近付くにつれ、音楽と人のさざめくような声が大きくなってくる。今宵は、政治的な会合というより、本当にただの歓待の宴のようだ。
 手招きされて、柱の影の扉からこっそりと宴の間に入る。
 装飾のための厚い布地を潜り抜けると、コの字型に配された卓がまず目に付いた。の側には蜀の文官、反対側には恐らく呉の文官……中には武官というか、将軍達も混じっているようだが……
が、ずらりと腰掛けている。
 コの字の縦棒にあたる部分に、劉備と尚香、その横には恐らくあれが孫堅か、中年の渋い男が
座っていた。娘も相当美形だが、父親も相当整った顔をしている。外国の、何とか言う俳優に似ていると思った。
 趙雲は劉備の後ろに立ち、を見ていた。が入ってきた時から気付いていたようだ。目敏い。
 これだけ多くの豪華な衣装を纏った文官やきらきらしい鎧を纏った武官の中でも、趙雲は一際
凛々しく美麗だ。 我が事のように嬉しくなり、は趙雲に微笑みかけた。応えてくれるかと思ったのだが、趙雲はややぎこちなく目を向けた後、伏せてしまった。
 仕事中だから、迷惑だったかな。
 理解は出来るが、先程まで落ち込んでいただけにの心は曇った。
 視線を感じて振り向くと、船着場でに話しかけてきた男がいた。目が合うと、ひらひらと手を振って寄越す。思わず顔がむっとしてしまい、はそのまま先導の上官の後を追った。

 男……凌統は、『ありゃ』と呟き、面白そうにを見遣る。
「何を見ている?」
 小用に立っていた呂蒙が、戻り際に凌統の様子に気がついたらしい。
 凌統は黙ってを指差す。呂蒙は凌統の指の先を追い、の姿を認めると、首を傾げた。
「誰だ、あの女子は?」
「あれが殿ですよ」
 何、と呂蒙が唸る。
「俺は……女子には疎いが……」
「はっきり言って下さいよ、美人って顔じゃないですよね」
 おい、と呂蒙は慌てて凌統を留める。凌統は、口の端をにっと歪めて笑った。
「でもね、近くで見ると、あれでなかなか愛嬌があって、飽きない顔なんですよ……もっとも、若殿のお相手としちゃあ如何かな、と思いますけどねぇ」
 凌統の口の悪さはいつものことだが、何処かいつもと違う。何が違うのかと言われても答えられないが、呂蒙は押し黙って凌統の横顔を見つめた。

 が案内されたのは、尚香の元だった。
「待ってたのよー、ー」
 喜色満面、という面持ちの尚香とは裏腹に、は少し拍子抜けしていた。孫策ではなかったのだ。
 酒の席で暇だ、何か話をしてと強請られる。
 はいはい、と笑顔で応じながら、疑って悪かったな、と孫策のいる席の方に目を遣ると、偶然孫策もこちらを見たところだった。
 孫策の顔が、ぱあっと明るく染まる。こちらが恥ずかしくなるほど率直な反応に、は思わず他人の振りをした。
!」
 無論、孫策がその程度のことを気にするわけもない。椅子を蹴って、飼い犬が大好きな飼い主に飛びつくように駆けて来る。
「何だ、お前来てたのか! 俺、何時抜け出してお前の所に行くか、考えてたとこだったんだぜー」
 呼びつける、ではなく行くつもりだった。
 褒めていいのか叱っていいか分からず、は言葉を失くした。
「何よ兄様、は私が呼んだんだから!」
 突然、尚香が割り込んできた。の二の腕を両手で抱え込み、絶対死守の構えだ。意外に力が強く、はいわゆる『雑巾絞り』の痛みに耐えなければならなかった。
「何だよ、お前は蜀から船乗ってる間、ずっとと一緒だったんだろ」
 と、孫策がの反対側の手首を引っ掴み、無理やり連れて行こうとする。尚香が負けじと引っ張るものだから、はいわゆる『大岡裁き』の(以下同文)。
「一緒の船だったってだけじゃない、は仕事があったから、なかなか遊んでもらえなかったんだから! ここにいる間は、は私付きなの! ね、玄徳様!」
 埒が明かないと踏んだ尚香は、夫である劉備を巻き込む。劉備は、困ったように小首を傾げ、『そうだったかな』などと呟いた。
 いっそ、『そうだった』と言ってもらえれば、も孫策を制することができるのだが、初耳の話に加えて中途半端な返事とあって、は軽いパニックを起こしていた。形式的には、妻の実家に挨拶に訪れた夫を歓待する宴なのだろうが、実際には二国の代表が集う宴の真っ最中なのだ。テレビでよく見る、だだっ広い部屋の窓際に、SPや秘書と思しき男達に囲まれた両国代表が、座りのいいソファにどっかり腰掛けて会談している、アレとそう変わらない状況のはずなのだ。
 そんなことを考えていると、余計にパニックが酷くなった。
 脳裏にテレビの枠が現れ、中年の親父達を映している。その脇で、が孫策と尚香に綱引きされている喧騒がちらちらと映るのだ。
 ひぃ。
 ど、ど、どうしたら、とおたついているの視界はゼロに近い。困り果てた劉備が、ともかくを助け出させようと趙雲に目配せをし、合図があるや否や飛び出そうとした趙雲に、だが寸前で待ったがかかった。
「二人とも、大概にしないか」
 落ち着いた声が響き、は誰かに引き寄せられた。
「でも」
 親父、父様と声が重なる。が慌てて振り仰ぐと、孫堅がを抱き締めていた。
 呆然と見上げるに、孫堅は微笑みかける。うっとりするように男臭い、渋い微笑だ。
 い、いかんいかん。
 我に返って、は孫堅の腕の中から飛び出し、拱手の礼を取った。
 孫堅は、拱手の形が崩れる前にの手を取り、すたすたと自分の席へ戻る。当然、も引っ張られて連れて行かれる。
「父様!」
 尚香が憤慨したように抗議の声を上げるが、孫堅は取り合わない。立っていた家人にの為に椅子を用意するように申し付け、再びに微笑みかけた。
「噂は、かねがね。南方からいらしたそうだが、何か話を聞かせてもらえないだろうか」
 尚香が、今度は孫策と一緒になって騒ぎ出す。孫堅は、鼻で笑って子供達をあしらった。
「お前達はいい年をして、子供のように言い争っているからいかんのだ。今宵は、俺が殿を独占させてもらう。いいだろう、劉備殿」
 劉備は、尚香の無言の圧力にも気付かなかったようで、『はあ、まあ』と了承してしまった。
 孫堅の命、加えて夫が承諾してしまったとあっては、さすがの尚香も言い返す手立てがないようだ。ぶすくれて、そっぽを向いてしまった。
 孫策も、渋々ながら席に戻る。孫堅の隣なら、自分からも隣になるので、譲渡できたのだろう。ただ、の脇を通った時に辺りはばかりなく『後でな』と言って寄越して、は少し青褪めた。
「さぁ」
 孫堅の真横に置かれた椅子に、はぎょっとした。
「え、いえ、私は立ったままで……」
「それでは声が聞き取りにくい」
 何であれば俺の膝の上でも、と言い出したので、は慌てて座った。
 目の位置が近くなり、表情が良く見える。が座ると、孫堅はにやり、と笑った。してやったりといった感じだ。
 悪戯っぽい表情に、孫策も尚香も、間違いなくこの人のDNAを継いでいると思った。それも、かなり濃く受け継いだに違いない。
 しかし、座ってみると何を話したものかと困惑する。尚香には、何か面白いことはないかとせっつかれ、グリム童話か何かを話したのが始まりだった気がする。諸葛亮にいたっては、の口が軽くなるように誘い水を向け、後はが話したいように話させるのが常だった。姜維もそれに近い。馬超は逆に、俺の話を聞けと言わんばかりに勝手に話をするので、相槌や感想を述べていればいい。
 蜀の同盟、呉の君主相手に、いったい何を話したものか。
 下手に話せば機嫌を損ねて、首が飛んだりしないだろうか。は、手の平がぐっしょりと濡れているのを感じた。
 孫堅が、急にの肩に手を回し、向きを変えさせる。
「策、は知っているのだったな。隣にいるのが周瑜、そのまた隣が権だ。後ろにいるのが周泰。その次が」
 耳に馴染みの名前が次々と挙がり、は目を白黒させながら孫堅の紹介に耳を傾けた。
 孫堅の声が届いたのか、列席の皆が徐々にの存在に気付き、視線を送ってくる。耐えかねて肩を竦めると、置いた手から伝わったのか、孫堅がを安堵させるように微笑む。の表情が少し緩んだのを確認してから、再び紹介は続いた。
 その指の先に、船着場にいた女の子の顔を発見して、は驚いた。
「……小喬を知っているのか?」
 目敏く孫堅に指摘され、は慌てて言い繕った。
「いえ、あの、船着場にいらっしゃったので……」
 嘘ではないが全てでもない。孫堅は、の胸の内を覗き込むようにじっと見つめたが、は俯き、孫堅の視線を避けた。
「……ならば、話は早いな。小喬の手前が大喬……」
 孫堅の言葉は続いたが、には聞こえなくなっていた。
 あれが。
 楚々とした、清純な印象。年の頃はやはり少女といって差し支えないだろう。大人しい感じの、美しい女の子だった。
 孫策をちらりと盗み見ると、ずっとこちらを見ていたのか、にっかりと笑って手を振ってきた。何故か焦って視線を戻す。
「あれが凌統」
 やはり聞きなれた名前に顔を上げると、に言いたい放題だったあの男が、にやにやと笑っていた。
 あれが凌統か。
 ゲームとして画面で見るのと、実際に会ってみるのとはだいぶ印象が変わるのだ。趙雲と会った時から分かっていたことだが、顔を覚えるのが得意でないは、覚えきれるか自信がなくなってきた。
 それにしても、何故大喬と小喬は、夫である孫策と周瑜の隣に座らないのだろう。宴席に夫人がいることも、何となく違和感があったのだが、離れて座っているのもまた違和感だ。
 察したのかは分からないが、孫堅がフォローを入れてくれる。
「うちは大雑把なのでな、席の順は、早い者勝ちになっている」
「……はいぃ?」
 思わず右京さん言葉になってしまった。
 大雑把過ぎるのではないだろうか。
「策はいつも一番前に座りたがるのでな、まぁ隣に策が暴れぬよう周瑜が座り、隣に権、というところはだいたいいつも同じだが、後は特に決まってはおらんな」
 変だ。
 蜀は、一応年功序列に準じて席が割り当てられている。それが普通だと思ったし、それ以外考えもしなかった。何と言っても何でもかんでもうるさいイメージのある儒教の盛んな時代のはずだし、大学のコンパでもあるまいし、早い者勝ちってどうなんだろう。
 ぽかんとしているを、孫堅は面白そうに見ている。
「酒は呑めるな?」
「あ、えと、少しなら……」
 結構飲む方だと思っているが、場が場なので遠慮する。本当は、出来ればアルコールは入れたくない。けれど、呑めませんと言うのは角が立つ気がして、は無難な返答を返した。
「ほう、呑めるか。それはいい」
 にこにこと機嫌よく杯を申しつけ、孫堅は話を続ける。
殿の国では、男も女も酒を酌み交わすのかな」
 あ、とは思わず言葉を詰まらせた。
「……こちらでは、そうではないのでしょうか……」
 恐る恐る伺いを立てると、孫堅はにこにことしたまま答える。
「女子で酒を嗜む者は、あまり居らんな……殿が呑めるのであれば、それに越した事はない」
 いい呑み相手が出来たと孫堅は笑う。
 は、無難にと選んだ答えが間違っていたと、完全に萎縮してしまった。孫堅はすぐに察して、の顔を覗き込む。
 吐息が触れるくらいの近さに、はぎょっとして身を引く。座っていた椅子が斜めに傾いで、バランスを取るのに必死になった。
「俺相手では、不足かな」
 むぅ、と真顔で悩まれ、はおたおたしながら手を振った。
「いえ、いえいえいえ、そんなことは決して」
 途端、孫堅の顔が再び綻ぶ。
「そうか、それは良かった。何せ、策は酔うと暴れるし、権は酒癖悪く絡んでくるし、尚香に至っては下戸とくる。ようやく俺にもいい呑み相手ができた」
 快活に笑う孫堅に、耳聡い息子や娘から抗議の声が上がる。
 そうこうしている間に杯が運ばれ、の手に握らされる。見目麗しい家人がの杯を芳醇な香りの酒で満たし、静かに下がった。
 は、ずっとおたついている。自分はただの文官なのだ。それなのに、どうしてこんな賓客の扱いを受けているのだろう。
殿の国では、最初にどうするのかな」
 孫堅が優しく尋ねてくる。耳に心地よい張りのある声は、逆にを焦らせる。
「え、あの、杯を合わせて、乾杯って言ったりしますけど」
 杯を合わせるとは、と問われて、割れたりぶつけたりしない程度に、軽く当てるのだと説明した。
「そうか、ではやってみよう」
 孫堅は早速杯を掲げ、乾杯、と言いながらの杯に己の杯を合わせた。金属で出来た杯は、かちん、と硬い音を立て、中に満たされた酒がゆらゆらと揺れる。
 杯を飲み干す孫堅を見ながら、も恐る恐る口にした。
 香りを裏切らず、甘いような、それでいてさっぱりとした深いコクのある酒だった。
 は、この時代にこれだけ美味な酒があるのだと初めて知って驚いた。
「美味しいです」
 言葉は、吟味する前に漏れ、孫堅はそれは良かったとだけ言って、ただ笑った。
 家人から酒壺を取り上げ、孫堅自らがの杯を満たす。まだ半分も呑んでないのだが、断る前になみなみと注がれ、は困惑したように孫堅と杯を見比べた。
「口にあって良かった。それで、殿の国は宴会の時、どんなことをするのだろうか」
 の視線を気にもせず、孫堅はの話を強請る。
「あ、えぇと、普通の宴会なら、乾杯の挨拶をした後は、無礼講といって、身分の上下関係なく呑んだり騒いだりします、ね」
 それはいい、と言うなり、孫堅は立ち上がり、広間を見回しながら高らかに宣言した。
「皆、今宵は『無礼講』だ。存分に飲み食いし、語り、騒ぐが良い!」
 呉の人間はわっと盛り上がり、蜀の人間は戸惑いつつも、次から次に杯を進められてピッチを上げていった。
 楽隊は賑やかな音楽を奏で、待ってましたと言わんばかりに次から次へと酒が運び込まれた。
 は、座り直す孫堅を呆然と見つめた。の様子に気がつき、孫堅はにっこりと笑う。
「如何かしたのか」
 如何、と言われても何と言っていいか分からない。は、手持ち無沙汰になってしまい、手にした杯を傾けた。量が減ったところを、今度は孫策が注ぎに来る。
「無礼講っていいな、面白いぜ」
 今度は劉備に注ぎに行き、劉備も面食らいながら杯を受けている。
 もはや席に掛けているのはわずかだけで、蜀の面々も呉の連中に引っ張り出され、立ったまま杯を受けたり送ったりしている。
「え、と、わ、私も……」
 が立ち上がろうとすると、孫堅がさっと手を伸ばして引き留める。
「言ったろう。は、今宵は俺が独占すると」
 呑め、と言われて、は孫堅が勧めるままに酒を口にする。呑んだ端から酒が注がれて、いったいどれくらいの量を呑んだのかも分からなくなる。喧騒と人の熱で、は徐々にぼうっとし始めた。
 孫堅が何か話しかけているのを懸命に聞き取るのだが、段々判別がつかなくなってくる。
 ちゃんと聞かなければ、と懸命に目を擦った。
 孫堅は、気がついているのかいないのか、自分にも酒を注ぎつつ、の杯を満たすのも忘れない。
 人にばかり呑ませないのは、いいな、とは笑った。
 セクハラもしないし、親父ギャグも飛ばさない。変な下ネタも言わないし、臨機応変に機知に富んだ相槌が入る。君主というだけあって、孫堅の対応は紳士そのものに思えた。
「……では、住んでいた村がどうなったかはもう……」
「……途中からは、一人で逃げ延びて……」
「……蜀に落ちたのは、偶然だったと……」
「……それは、どのような……」
 はい、いいえと答えるのが精一杯になってきた。頭の中がぼんやりと霞み、眠くてたまらない。
「聞かせてもらえないだろうか」
 いいですよ、と答える。目を閉じ、すっと息を吸った。
「……もう一度。他にも知っているものがあれば」
 知ってるも何も、たくさんありますから。
「……そうなのか。それは凄い……では、知っている限り聞かせてもらえないだろうか」
 そんな、朝になってしまいますよ。
 ふと、は周囲の喧騒が止んでいることに気がついた。辺りを見渡せば、皆が皆、孫堅を見ている。いや、を見ている。
 え、と孫堅に向き直ると、落ちた髪をさらりと撫でてくる。
「気にするな。は、俺だけ見ていればいい」
 口説き文句みたいだな、と、はこっそり汗を拭った。
 気にするなといわれれば余計に気になる。
 劉備や尚香は感嘆の目で見ている。面白い冒険談を話して聞かせた時のような顔だ。
 孫策は、機嫌よくの、要するに孫堅の卓の前に張り付き、にこにことを見つめている。目だけ出したその様は、何時かの記憶と重なって見える。
 周瑜は、何か苦虫を噛み潰したような顔だ。呂蒙は、感心したように腕組みをしている。陸遜は理知的に顔を輝かせ、孫権は不思議そうにこちらを見ていた。周泰は……よく分からない。大喬は、少し顔を赤らめていたし、小喬は隠そうともせずぶすったれていた。
 何?
 は首を傾げた。孫堅が耳に掛けてくれた髪が、重みに耐えかねてまたはらりと落ちた。
 趙雲に目を向ける。
 少し怒ったような、不機嫌そうな顔をしている。
 はっとした。
 は、身を縮こまらせて俯いた。
 何かしてしまったのだと直感した。酔いにかまけて、何か口走るかおかしなことをしてしまったに違いない。

 孫堅が俯いたの顔を上げさせようとするが、は無言のまま、頑なに拒んだ。
 劉備は、趙雲に目を向けるが、表情を常の無表情に戻した趙雲は、黙って首を振った。
「……孫堅殿、は疲れたようだ。休ませてやってもよろしいだろうか」
 劉備の申し出に、孫堅は一瞬未練を見せたが、の様子に手を離した。
 馬良が駆けつけ、を促して退室する。足元が覚束なくなっており、孫策が手を伸ばしかけるのを周瑜が引き留めた。周瑜の視線の先に大喬の姿を捕らえ、孫策は戸惑いながら伸ばした手を下ろした。
 が退室してしまうと、辺りがざわめく。
 凌統は杯から酒を啜り、ふぅ、と溜息を吐いた。
「なるほどね……全部が全部、贔屓目って訳じゃなかったってことか」
 独り言を聞きとがめた呂蒙が、何だと声を掛けてくる。
 何でもありませんよ、と誤魔化して、凌統はまた、杯に口をつけた。

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