大事なものを守るために戦場を駆る。
轍で踏み潰したものに気がつかぬまま。
男の後を追う内に、見慣れた場所に出た。
扉の前にいる衛兵と男は、顔見知りなのか、拱手の礼を交わすとすぐに男と結を中に入れてくれた。
頭を下げながら中に入ると、やはり見慣れた男が卓に着いて何か書を認めていた。
「趙将軍、殿をお連れいたしました」
趙雲はそれに応え、労いの言葉をかけると人払いを命じた。
男は趙雲とに拱手の礼を取ると、そのまま立ち去った。
立ち尽くすに、趙雲はそっと寄り添うと腰に手をかけ引き寄せた。
「如何した」
「……さっきの人、誰?」
扉の方に目を向ける。案内すると言ってここに連れてきてくれたのだから、趙雲の部下だろうとは予想がついたが、しかし。
「あれは、私が命じての警護させていた、私の子飼の兵だ」
私兵だから、心配する必要はないと言われても、はただ戸惑うばかりだ。
「玄徳様の兵を私用で使わないっていうのは、いい心がけだと思うけど……あの人、私のこと見張ってたって事?」
趙雲は、そう言うだろうと思ったとばかりに小さく笑った。
「が外に出る時だけだ。普段は諸葛亮殿の兵と混じって、門を見張っている。が思うほど、屋敷の外は安全ではないのだからな」
白風のことも、知っていたのだろうか。
「知っていたよ。あの方は、恐ろしいほど目立つからな……容姿を聞いて、孫策殿だとすぐに分かった。何故偽名を使ったのかは分からないが、大方名前が出ると下手に動けなくなるとか、そういうことなのだろうな」
屋敷の中で起こったことは、さすがに知らないらしい。は少し安堵した。
何の為の安堵か、一瞬不安になった。
趙雲はそんなに気がつかなかったのか、卓の上にあった文箱から何かを取り出し、の手を取った。
指に、あの指輪が戻ってきた。
「子龍が、買ってたの」
趙雲の首が縦に振られ、にこりと笑った。
「幾らくらい、した? 私、お金あんまり持ってない」
そんなことが言いたいのではなかったが、口が勝手に言葉を紡いでしまう。
もっと言いたいことがある。聞いてもらいたいことがある。けれど、どう話していいか分からない。もどかしかった。
「には、借りが多く残っている。だから、いらない。けれど、それでの気が済まないと言うなら」
趙雲の唇が触れた。
優しく、ただ触れるだけの口付けはほんのりと温かく、夢を見ているように心地よかった。
唇が離れて、趙雲がと額をくっつけてきた。綺麗な顔が近い。どきどきした。
「……これで、いい?」
「全然足りない」
趙雲が、そのままの体勢でくつくつと笑う。
「……馬超とは、もうしたのか?」
際どい問いも、何故だか心が痺れたようになっていて、反抗する気にならない。
「……してない」
「それは、何を愚図愚図としているのだか。私はもう、我慢の限界なのだが……仕方ない、今宵にでも私がしてしまおう」
さらりと不穏なことを言う。
の頬が熱くなる。
「……子龍は、私が孟起としても、いいの?」
「嫌に決まっている」
言葉尻に被せるように、はっきりと、力強く否定する。
では、何故。
「の方寸は狭くて脆いから、私が無理やり独占したら壊れてしまうだろう? そんなことは、許さない。まだ馬超の下で喘いでいてくれた方がマシだ。私が忙しい間くらいは、奴にを貸しておいてやってもいい。そういうことだ」
何を言って。
「は、必ず私を選ぶ。そう言っておかなかったか? あんな男は、私の敵ではない」
何処からこんな自信が出てくるのだろうか。唖然とするばかりだ。
「……でも私、孟起とキスはしたよ」
それから、キスって接吻、と通釈をつけた。
「では、拭っておこうか」
唇が触れた。今度は、舌を絡めるような深い口付けだ。歯や上顎を舐められ、舌を吸われて軽く噛まれる。呼吸すら奪うように深く深く口付けられて、は眩暈を起こした。
趙雲の手が、の腰に伸び、スカートを捲り上げると下着を下ろしてしまった。
一瞬、ここでするのかと思ってしまい、ぎょっとする。
「は、すぐに濡れてしまうから」
ほら、と筋をなぞられて、びくんと腰が跳ね上がった。趙雲の言うとおり、既に潤い始めている。
「送っていってはやれないから、汚しては大変だろう?」
耳元で囁かれて、腰砕けになる。
「……先に、少し返してもらおうか」
の手を股間に導くと、固くなった存在を知らしめた。
「口で受け止めてくれ」
が戸惑ったように趙雲を見上げる。その目に嫌悪がないのを確認してから、趙雲は下帯の中から屹立した肉棒を取り出した。
の目が釘付けになるのを、趙雲は密かに笑った。
「職務中に、精の匂いをさせるわけにはいかない……が、口で受け止めて飲み干してくれ」
後ですれば、と恥らって逆らうを抱き寄せ、趙雲は耳元に囁いた。
「……こんなになっているのに、このままにしておけというのか? 酷いことを言う」
「だっ……だって、したことない……」
本では、あんないやらしいことを描いているのに、と言うと、は眉を顰めて口篭った。
「あれは、だって想像とか、動画とか、色々参考資料があるんだもん……実際にやってるわけじゃないよ」
「では、嫌か? したくない?」
の手に、ぐっと自身を押し付けると、先端から先走りの雫が零れての手を濡らした。
ぬるりとした感触に、の眉が下がった。困惑している。趙雲は黙ることで、の決意を促した。
「……下手でも、知らないよ」
よろけるように膝をつき、趙雲の股間に向かい合う。
こうして改めて見ると、見慣れない質感だ。グロテスクのようにも見えるし、妙に愛おしいようにも思える。
目を閉じて、震える舌を伸ばした。
舌先に温かい感触が触れ、驚き舌を少し引っ込めた。
口の中に溜まった唾を飲み込み、改めて舌を伸ばした。今度は、少し舐めてみた。
嫌悪感が、恐ろしいほどなかった。
もっと嫌なものかと思っていたのだが、意外に平気な自分に驚きながら、は少しずつ舌の動きを大きくした。舌が触れるたびに、趙雲のものが微かに痙攣しているような気がする。
気持ちいいだろうか。
上目遣いにこっそり見上げると、趙雲と視線がかち合った。趙雲が笑っている。無性に恥ずかしくなってきた。
止まってしまったの髪を、趙雲の手が撫で上げる。
「咥えて」
短い指示に、は赤くなりながら、小さく頷いた。
口を大きく開いて、先端を咥える。口の中で、趙雲のものがぶるっと震えた。
ここから、どうすればいいだろうか。
は、自分の描いたものや、読み漁って得た知識を総動員しながら、とりあえず舌を動かしてみた。口をすぼめて吸うと、趙雲が微かに呻く。
痛かったのかと慌てて口を離すと、趙雲が笑っての唇をなぞった。
「……本当に、したことがない?」
顔が熱くなった。趙雲の言葉から、気持ちよかったらしいと分かった。同人誌も、結構為になる。
変に感心しながら、は気を入れて行為を再開させた。
尿道を舌で突付くと、趙雲の体が揺れる。熱い息が頭上から落ちてきて、を煽る。
口をすぼめたり、熱心に嘗め回したりしながら、指で双玉に触れてみた。
「……そこは、いい」
趙雲が苦笑しながらの頬を指で撫でた。
「ここは嫌?」
潰されそうな気がする、と言って笑う趙雲に、は赤くなって膨れてみせた。
「そんなこと、しない」
「……では、舌で舐めてくれ」
優しく、と付け足され、一瞬噛み付いてやろうかと思ったのだが、大人しく指示に従った。
趙雲の息が上がっていく。そのことが、の優越感をくすぐった。
根元の方から舌を這わせ、くびれの部分に口付けを送ると、嬉しいとでも言うように亀頭がひくりと揺れた。
再び口に含むと、微かな塩気が舌を痺れさせた。
手を添えて、奥まで飲み込む。
趙雲の喉から切なげな喘ぎ声が漏れた。ぞくりとする。
煽られて吸い上げると、舌と肉棒が擦れて音が立った。
自分が立てた卑猥な音に煽られて、はわざと音が立つように試みた。
こんな音がするんだ、へぇ、と冷静に観察する自分と、体の奥の方でじりじりと焦げ付く強烈な悦を耐える自分の間で揺れる。
自制をしたくもあり、このまま溺れてもしまいたかった。
「」
達くのか、と思って見上げると、趙雲が困ったように見ている。違ったらしい。が口を離そうとすると、趙雲がそれを押し留めた。
「時間がない。少し乱暴にするが、我慢してくれ」
え、と思う間もなくの口中に趙雲が腰を突き込み始めた。驚き、逃げようとするのだが、趙雲の手がしっかりとを押さえていて叶わない。
口の端から、唾液が雫となって垂れた。
必死に耐えていると、趙雲の息遣いが荒くなり、の口中の亀頭がドクンと脈打ち、膨れ上がったのが分かった。
「……、達く……」
掠れた声が耳元に届き、が緊張して力を篭めた瞬間、喉に目掛けて熱いものが迸った。
むせて吐き出しそうになるのを必死に耐える。量が多いので、何度かに分けて嚥下しなくてはならなかった。
最後に先端を吸うと、残滓と思しきぬるりとした液が舌に残った。これも嚥下する。
ほっとすると同時にへたり込む。頭の中がぼうっとして、熱かった。
「、口を開けろ」
趙雲の命令にはおとなしく従う。
「……本当に、すべて飲み干したか。まったく、は……」
何か言いかけ、苦笑いして留めた。
「そのまま」
趙雲がの開いた口に口付けようとすると、は慌てて口元を覆った。
「……?」
無言で咎めると、はうろたえて俯いた。
「だっ……だって、今……口で……」
馬鹿、と小さく罵り、笑いながら口付けた。唇を合わせてから、舌を合わせ、そっと吸い上げる。微かに生臭い匂いがしたが、趙雲は気にしなかった。
を立ち上がらせると、スカートの裾を捲り上げ、手に持たせた。
「嫌だったら、手を離せばいい。分かったな?」
何が何だか分からなかったが、は趙雲の言葉にとりあえず頷いた。今度は趙雲がしゃがみ込む。
濡れた秘部を、ちろりと舐め上げられ、は声もなく呻いた。
「凄い濡れ方だな……」
単なる感想なのだろうが、漏れ聞こえる趙雲の声がの皮膚に刺激を与え、力の入らない足をよろめかせた。
ちゃんと立て、と足を割られ、足を開いた状態で立たされる。ちょうど、体育の時間の『休め』のポーズのようだ。趙雲の体が入ってきて、舌を押し付けてきた。
趙雲の舌が太腿の奥から更に奥へと移動する。濡れた音が耳に響き、は唇を噛み締めた。
自ら裾を捲り上げている自分を、趙雲は如何見ているのかと考えると、それだけで体が熱くなる。
珠の部分を舐め上げられ、舌を膣に突きこまれる。
そのたびにの体が揺れ、こみ上げる悦に悲鳴を飲む。
堪えられなければ、手を離してしまえばいい。
けれど、もっと趙雲に触れていて欲しくて、手を離せなかった。
趙雲に触れられてすぐに瞼の裏に明滅するものが見えて、はその光に目を凝らした。
「あ、あ……!」
控えめな声を立てて、も達した。
水差しの水で手巾を湿らせ、の股間を拭う。冷たさと再び目覚めそうな悦に、がじたばたと暴れた。
拭い終わると、下着を上げてやる。
は、自分で出来ると文句を言ったが、照れているのだと察した趙雲は知らぬ顔だ。
「子龍は?」
「がちゃんと始末してくれたから、いい」
趙雲の言葉に、の顔が真っ赤になった。照れ隠しなのか、趙雲の肩をばすばす叩いてくる。
の手を取ると、抱き寄せた。
「……孫策殿と、何かあったか」
孫策の名前を出した瞬間、の顔が強張った。
「何があったか知らないが……許して差し上げろ。おそらく、悪気はない」
「悪気はないったって……」
趙雲は知らないだろうが、孫策はを連れて行くと宣言したのだ。
大喬という三国にその名の鳴り響く美しい女性を妻にしておいて、戯れにも程がある。
でも。
がうなされているのが心配で来てくれたのは、たぶん本当だろう。一度城を抜け出して、もう一度抜け出すのは至難の業だったはずだ。同盟しているとは言え、蜀と呉は本来敵同士なのだ。見張りだとて、それなりについていたに違いない。それを、わざわざの為に抜け出してくれたのだ。
趙雲が、笑った。
「顔の険が消えたな。許す気になったか」
見切られるのは、あまり嬉しくない。不貞腐れて見せると、趙雲の笑みは深くなった。
「……私があいつ許すの、そんなに嬉しいもん?」
普通はむしろ、仲違いしていた方が嬉しいものではないだろうか。趙雲にとって孫策は、惚れた女に纏わりつく虫のような存在のはずだ。
趙雲はくつくつと笑う。
「は私にだけ怒っていればいい」
は、如何でもいい人間には怒りすらしない。一人で煮詰まってこそいるが、怒鳴りもしなければ不平を言いもしない。泣くことすらしない。
が怒るのは、その人間に惹かれている時だ。気持ちを注ぐ相手にだけ、烈火のように怒る。
趙雲は、だから、が孫策に怒るのを嬉しく思わない。が怒るのは、自分に対してだけでいい。
と言って、わざわざ説明してなどやらないが。それこそ敵に塩を送るようなものだ。
は趙雲の言葉を理解しかねて首を傾げている。
その顎を捉えて、口付けを送る。
「今宵遅くになると思うが、身を清めて寝ずに待っていること」
顔を、触れ合うほど近くにして、趙雲は囁いた。
は頬を赤らめて、しばらく口の中でぶつぶつ言っていたが、そのうち小さく頷いた。
「門を守る護衛兵に、私が来たら黙って通すように命じること」
え、それは、と言いかけるのを口で封じて、趙雲はの背を押した。
「なるべく早くに向かえるようにする。酒肴を用意して待っていてくれ」
少し不安げに見上げてくるのが愛しくて、趙雲は扉の前で素早くの唇を奪った。
扉が開き、離れたところにの警護を任せた男が控えているのが目に入った。目配せをすると、頷いて返す。
に束の間の別れを告げ、趙雲は残った業務を片すべく卓に戻った。
馬超には、やや引け目のあるものを感じていた。だからこそ借りを返すべく、時間と機会を黙認し、設けてやってきた。
だが、孫策という強力な駒が現れた以上、借りの義理のと言っている場合ではなくなった。下手をすれば、強権を発動しかねない。無意識であれ無自覚であれ、孫策の一言は同盟国呉の一言なのだ。
誰にも、渡さない。
趙雲は、自らの体の奥底で、黒い何かが蠢くのを自覚した。