の肉の先端から先走りの露が滲み出し、腿の間から亀頭が飛び出しては引っ込んでいく。
膣に納められた後は、こんな動きをしているのか。
やましい探究心に火が着き、興奮が収まらない。
奇妙な色形の肉が不思議に愛おしく、は矢も楯も堪らず孫権の腕を押さえた。
「……どうした」
それなりに果ての予感を覚えていた孫権は、突然邪魔立てされたことに眉を顰める。
「お願い、仲謀。あの、口でしたいの」
何を言い出すのか。
共に果てなくては意味がないと言ったばかりだ。
孫権の叱咤するような眼に、は泣き出しそうな顔でせがむ。
「お願い、口でしたいの。口でさせて。お願い」
渋々孫権がの足を離すと、は飛びつくように孫権の股間に顔を埋めた。
いきなり強く吸い上げられ、快楽よりも痛みに顔を顰めてしまう。
しかしは、気にした様子もなく一心不乱に舌を蠢かせた。
誰に教わった手管なのか、の舌使いは孫権を容易く追い詰める。
「ま、待て、」
あっという間に果てそうになり、孫権は悦に浸る間もなく慌てた。
「駄目。イヤ」
短く拒絶すると、は口淫を続ける。
じゅぷじゅぷと唾液が泡立つ音が、孫権の聴覚をも犯していく。
「……く……こ、の……」
堪えようとしたが、喉奥まで咥え込まれた衝撃で思わず射精してしまった。
顰め面で薄目を開けると、は孫権の放ったものを飲み干している。
尿道に残った精をも啜ってしまうと、ようやくは顔を上げた。
荒い息を吐いてはいるが、放心したように宙を見詰めるに、孫権は愕然とする。
「……果てた、のか……?」
「……みたい……」
ふぅ、と深い溜息を吐くと、は膝を崩してくったりと座り込んだ。
肌が細かに震えている。果てたようだという言葉に嘘は感じられなかった。
「わ、私は、何もしていないぞ」
動揺して、あらぬことを口走る。
咥えさせろと言うから咥えさせてやったが、まさかそれで果てるとは思わない。一体どれ程敏感で、どれ程淫乱な肌だというのか。
「……っ……」
孫権は、思い切りよくを引き倒す。
余韻に浸っていたは意表を突かれ、為す術もなく組み敷かれた。
「ちょ、え、仲謀!?」
「うるさいっ!」
じたばたもがき始めたの腕を、軽く捻って封じてしまう。
何がこんなに悔しいか、何故これ程腹立たしいのか分からぬまま、孫権は潤みきったの中に己の欲望を突き込んだ。