が起きて、まず耳にしたのは『やはり家族に関連する言葉だと思いますが』という関平の自信なさげな声だった。
 被さるように孫策が『珠というからには大事なもんに違いねぇけど』と言い、星彩が『そも磯野というのが人名かわからないのでは。地名かもしれません』と続け、趙雲が『一度茶でも淹れよう』と立ち上がった音がした。
 すぐ隣の室で寝ている者がいるにも関わらず、ずいぶん賑やかじゃのう、とは大あくびをした。
 気配に気付いたのか、星彩が顔を覗かせる。
「お目覚めでしたか」
 孫策がその後ろからひょっこりと顔を出す。
「あっ、、『三河屋』ってなんだよ! 『珠』も! 全然わかんねーぞ!」
 何の話なんだ。
 眠りに落ちる前の己の発言など、綺麗さっぱり忘れ去っているだった。

 五人で食事を取りながら、が磯野家について説明すると、趙雲は呆れ返り、孫策は盛大にむくれ、星彩と関平は感心して頷いた。
殿の村には、珍しい話や楽しい逸話がたくさんあるのですね……今度、弟達にも聞かせてやっていただけませんか」
 養子とは言え、関平と関家の人々は上手く馴染んでいるらしい。
 人見知りしがちな関平が、ようやくに馴染んできたこともあるのだろうが、家族思いの関平の言葉にも笑みを浮かべて快諾した。
「俺は出入りの商人かよ」
 まだ不貞腐れている孫策を、はけらけらと笑い飛ばす。
「蜀ベース……基盤だとさ、やっぱね」
「なら、お前は何になると」
「私? 私は……うーん、カツオかなぁ」
 趙雲の横槍に、は首を捻りつつ答えた。
「星彩殿がワカメ、関平殿がタラちゃん」
 聞かれてもいないのに、星彩と関平にも勝手に配役する。
「ワカメ……とは?」
 星彩が首を傾げ、が説明すると、星彩は頬をほんのりと染めた。
「妹、ですか。では、殿は私の姐々、と言うことですね」
 少し嬉しそうな顔をする星彩に対し、関平は意味を問いかけもせずに黙っている。『ちゃん』と付いていたので、何事か察したのだろう。顔は星彩と同じく朱を帯びていたが、こちらは嬉しそうというより少し不貞腐れている風だ。
 賑やかな食事が済み、食後にお茶をいただいた。馬家がもたせてくれた甘味がここでやっと振舞われたが、人数が多いせいか孫策が自棄食いしたせいか、あっという間になくなった。

 私も、との看病を申し出る星彩だったが、は笑ってやんわりと断りを入れた。
 孫策が泊まると喚いていたし、趙雲も付き添うと言ってくれた。
 目に入れても痛くないほど星彩を可愛がっている張飛が、もし孫策と星彩が一晩同じ屋根の下で夜を明かしたなどと聞いたらどうなるか知れない。元々、呉に対しては良い感情を持っていない風なので、いらぬ諍いは避けたかった。
 食事を美味しく食べられたというのもある。
 体が復調しているなら、後は寝ているだけで良かろうと思った。
「……そうですか」
 見るからに肩を落とす星彩に、は苦笑した。
「もう結構遅くなったから、気をつけて。おやすみなさい」
 一応安静にといわれている以上、玄関に出向くわけにも行かず、はここで星彩を見送ることにした。
 星彩は少し躊躇うようにを見詰め、何か言いかけたのだが、口を噤んでしまった。
「……何か?」
「いえ……いえ、いいのです。次の機会にします。おやすみなさい、殿」
 関平も拱手の礼を取り、去っていった。趙雲が門の閂を閉めについでに見送りに行く。家人は、既に帰っていた。
 居残った孫策は、を軽く抱き上げると牀に運ぶ。
「あ、ありがと」
 礼を述べるが、孫策は返事もしない。何か嫌な予感に駆られ、は孫策の顔を凝視した。孫策は、少し不貞腐れた顔をしていた。
 胸の内が読み取れず、は少し心配になった。
 牀の上に寝かされ、その上に孫策が覆い被さってくる。怪我した足は避けてくれていたが、あまり芳しくない状態だ。
「ちょっ……趙雲が、戻ってく……」
「何で、俺が出入り商人か猫なんだよ」
 まだ腹を立てていたらしい、意外にしつこくては呆れた。
「何ならいいって。ただの例え話じゃん」
「ただの例え話でも、俺ぁ嫌だ。お前、俺がお前のこと好きだってこと、忘れてんだろ」
 忘れてはいない。いないが、この何もない仲の良い友人のような関係が、ぬるま湯に浸っているような心地よさを感じさせるということは否定しようもない。
 孫策の唇がの唇を塞ぐ。
 抵抗しても、結局孫策の力の前には何の障害にもならない。
 それでも、両の手首を頭上で纏められ、片手で襟を剥かれると、ぎょっとして暴れ始めた。
「や、ちょっと伯符!」
「……馬超と約束してたっけか、……もういいな? 俺、けっこー我慢しただろ?」
 孫策の低い声が、の耳元に囁かれる。
 何のことかはわからないが、馬超の名を出されては更に落ち着かなくなった。
「駄目って、だって、趙雲が」
 孫策が体を起こした。
 ほっとしたの目に、白地に青の見慣れた模様が飛び込んでくる。
「……しっ……」
 一言発して固まってしまったを他所に、孫策は気軽に声を掛けた。
「ってなわけだ。悪ぃ、ちょっと外しててくんねーか」
「……御免被ります、私も今日まで馬超に譲ってきました故」
 孫策の顔はよく見えないが、趙雲の顔はよく見えた。と言っても、いつもの無表情に近い、何を考えているのかよくわからない顔だった。
 不意に趙雲が踵を返し、隣室に姿を消す。
 孫策は、何事もなかったかのようにの服を剥ぎ取った。
「ちょっ……や……」
 悲鳴を上げかけたの視界が、突然闇に落ちる。
 隣室の灯りが消され、唯一の灯りがなくなってしまったからだった。
 五感の一つを封じられたことで、残りの感覚が研ぎ澄まされてしまう。
 孫策の舌が、の先端に触れた。
「……っ……!」
 びく、と跳ね上がる皮膚に、この音が趙雲に聞こえていないといいのだが、と不安になる。
 趙雲は立ち去っただろうか。
 孫策に自分が抱かれることを、いったいどう思っているのだろうか。
 やはり、趙雲が何を考えているのかさっぱりわかれずにいる。
 反応が薄いととったのか、孫策の手がの胸を握り締め、ぐいぐいと揉み始めた。
「……伯符、痛い……」
 孫策は答えない。
 みしり、と床板が鳴るのが聞こえた。
 ぎく、として顔が強張る。暗闇に目を凝らすが、ほとんど闇一色で何も捉えることができなかった。
 床板の軋みは、徐々にに近付いて来る。
「だ……誰、子龍……?」
 声に脅えが見え隠れする。舌打ちしたいような気分だった。
 孫策は相変わらず手を休めず、の胸を甚振るように揉み続けていた。
 けれど、その孫策ですら声を発しないでいるので、は不安に蝕まれる。
 その近さからこれが孫策だということはわかる。だが、肝心の顔の表情はまったく読み取れない。笑っているのか怒っているのかすらわからない。口元すら見えないのだ。
「……ね、伯符……お願い、やめて、ね?」
 おどおどとしながら懇願するが、孫策(と思しき者)は口を聞こうともしない。
 しゃら、と布が擦れるような音がして、誰かが後ろに回りこんできたことがわかった。
 ざっと青ざめるが、相手は当たり前のようにに指を伸ばし、露になった胸をまさぐった。
「子龍……? 子龍、だよね? ね……何してんの……ちょっと……」
 しかし、返ってくる言葉は何もない。
 沈黙が肌をびりびりと震わせるようだ。二人分の指が肌を這う感触に、は鳥肌を立てる。
「ねぇ、ちょっと……ねぇってば……っ!」
 足の間にくすぐったい感触と、それを払拭するほどえげつない滑りを感じる。
 ぴちゃぴちゃと小さな音が立て続けに鳴り響き、は反射的に膝を締め上げた。相手の手が膝裏にかかり、ぐっと押し遣るとそれだけでの足は大きく開かされていた。
「や、ちょっと……やだってば!」
 舌で秘裂を舐められている。
 ただでさえ好まない形の愛撫への嫌悪に、異様な状態が拍車をかける。
「やだ、ねぇ嫌だってば!」
 暴れようと身を捩るが、膝を抱えられている上、背後から抱きすくめられて身動きがとれない。
 耳に熱い吐息を感じる。
「ひゃ」
 上がった声は高く鋭かった。
 ねっとりと這う舌の感触が、ずるりと耳の奥に忍び込んでくる。
 鼓膜に直接舌先がもたらすくちくちという小さな音が響き、を狂わせようと煽った。
 ぞっとする。
 どんなに嫌がっても、舌と指は蠢くのを止めようとはせず、の体は意思に反して熱く昂ぶっていく。
 股間から聞こえる水音が大きくなり、自身でますます潤っていくのを感じる。
「……何か、言って……お願いだから……」
 答えはない。
 何者に抱かれているかもわからなくなり、はかたかたと身を震わし始めた。
 恐かった。
「お願い、何か言って……恐いよ……お願い」
 涙が零れそうになる。
 絶対に趙雲と孫策だという確信がありながら、普段とあまりに違う為されように確信が揺らぐ。
 恐い、という言葉に嘘はなかった。心の底から得体の知れない恐怖に支配されかかった。

 耳元に囁く声は、趙雲のものだった。
「……馬っ鹿、何が恐いってんだよ」
 腹の方から孫策の声がする。
 ようやくほっとして、は強張った体から力を抜いた。
 そうなると、徐々に腹がたってくる。
「ば……馬鹿って何よぅ! つか、何してんのよあんた達はっ! ちょ、やだもう、離してってば!」
 じだたともがくが、大勢は一向に変わらない。の非力で、名のある武将二人を押し退けられるわけがない。
 急に元気になったに、趙雲も孫策もくつくつ笑い出す。
「いつものことだろう。分けてしていたのを、同時にするのだと思えばいい」
 何も変わらないと嘯く趙雲に、は金切り声を上げる。
「変わる! 変わるっての!」
「まぁ確かに、いつもより派手に濡れてる気はすんな」
 顔を上げた孫策が、今度は指を忍ばせて表面を撫で回す。
 滑らかな舌と打って変わってざらつくような力強い感触に、は引き付けたように体を震わせた。ずりおちる体を、趙雲が支える。
 趙雲の指はそのまますべって、の胸の先端を弄繰り回す。
 鼻の先から抜けるような声が漏れた。
 極度の緊張から解放され、歯止めが利かなくなったのかもしれないと趙雲は察した。
 歓待こそすれ腹立たしくなることでもないな、と微かに笑った。
 闇夜の中でも孫策には趙雲の顔が見えているのか、笑い返してくる気配があった。
「俺、先でもいいか?」
 問いかけはにではなく趙雲に向けてのものだった。
「……いや、同時に」
 趙雲の言葉に孫策は不思議そうに眉を顰めた。
 仰向けに横たわるように言われ、その通りにすると、昂ぶった肉棒の上にひちゃっと熱く濡れた感触が降ろされてきた。
「やだ、子龍!」
 が嫌がるが、趙雲ははまだ本気で嫌がっていないと見越し、背後から抱き締めて弱いところを丹念に刺激する。
 孫策の上に尻餅を着いた形で座り込むは、趙雲の愛撫に身悶えて体を揺らす。そのたびに、濡れた挿り口が孫策のものを擦り上げ、ぬるぬると心地よい感触を与え続けた。
「何が嫌なんだ、
 固くしこった先端を強く弾かれて、痛みに涙を散らせる。
 下にいる孫策が、熱を帯びた手を伸ばして腿や尻を撫で回すのが、の体をぞくぞくと煽り立てていた。
「だっ……て、こんな……三人、なんて……!」
「三人だと、何かまずいのか?」
 孫策まで舌戦に参加してくる。
 陥落寸前のは、潤んだ目で必死に孫策を睨めつけた。
「俺、前、お前達が犯ってるとこ、出くわしたことあるぜ」
 突然の告白に、が目を剥く。趙雲も、黙ってはいたが少し驚いているようだ。
「何てーかな、悔しいってのもあったけど、どっちかって言うと寂しいってかな。俺はだから、別に三人でもかまわねぇぜ」
 孫策が身を起こし、の乳房を吸い上げる。
 音がするほど強く吸われ、は目を顰めた。
「……っあ、でも、こんな……」
 まだ言い募ろうとするの膣に、趙雲が指を忍び込ませる。それだけで濡れた音を立て、思わず前にいた孫策にすがってしまうを、笑って見下ろす。
「熱くて、ねっとりしている。もう、我慢できなくなっているのだろう? すまなかったな、
 言うなりの腿の辺りを抱え上げ、上に持ち上げる。
 孫策の手が趙雲を手伝って、挿入を誘った。
「や、あぁっ!」
 潤い過ぎるほど潤っていた秘部に、ずぶずぶと音をたてて孫策の猛りが沈んでいく。
 中ほどまで挿入すると、孫策の手がの腰を掴み、力尽くで引き摺り下ろした。
「あぁっ!」
 びくびくと痙攣する膣が、孫策のものを煽る。
「……すげぇ、温けぇ……」
 孫策の感嘆めいた言葉に、は意味もなく首を振る。
 揺さぶられれば、艶付いた声を上げて孫策を喜ばせた。
「いやっ!」
 突然が叫び、中の孫策ごと身を強張らせる。
 孫策が色に浸り閉じていた目を開けると、の両手を片手で拘束し、腰の辺りに手をやっている趙雲の姿が目に入った。
「……何してんだ、お前」
「同時に、と言ったはずだが」
 いつの間にかタメ口になっている趙雲は、どうもの後孔に指を突きいれているらしい。
「……できんのか、んなとこで」
「できる。というか、したことがある」
「マジか」
 淡々と答える趙雲に、孫策は興味津々と言った態で趙雲の手元を覗き込んだ。
 は、体に突きこまれた他者の熱に翻弄され、膝を立てているのが精一杯だった。
「……すげぇ、指三本咥えこんでら……、痛くねぇか」
「……っか……」
 詰っているのかもしれないが、は身を震わせると目を閉じてしまった。その目元に鮮やかに朱が刷かれている。
「……動いてねぇのに、すげぇ締め付けてくる……おい子龍、早くしねーと俺がもたねぇぞ」
 どこか余裕のある顔で、孫策は趙雲に笑いかけた。
 よく言う。
 趙雲は苦笑し、の後孔が十分に緩んだのを確認しながら、昂ぶりを押し当てた。
「だ、め……むり……っ……!」
 上半身を孫策の胸にもたれさせ、尻を上げさせられたが悲鳴を上げる。
「同じ穴に突きこんでもいいのだぞ」
 趙雲は冷たく言い放ち、の後孔に押し入った。
「…………っっっっっ!!」
 声にならない悲鳴が漏れ、孫策の肩口にの爪が食い込む。
「……んぁっ……すげ……やべ……」
 の体をかき抱きながら、孫策は締め付けてくる膣の弾力と熱とに追い立てられる。
 抵抗の強い後孔を、趙雲は宥めるようにして静かに体を進ませる。やがて、根元近くまで納まると、すっと一つ息を吸い、おもむろに腰を突き動かした。
「や、だめぇぇぇっ!」
 孫策がを抱え込んでいる為、は趙雲の律動から逃れる術がない。押し込まれる二つの圧力に、体がパンクしてしまいそうな感覚に陥った。
 悲鳴とも嬌声ともつかぬ声をとめどなく上げるに、男二人は唇を歪めて笑う。
 愛おしいのに、よがり狂わせ傷つけたくなる。
 恐らく共有している感情に、救い難いものを感じつつも、二人は底まで悦を貪ろうと更に激しくを責めた。
「あ、や、もうお願い、お願いだから……!」
「「イけ、」」
 声がぴったりと重なる。
 長い尾を引いて、の絶頂の声が闇に溶けた。

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