孫策は夜着に着替えて酒を煽っていた。
 護衛兵が来客を告げに来たが、何処か微妙な顔つきをしている。
 何かあったのかと思ったが、来客が馬超とと聞き及び、何となく察した。
 入室させるように告げ、人払いを命じると、護衛兵は素直に従った。いつものことなのだ。
 入れ替わりに馬超とが入ってくると、二人とも顔を赤らめて肩で息をしている。まるで全力疾走でもしてきたかのようだ。
「一回済ませてきたのか?」
 とんでもない問い掛けにが悶絶する。
 馬超も言葉を失って孫策を睨めつけた。
「まぁ、いいや、一杯やってけよ」
 孫策が空いた杯を馬超に差し出すが、我に返ったがきゃんきゃんと騒ぎ出した。
「一杯やってけじゃぁないでしょうよ! 私に内緒で何勝手な約束してんの! 私、自分の室に帰る、降ろして!」
 獲れたての魚のようにびちびちと跳ねるものだから、さすがの馬超も危うくを取り落としかける。足の次は腰を痛めたいのかと吐き捨てたくなったが、秘密が胸に重く圧し掛かっていて、馬超の口を塞いでいた。
 孫策はゆっくり椅子から立ち上がると、手の平の柔らかい部分での額をぴしゃりと叩いた。
「ばーか、お前の為に呼んだんだし連れて来させたりしたんだろーが」
 痛みのせいもあるが、孫策の言葉にもぴたりと口を噤んだ。叩かれたおでこを押さえ、涙目で孫策を見上げる。
「お前、夜中うろうろ歩き回ってるだろ? お前の室のあのちっさい牀で、どうやって抑えればいいんだよ」
 一晩中上に乗っかっているか、突っ込んでいるしかねぇだろが等と下卑たことを言われ、は真っ赤になって抗議した。
 言われてみればその通りで抗議できた立場ではないのだが、やはり腹立たしさは消えない。
 だったら最初からそう言えばいい。思わせぶりに理由を言おうともしない馬超が悪いのだ。
 第一、孫策と馬超の『男同士の大事な話』とやらがそもそもの原因だ。目の前でお前には秘密、とやられていい気分でいられるわけがない。
「……あ、おっ前、それ聞いちまうのか?」
 孫策の顔がにやりと卑猥な笑みを浮かべる。
 嫌な予感に馬超に体を摺り寄せるが、それだけだ。抱きかかえられた状態では逃げようがない。
 馬超の腕の中で、は孫策に口付けられた。
 あまりのことに馬超も硬直する。孫策は、好き勝手にの口内を貪る。常ならば見えるはずのない朱の色が唇の間から見え、ようやく馬超の硬直が解けた。
「な……何をしている、貴様!」
「ん? 接吻」
 憤るまま孫策を詰るのだが、孫策は平気な顔をして返してくる。
 は濡れた唇をごしごしと拭うが、痺れたような悦楽は布に染み入った墨のように落ちてはくれなかった。
「お前だってしてんだろ?」
 あっけらかんとして問い掛ける孫策に、馬超は言葉もない。
 してはいる、それ以上のこともしている。孫策だけでなく、趙雲も同じようにしていることも知っている。
 けれど、目の前でされるのはまた別次元の話だと思う。
「お、お前は平気なのか!」
 独占欲があるのは当たり前、気持ちはわかると言っていた癖に、よくもこんなふざけた真似ができる。
 馬超は、怒りの感情の解を見つけて歯軋りした。
 しかし、孫策はやはり平気な顔をしている。
「……んー、平気じゃないっつーか……でもよ、結局そういうことだろ?」
 手出しするのも我慢できない、だから孫策の知る限りとは言え三人の男がを抱いている事実は変わらない。別々にしていようが同時にしていようが、結局は同じことではないかと思うのだ。
「「同じじゃないっ!」」
 綺麗にハモったと馬超を、孫策はますます不思議そうに見詰めた。
「……つったって、趙雲の時はしたじゃねぇか」
 な、と振られ、一瞬にしての顔が耳まで真っ赤に染まる。
 孫策の言葉との動揺に、すべて本当の話だと事実を突きつけられた馬超は、仰天して思考を止めた。
 趙雲の時は、ということは、つまり、が孫策と趙雲二人を同時に……ということになろう。
 は、固まってしまった馬超を後ろめたい気持ちでいっぱいになりながら見上げる。孫策には何ということを言うのだと涙目で睨め付け抗議するのだが、孫策には通用しない。
「俺は、が好きだ。お前にも抱かれてるの知ってるし、正直妬いてねぇわけじゃねぇぜ。でもよ、それがホントのことだっていうことには変わりねぇし、俺はそれごとが好きだし。だから、別に大したことじゃねぇよ」
 孫策の言葉は、真理を突いているようで実際はまったくズレまくっている。
 大したことのはずだ。倫理に照らせばすぐにおかしいとわかる話のはずだ。
 だが、何処から溢れてくるのか知らないが自信に満ち満ちた孫策の話を聞いていると、『ひょっとしたらそうかも』と思ってしまうのが危うい。
「うわぁん、孟起、違うからね、伯符の言ってることは間違いなんだからね!」
 三人しかいない。二対一になれば不利になるのは目に見えている。
 は、自分が頑固なのは自覚しているが、『正論』に弱いのもまた自覚していた。間違っていると思えば抗いもするが、間違っているのが己だと思えば一気にぐだぐだになる。
 要するに、流されやすいのだ。
 だからこそ、この場では馬超を味方に引き入れ己の正しさを証し立てる必要があった。
「……んっ……!」
 突然馬超に口付けられ、は馬超が敵に回ったことを悟った。
 馬超はすべてにおいて『正義の人』なわけではない。どちらかと言えば『信念の人』と言うべきで、熱く燃え立つ感情は直情的と表現できる。
 孫策の言うことが正しいと思ったのかどうかはともかく、二人でをどうこうすることに関して迷いがなくなったのは確かだろう。趙雲も、という言葉が効いたのかもしれない。
「……だ、駄目、駄目だって孟起! この後、仕事するんでしょ!」
 孫策がこっちだと案内するのに、馬超も黙って従う。の抵抗も気にも留めない。
 牀の上に置かれ、すぐに逃げ出そうとするのを入れ替わりに孫策に押さえつけられてしまった。
 縫い止めるように押さえつけられた手は、力強いとは思えない。にも関わらず、抜け出せなかった。
 口を塞がれ、舌を嬲られ吸い上げられる。呼吸が乱れ、視界が涙で潤んで霞む。
 おもむろに孫策が身を乗り出し、の耳に舌を這わせ始めた。
「! 駄目っ!」
 異様なまでに鋭い悦に体が跳ね上がる。孫策の体をも瞬間浮かせたが、孫策は上手くバランスを取って投げ出されるような無様は見せなかった。
 音を立てて嬲られ、体が無駄に強張る。発作のように捻り引き攣れる肢体は、孫策の敏感な雄をも刺激して止まなかった。
 耳朶を舐め、吸い上げると小さく音がする。
 の体がびくびくと跳ね、急にくたっと弛緩した。
 孫策が退いても、身動ぎもしない。わずかに立てた膝が裾を割り、細かに震える体は鮮やかな朱に染まっていた。
「……耳だけでイッちまうもんなぁ」
 独り言のように呟く孫策の背後で、鎧を取り去った馬超が困惑してを見下ろしている。
「……二人相手で、できるものなのか」
 やはり独り言のように呟く馬超に、孫策は苦笑を漏らした。
「できないワケじゃねーぜ、実際したワケだし。趙雲はの尻に挿れてたな」
「し」
 馬超は言葉を失い、愕然として孫策を見詰める。
 驚いてばっかだな、お前、と揶揄され、馬超は腹をたてたようにそっぽを向いた。
「戦場じゃまぁ、男相手にする時もあんだろ。だからまぁ、できないワケじゃねぇんだろうけどなぁ」
 孫策は再びの上に圧し掛かると、膝を大きく割っての秘部に指を這わせた。
 短い嬌声が上がり、の顔が何かを堪えるように顰められる。
 背徳的で淫靡な表情に孫策の指が奏でる水音が重なり、馬超の喉がごくりと鳴った。
「挿れるとこがあんのに、わざわざ尻に挿れんのもな……気持ちイイとしても、なぁ」
 の目が薄く開き、恨みがましく馬超を見上げる。
 ぱっと逸らしてしまうのは、馬超にも後ろめたい気持ちがあるからかもしれない。どう理屈付けても、男二人で女一人を組み敷くのは蹂躙以外の何物でもない。
「馬超」
 孫策に呼ばれ、振り返った馬超が固まる。
 背中からを支え、その膝を馬超に向けて大きく開いている。秘められた肉が露になって、馬超を誘うように蠕動した。
 はじたばたともがいているが、力が入らないらしく崩れ落ちそうになるのを孫策が引っ張り起こしていた。
「別に、馬超に見せたことないワケじゃねぇだろ?」
 不思議そうな孫策に、は半泣きで睨めつけている。
「恥ずかしいのか?」
 うー、と唸り声を上げ、唇を尖らせている。
 恥ずかしくないわけがない、と馬超は思う。隠された部分を灯りの下に晒され、あまつさえ見せびらかされているのだ。例え相手が自分だろうが趙雲であろうが、恥ずかしさに変わりはないだろう。
 趙雲ならどうするだろう、とふと考えた。
 あの男なら、薄く笑っての羞恥心を更に昂ぶらせるかもしれない。
 そうした方がいっそにとっては楽だろうか。馬鹿野郎と相手を罵るだけで済むのだから。
 趙雲のすげない態度には、への慈しみが篭められている。がどう捉えているかは判然としないが、馬超にはそう見えていた。
 馬超には決してできない、趙雲だけの愛し方だろう。
「おい、馬超?」
 重ねて呼ばれ、我に返る。
 馬超は寝台から離れて燭台に向かうと、煌々ときらめく灯りを吹き消した。
 転瞬、辺りは暗闇に落ちる。
 の元に戻った馬超は、手探りでの頬に指を伸ばした。
「……暗ければ、少しはマシだろう……?」
 声が震えて落ち着かないのを、舌打ちしたい衝動に駆られる。
 安心させたい、怯えを取り除きたいと願うのに、こんな動揺した声ではとただ焦る。
 だが、指先に触れたがこくりと頷くのを感じ取り、馬超の口元に微笑が浮かぶ。
 趙雲には趙雲なりの遣り方があろう。
 しかし、馬超にも馬超なりの遣り方があって、それをも受け入れてくれているに違いないのだ。でなければ、がこんな風におとなしく抱かれてくれるはずがない。
 確信まではしかねた。けれど、疑ってかかればを傷つけるだけだと何度も経験した。
 根拠のない自信を無理に捏造してでも大仰に構えていた方が、結局を楽にする。
「抱く」
 短い宣言はの心の準備を促す為だ。
 馬超の言葉に緊張して引き締まる体を、孫策が優しく撫で擦った。
……な。絶対ぇ手荒には、しねぇから……な……?」
 返事はない。
 孫策はの気を解すように、首筋や耳朶に何度も口付けを落とす。
「あ、やっ……」
 馬超の舌がの秘部に触れ、ゆっくりとなぞっていく。
「や、それ、や……孟起!」
 の震える手が馬超の頬骨の辺りを押さえつけた。馬超は動きを止められ、に引き寄せられるままに顔を上げる。
「…………絶対、酷くしない?」
 の声に、馬超は黙ったまま頷く。の背後に控えた孫策も、しねぇ、と付け足した。
「……絶対?」
 しつこく繰り返すに、馬超は触れるだけの口付けを返すことで是とした。譲歩を切り出してきたと言うことは、陥落したのだろう。確認をとるのは、単なる虚栄を守る為の手段に過ぎない。
 納得はしていない、どうしてもと言うから、ということにしておきたいのだろうと察しが付いた。
 目が慣れてきて、何となく視界が戻ってきた。孫策と目が合い、にっかりと笑みを返され孫策も視界を取り戻したことを知る。
 を見遣るが、こちらはまだ闇に目が慣れないらしく焦点があっていない。その顔が怯えて幼くなっているのが、何故か無性に愛しく感じられた。

 呼びかけると、の目がきょろ、と動く。
「酷くはしない、だが……きつくしてしまうかもしれん」
 馬超の言葉がきっかけになったかのように、孫策はの腰を高く掲げて足を大きく開かせ、馬超はそれに併せての中に己のものを突きこむ。
 きつさ故に一気には挿れられないが、馬超のものは確実にの中をえぐっていった。
 息を飲み、荒い息を吐くの耳朶を孫策は優しく嬲る。
「あっ、あっ……ん……、や……っ……!」
 声が漏れ出し、の四肢が揺らぐ。孫策がの乳房に指を這わせると、先端の突起は既に固くしこっていた。
「気持ちイイか、?」
 ひそ、と囁く声がの鼓膜を震わせる。
 嬌声を漏らすが、孫策には答えようとしないに、孫策は強く乳房を握りこんだ。
「いっ……!」
 孫策はの耳朶を嬲る。馬超は根元まで埋め込み終わり、軽く息を吐いた。
「……気持ちイイ? 首振るだけでいいから、な、?」
 の腰が揺らめいて馬超を煽る。が、馬超はが答えるのを待つかのように動かない。
「なぁ、
 眉根を寄せ、口をへの字に曲げたは、観念したかのように『馬鹿』と吐き捨てた。
「……酷くしないって、言ったくせに……!」
「苛めたくなんだよ」
 の半泣きの声に、孫策はさらりと答えた。
 馬超は、動かずとも責めてくるの中に耐えながら、内心よくもぬけぬけと言えたものだと呆れつつも感心していた。
 三者三様にの愛し方が違う。
 改めて実感した。
 馬超は複雑な思いに駆られ、その思いを振り払うように腰を打ち据え始めた。
 突然動き出した馬超に、は堪えられずに声を上げる。煽るように孫策が舌と指の愛撫を始め、の体を更に熱く蕩けさせる。
「駄目、駄目……だ……め……っ……」
 何が駄目なのかも定かではないが、はそう言って首を振り続ける。水音は甲高くなる一方で、肌に鳥肌すら立っていた。
 快楽を逃そうとするのか、孫策の肩や腕にしがみついて体を浮かそうとするを、孫策は平然と引き摺り下ろす。
 そのたびに声が上がり、の尻にこすり付けられた孫策の肉がひくりと跳ねた。
、気持ちいいか?」
 指先で胸乳の尖端を捏ね、舌先で耳の奥を突いていた孫策は、思い出したように同じ問いを尋ねた。
 がくがくと揺らされ、翻弄されていたの顎が、わずかに動きを変えたように見えた。
「気持ちいいのか?」
 重ねて問い掛けると、今度ははっきりと頷いた。目の際から溢れた涙が、頬を一筋伝う。孫策は舌を伸ばし、塩辛い水滴を舐め取った。
「いいぜ、もっと気持ちよくしてやるからな」
 途端、の中が強く引き締まり、馬超は崩れ落ちかけた。何とか持ち直したものの、限界は近い。
「孫策」
 馬超はただ名を呼んだだけだったが、察したのか孫策は頷き、の秘部に指を伸ばす。陰核を探り当て、指で押し潰すように刺激すると、は呆気なく果て、中に在る馬超もまた促されるように果てた。
 荒い息を吐くの中から馬超のものが抜け落ちると、白く濁ったぬめりがどろりと零れ落ちた。それを留めるかのように孫策のものが宛がわれ、の中に侵入してくる。
 間髪入れない責めに、の体は悦び震えた。
「……おかしく、なる……!」
 達したばかりの馬超が、息を弾ませつつの唇を犯す。舌を絡ませる深い口付けに、は馬超に取りすがり、腰を浮かせる。
「……なればいい」
 馬超が艶やかに笑い、未だ濡れたままの肉にを導いた。
 請われるまま口に含み、愛撫するは既に快楽にのめり込んでいるように見えた。
 酷くしてしまいたいという誘惑に駆られた馬超と、孫策の視線が絡む。互いに苦笑いをしていた。
 正気に返ったが、派手に機嫌を損ねるのはわかっている。けれど、止められそうにない。
 共同責任だと目と目で合図し、同時にへの責めを激しくした。
 の嬌声は艶を増し、煽られた二人は我を忘れてますます激しくを責めるのだった。

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