彼女が指し示すのは未来。人の心に潜む本性、その下の魂の形。
重なり合って暴かれる矛盾した現実を前に、如何にして立ち向かおうか。
押さえつけるのか、逃げ出すのか、あるがままに受け入れるのか。
今日は色々あって疲れた。
天井から落ちた雫が幾つもの円を描くのを眺めながら、はぼんやりと湯に浸かっていた。
男の膝の上で、淡々とした言葉に潜む毒に肝を冷やしながら縮こまっていると言うのはなかなか出来ない体験だ。もう二度と体験したくはなかったが。
イベント疲れに重ねて泣いたこともあり、風呂から上がったらもう寝てしまおうと思った。
湯船から上がると、タオルを外して髪をすすぐ。トリートメントの淡い花の香りが、ふんわりと鼻をくすぐった。シャワーを止め、ボディスポンジにボディシャンプーを振り掛ける。二三度揉み込むと、白い泡が膨らんだ。
首筋から左腕、左胸とこすっていく。柔らかい泡が肌を滑って心地よい。
ガラ、という音と共に、背中に冷たい風が当たった。
振り返った先に、趙雲が立っていた。
「……え、と……」
思考が止まる。
全身肌色に見える。というか、何も着ていないんじゃないだろうか。
風呂に服着て入る馬鹿はいないね、うん、と心の内で頷く。
裸だ、よ、ね…。
「……お風呂……入るの……か、な……?」
いや、でも、と頭の中で言葉が続く。私が入ってるんですが。
趙雲は、気にした風でもなく後ろ手で風呂の引き戸を閉め、の背後に座った。
タイル地の上に敷いたウレタンがきゅい、と甲高く鳴ったのが聞こえた。
腰掛に掛けていたの腰に手を回し、膝の上に抱え上げる。ボディシャンプーで滑りの良くなった腰掛は、何の抵抗も摩擦もなくの尻を後ろに追いやった。
先ほどと違い、横抱きにではなく、背後から抱え込むように抱かれている。
湯で温められた剥き出しの肌には、趙雲の肌は少し冷たく感じた。
「……えー……と……」
状況があまりにも逸脱して、の神経が追いついてくれない。
気持ちばかりが焦って、何がどうなっているのかすら掴めないでいた。
不意に、うなじの辺りに温い何かが押し付けられた。
ぬるり、と蠢くものがある。
「ぎゃ」
小さく呻く。例えて言うなら、熱を持ったナメクジが首筋を這っている。
ぬるぬるとゆっくり移動するナメクジの気色悪さに、は趙雲の腕から抜け出そうとじたばたし始めた。
それがいけない。
力を篭めるために膝を着いたが、趙雲の膝を避けたことによって、自ら足を開いたのと同義だ。
趙雲は、待っていましたと言わんばかりに身を乗り出す。
逃げ出そうとするの動きと、身を乗り出す趙雲の動きがあいまって、気がつけば四つん這いに這わされていた。
え、え、え、え。
混乱に陥ったは、とにかく逃げ出そうと声もなく暴れる。
力の差は歴然としていたが、ボディシャンプーのせいで滑り、趙雲もを捕らえきれないでいる。
腰掛が跳ね飛ばされ、すぐタイルの壁に当たって横倒しに倒れた。
ウレタンが、耳障りな音をたてる。
趙雲の腕が伸び、シャワーの栓を開いた。
の顔に熱い湯が直撃し、咽る。
湯は、の体を守っていた泡をことごとく洗い流してしまった。
趙雲の指が柔らかい脇腹に食い込む。
引き戻されて、再びぬるぬるしたものが首筋を這い始めた。ぬるぬるしたものが、趙雲の舌だと察知したのはこの時だ。
「な、な、何、何してんの、ちょっと……」
聞かずとも分かりそうなものだが、聞かずにはおられない。当然、趙雲は答えない。
舌が耳に移った。
「やっ」
どちらかと言えば鈍かった反応が、途端に良くなる。
耳が弱いらしい。
気を良くしたのか、趙雲はの耳を執拗に責めにかかる。
「……っ、ちょっ……や……」
唇を噛み締めて堪えるが、シャワーの熱で息が苦しい。どうしても口を開かざるを得なくなり、は声を殺すことができなくなった。
「あ、も……何、して……や……」
四肢が震える。力が抜けたと見るや、趙雲の手はの腰から離れ、乳房を揉みしだきはじめた。
「や、あ、あぁ……」
ぴったりと押し付けられた腰で、熱を持った塊が存在を主張している。
よりにもよって、自分相手に欲情するのかとずれた恐怖感がを苛んだ。
「子龍、やめてよ、ねぇ」
自分の体が、徐々に趙雲の熱に反応していくのがわかる。手の平で転がされる乳房から、浸透するように心地よさが広がった。湯の心地よさとは違う、淫蕩な、麻薬的な心地よさだ。
頭の中に、勝手に様々な記憶が浮かび上がる。耐えられない現実からの逃避行動かもしれない。は声を閉ざして記憶の世界に集中した。
「」
趙雲の熱い吐息交じりの声が自分を呼んだだけで、あっという間に虚構の世界が壊れてしまう。逃げ場を失って、は再び恐怖に襲われた。
唇を割って趙雲の指が侵入し、舌を玩ぶ。
口の中が痺れたようになって、趙雲の指を妨げられない。漫画を描いていた時は、噛み千切るだの、受け入れて舐め上げるだのが当たり前のように思っていたが、実際に自分がやられてみると何も反応できなかった。ただ、趙雲の指が蠢くままに任せるしかない。吐き気がしたが、唸り声を上げても趙雲の指は止まってはくれなかった。
ようやく趙雲の指が口内から失せ、 小さくげっぷし、直後に激しく咽た。
「……、ぅあっ」
肛門に触れられて、の腰が引ける。引けた腰を引き戻し、今度は指が押し込まれる。
「いっ……痛い、痛いぃ!」
じたばたと暴れるが、指はおかまいなしに潜り込んでくる。
汚い、痛いと、脳内では繰り返し繰り返し叫んでいる。もう声も出ない。嫌悪感しかない。
細い、笛のような音が喉から漏れた。
「……キツイな」
趙雲は独り言のように呟くと、の肩を叩く。
「もう少し力を抜かないと、お前もきついだろう」
声は聞こえているのだが、反応することも、まして力を抜くことも出来ない。
体内に潜んでいるのは指一本の筈なのに、太い棒切れでも突っ込まれたような圧迫感がある。
指先で腸をぐり、と押されて、吐き気が込み上げる。
「痛ぁいっ!」
無理やり指が増やされて、肛門にぴりっとした痛みが走る。切れたのかもしれない。
情けなさから、涙がぼろぼろ零れる。
「痛い、痛いぃ…も、やめてよぉ…」
犯されるかもしれない、とは思ったが、まさか尻を犯されるとは思わなかった。
痛みで抵抗もできなくなって、ただ趙雲に許しを請う。
指の動きはゆっくりなのだが、には恐ろしいほどの苦痛を与えた。
「力を抜け、ほら」
耳を食まれ、舌で嬲られる。
空いた手で襞を探られ、撫で上げる指の感触が、自らが潤っていることをに知らしめた。
余計に体に力が入る気がしたのだが、の予想に反して趙雲の指は徐々に大きく動くようになっていた。
痛みを逃そうと大きく息を吐くと、差し込まれた指の隙間から汚物が漏れ出した。
「やだっ……」
途端に尻に力が入り、趙雲の指を締め上げる。
よりにもよって趙雲の前で、汚物を漏らしてしまうだなんて…!
を打ちのめした衝撃は絶望に近い。
ところが、趙雲の指は更に奥を、穿り返すかのように折れ曲がる。
「やだ、やだってば!」
泣き叫ぶを他所に、刺激された肛門は汚物を吐き出す。体の下に汚物で色付いた湯が流れていくのが見えて、はショックを受けて泣きじゃくった。
いつまでそうしていただろうか、不意に趙雲がシャワーを留め金から外し、の尻に向けて湯を注いだ。
冷えた肌に、熱い湯が痛いほどだったが、衝撃で気の抜けたは魂が抜けてしまったかのように呆けていた。
趙雲は、指についた汚れやの腿に滴る汚れを流しきってしまうと、シャワーをそのまま床に転がした。
上向きに落ちたシャワーが、の胸元や首筋に向けて湯を放つ。流れる湯が愛撫のように肌にまとわりついた。
趙雲の指が前後に突きこまれるが、薄く粘る透明な腸液が滴るだけだった。
充分解されたのを確認して、趙雲は指を抜いた。の背が僅かに反らされた。
待たされ、焦れきった高ぶりが、の肛門に押し当てられる。
ぐぐっと押し込むと、先端がずぶりとめり込んだ。
解されたとは言え、排泄の為の器官に受け入れるには大き過ぎる趙雲のものに、の骨盤がぎしぎしと嫌な音をたてた。
「い……た……」
痛みに、放心していたも意識を取り戻した。
「痛い……子龍……」
「もう少しだ」
ぐっと腰を押し進めると、ようやく亀頭が潜り込んだ。
支えていた部分が収まると、後はなし崩しにずるずると潜り込んでいく。
喉まで貫かれるような感覚に、は息苦しさを覚えて、溺れた魚のように口をぱくぱくと開閉させる。
趙雲が根元まで納めると、柔らかな尻が下腹に当たり、趙雲を煽った。
キツさ故にしばらく馴染ませようと思っていたのだが、余裕がなくなった。
「、動くぞ」
免罪を請うように密やかに囁きかける。が、からは何の応えもない。腹に押し込められた圧力に耐えるのが精一杯なのだ。
趙雲がの首筋に口付けると、身を乗り出しただけ圧力が増す。の喉が呻き声を上げた。
苦笑いして、趙雲は身を起こした。それもまた、にとっては苦痛でしかない。
の腰をしっかりと掴み、趙雲は軽く息を吐いた。
腰を引き、また押し込む。
少しずつ、腰を押し込む速度と振りを早く大きく変化させていく。
はぐったりと頭を下げ、組んだ腕の間に顔を伏せていた。時折呻きに似た声が漏れるが、他に反応はない。趙雲を包む腸壁だけが熱く強く蠢き、趙雲を高ぶらせる。
「んん……く……」
趙雲の額にも汗が浮く。
痛みを堪えているように僅かに顰められた眉の下で、長い睫に縁取られた瞼がほの赤く染まっていた。
噛み締めた唇から、堪えられずに漏れる声が艶めく。
「これは……、……私は……」
意味を成さない言葉の羅列が、趙雲の感じている興奮の丈を示していたが、の意識はすべて差し込まれた趙雲の昂ぶりに集中してしまい、その声を鼓膜に通していても、自身に届くことはなかった。
趙雲の昂ぶりが漏らす先走りの汁気が、の中を更に滑らかにして、趙雲は我を忘れて腰を打ちつけた。
呼気が荒くなり、額の汗が珠となって零れ落ちる。
頬に朱が差し、半開きの唇が赤く染まる。白い歯と朱の舌が卑猥なコントラストを見せた。
「……!」
抉るように突きこまれた昂ぶりが、の中で弾けた。
には、体の奥から、水を叩きつけるようなびしゃっという音がした気がした。
「あぁ、あああ……」
腸の中で跳ね回る昂ぶりが、の腹を擦り上げる。
の腿に、ねっとりとした粘液が幾筋も跡をひいて落ちていった。
趙雲は先に上がって、手早く服を着こんで戻ってきた。の顔を一度覗き込んだが、はその目に趙雲を映しても、何の反応も見せない。壊れた人形のようだった。
体を洗い流し、バスタオルで水気を拭き取る間も、はずっと無言だった。
無言のを、無言で抱き上げ、趙雲はを部屋まで運んだ。
抱き上げたの体は無抵抗で、ただだらりと垂れ下がった腕が、趙雲の足取りと共にゆらゆらと揺れた。
趙雲には服の着せ方が分からなかった為、は全裸にただバスタオルで覆っただけのままだった。
そのまま布団に寝かされ、上掛けを掛けられた。
濡れた髪が額に張り付いているのを、趙雲が指で払おうとすると、初めての顔に表情が浮かんだ。
嫌悪の表情だった。
「何か言いたいことがあるのか?」
軽口めいた趙雲の顔を、はじっと見上げた。
「死んじまえ」
ぽつり、と呟く。動かない目に、憎悪があった。
趙雲の手が軽く上がり、の頬を打った。
「そういうことを、言ってはいけない」
静かな声だ。胸に沁みるような、それでいて淡々とした声だ。
軽く弾かれただけの頬が、痛みで熱く焼け爛れるようだった。
は趙雲に背を向け、頭まで布団を被ってしまった。趙雲の顔も見たくない、声も、気配も何もかもが嫌だ。
趙雲はしばらく布団に篭ってしまったの背中を見つめていたが、灯りを消し、襖を閉じた。
布団を通して見えていた灯りが消え、暗闇がを包む。
隣の部屋からテレビの雑音が聞こえてきた。
一人になった、と実感した。
すぐそばに人がいても、一人だ、と思った。
涙がこみ上げた。
何の為の涙か、訳が分からなかった。