しばらくを抱き締めていた趙雲は、何の気なしにを抱え上げ何処かに向かって歩き始めた。
 あまりに自然な動作で、は暴れることも忘れてただ間近い趙雲の顔を繁々と見詰めた。
 斜め下から見上げる趙雲の顎の線はしなやかで、行軍の最中のような凛々しさを感じた。目は真っ直ぐ前を見ていて、を見遣りもしない。時折瞬きするのが、これが現実だとに伝えていた。
 足を怪我しているわけでもない。いわゆるお姫様抱っこで運ばれるのがむず痒くて仕方なかった。
 だが、趙雲がこちらを見ないでは話しかけるきっかけが見出せなかった。こちらを向きさえすれば、夜明けが近いから人が起き出してくるとか何とか、説得できると思うのだが。
 あるいはそれを見越して見ようとしないのかもしれない。孫策と遣り合っていた時の粗暴な雰囲気は掻き消え、いつもの逆らい辛い趙雲に戻っていた。がどうすればどうなるか、一から十まで悟りきっている趙雲だ。あながち妄想とも言い切れなかった。
 しばらく趙雲と共に廊下を行く。見慣れた廊下は、の室に向かうものだった。
 送ってくれるつもりだったのか。
 訳もなく不安に苛まれた自分が恥ずかしくなった。少しがっかりもしている。
 な、な、なんでがっかりか!
 頬を赤らめて叱咤する。期待していたものが何なのか、自分のことだけに隠しようもなく、は泥沼気分に陥った。
 趙雲は、やはりを振り返ろうとはしない。
 扉を肩で軽く押し開け、やはり肩で閉じると器用にかんぬきをかけた。豪竜胆を肘に掛けてのことだから、かなり器用だ。
 大切な武器のはずだ。何の考えもなく取り落としたとは思えないが、それだけ取り乱していたとも取れる。
 が赴いた時には、争うような物音が真っ先に聞こえ、それを頼りに闇の中を進んだら孫策を組み敷いていた趙雲を発見した。最初に見えたのは地面に転がった豪竜胆の赤い房で、それが真っ暗な中に浮き上がっていてを不安に駆り立てたものだ。
 を呉に置いていく時にはあれだけさばさばとしていた趙雲が、置いていかれることにはこれだけ怯え戸惑う。
 理屈に合わないような気もしたが、とて趙雲が理想の主を見出し仕官を願い出たにも拘らず断られた件は知っている。それも、他の主に仕えているのに鞍替えするような真似は道理が合わないと、そんな理由だった気がした。
 趙雲は傷ついただろう。流浪して主を転々と変えたのにはそれだけの信念があったからに他ならない。やっと出会えたと喜ぶのも束の間、いつかという当て所もない言葉を頼りにまた彷徨わねばならなかったのだから。
 案外それこそが趙雲の歪さの原因なのかもしれない。清廉でありながら激情を秘めた将は、主と巡り会いながらも再び旅路につかねばならなかった。辛かったろうし、哀しかったろう。
 趙雲がを牀に下ろそうとした時、だからは趙雲にしがみ付いてしまったのかもしれない。目を閉じ、口付けを強請ると柔らかな感触が落ちた。幾度も幾度も、重ねるだけのものからやがて貪るものに転じ、の体ごと趙雲は牀に横たわった。
 女の円い体を確かめるように指が行き来するのを、はただ見ていた。胸の歪な円錐を手の平が包み、更に歪に歪めていく。服の上から尖端に吸い付き舌を這わせる趙雲に、下腹の奥がきゅっと引き締まるのを感じた。
 緊張が解けると何かが液状に溶け出していく錯覚に囚われる。股間に濡れた感触があり、は趙雲を欲しいと願った。
「子龍」
 呼びかけに応えて趙雲は顔を上げた。が、首を緩やかに左右に振り、の望みを退ける。再び胸元に顔を埋め、指と舌がの服の上を這いずり回る。
 ざりざりという音は恐らくの服を舐め上げる舌が醸しているのだろう。何とも言えない欲を肌で感じ、はいつも以上に自分が昂ぶるのを感じていた。しっかと牀の表面に立てられていた爪が離れ、趙雲の頭をかき抱く。胸乳の狭間に押し込められた形になり、趙雲はを見上げた。
 細かに震える体が、趙雲にしがみ付いている。赤面しているのは羞恥もあろうがむしろ興奮からだろう。
 欲しがっている。
 その事実が趙雲を駆り立てる。抑えきれずに込み上げる感情が、の襟に指を導いた。
 こつ、と小さな音が趙雲の耳を打った。
 突然動きを止めた趙雲に、は悦で霞んだ目を向ける。には聞こえなかったらしい。
 趙雲が扉の方に目を向けると、再びこつ、と小さな音が聞こえてきた。
 身軽く牀から降り、扉に向かう趙雲に、も緩慢な仕草で起き上がり目で追う。悦は引き返せないところまで膨れ上がっており、早く早くとを責め立てる。足が細かに震えていて、立つことは叶わなかった。
 かんぬきが開けられる音がして、驚きと諍うような声が聞こえた。
 え、と思う間もなくよろめき現れたのは、馬超だった。
 我に返ると目が合い、うろたえる。慌てて引き返そうとした馬超を、その背後から現れた趙雲が突き飛ばした。
「ちょ……ちょっと、子龍」
 怪我人相手に、幾らなんでも酷くはないかとが止めに入ろうとする。
 趙雲はの言葉が聞こえていないのか、馬超の肩を抱きの元へと連れて行こうとする。
「待て、趙雲、幾ら俺とて」
 気を遣っているのか何とかして逃れ室を辞そうとする馬超に、趙雲はむしろ軽蔑の目を向けた。
「この女は、今日、発つぞ」
 馬超が動きを止めた。
「孫策殿が今日、呉に向けて発つ。も一緒だ。後数刻かそこらで、この女は我らの手元から離れていくぞ」
 馬超の目が見開かれ、に向けられる。
 本当か、と問い掛けているようだった。
 は思い悩みつつも、小さく頷いた。小さくも力強い頷きに、馬超は唇を噛み締めた。
 馬超の内にも嵐が沸き起こっている。
 それと察した趙雲は、その耳にひそと囁きかけた。
「刻んでいけ」
 馬超の色の薄い眼が、きっと趙雲を睨めつけた。趙雲は動じもせず、細心の注意を払って毒を注ぎ込むように静かに囁き続ける。
「悔しかろう? けれど、留め立てできぬのもわかっているのだろう。ならば、刻んでいけ。あの体に、お前を刻んでいけ」
 私も、そうしよう。
 静かに結ばれた言葉に、馬超は足を進めた。
 に向かって歩いてくる馬超は、その傍らで歩みを止め仁王立ちしてを見下ろした。
「……傷が」
 傷、と言われての目は馬超の首から下げられた白布に留まる。見るからに痛々しいそれに、眉が顰められた。
「傷が、疼いて、痛んで、眠れなくて……ただお前の顔が見たかった。それだけ、だったんだが……」
 馬超の目が険しく歪む。
「行くのか」
 責めるような目に、だが今度はすぐに頷いた。今日発つとは限らないが、孫策が発つ以上も追うようにして呉に向かうつもりでいる。行くことに、馬超達から離れることに変わりはない。
「勝ったのは、俺だぞ」
 を得たのは馬超と趙雲だ。の行く末は優勝者に託すと劉備が取り決めた。だから、本当なら馬超と趙雲のみがの道を定められる。自身の望みは、この際論外のはずだった。
「いらないって言ったくせに」
 だが、馬超も趙雲も優勝賞品を辞退した。結果、諸葛亮が得たいと申し出てそれで納まってしまったのだから、の道は諸葛亮が定めるのだ。
 諸葛亮の望みは、蜀と呉の安定した同盟。を派遣し、同盟の礎とすることだ。
「あれは」
「何よ」
 馬超は口を閉ざした。よもやこんなことになるとは思ってもみなかったのだろう。
「帰ってくるよ」
 は言い聞かせるように宣言した。
「ちゃんと蜀に、孟起と子龍のとこに帰ってくるよ。呉には、仕事で行くんだもん。だから」
 だから、と伸ばされた指先に、馬超は手を伸ばす。
 情動に駆られるまま口の中に含み吸い上げると、の口から色好い声が漏れた。
 いつの間にかの背後に趙雲が回りこみ、その襟元を大きく寛げた。柔らかな胸乳が揺れ、固くしこった朱が馬超の前に曝け出された。
 飛びつくように吸われ、片側は指で揉みしだかれる。寒さから鳥肌だった皮膚に、二人の男の指と舌が這う。
 の服が剥がされ、全裸になると、二人の指と舌は全身を隈なく這いずり回った。膝立ちになったのくるぶしまで舐め上げる所作に、の腿には透明な雫が滴り落ち始めた。
 固く勃ち上がったものを引きずり出すと、馬超は仰向きに寝そべる。がその上に跨り、腰を降ろそうとして戸惑いを見せた。
「……孟起、腕……」
 折れた腕に、律動の衝撃は辛いのではないかとは心配していた。
 馬超は微かに笑い、の腰を引き降ろす。先端が触れ、ぐじゅ、と濡れた音を立てた。ずきん、と痛みに似た衝動がを貫く。体が熱くなって、涙が浮いた。
「では、締め上げてくれ」
 羞恥もない露な言葉に、は今更ながらに恥じらい身を固くした。
 背後の趙雲が、項から尻の方まで一気に舌を滑らせる。濡れた感触に、高らかに声が上がった。
「もう夜が明けかけている、人に聞かれるぞ」
 煽るような言葉に、は身を震わせた。
「……挿れて」
 慣れているはずの行為だが、これだけはどうしても上手くできない。時間がないので、恥ずかしくとも頼むしかなかった。
 の言葉に、馬超も趙雲も頷く。時間がないのは二人も同じだった。
 趙雲がの足を抱え、馬超は己のものを支えての中に埋め込んでいく。大きな質量の侵食に艶やかな声が上がり、根元まで埋め込むと馬超は溜息を漏らした。
 趙雲が目で大丈夫なのかと伺ってくる。
 腕のこともあろうが、律動もせずに達することができるのかと問いかけているようでもあった。
 馬超は眉を顰めた。
 いらぬ世話だと詰ったのではない。の中が本当にきつく馬超のものを締め上げ始めたのだ。
 小さな艶声は狂暴に追い詰められ達する時のそれとは雲泥の差だ。しかし、余裕を残して艶めく笑みは、馬超に新たな悦をもたらした。
 蠕動するように、また波が打ち寄せるように間隔を空けて締め上げられる。思わず声を上げると、の目が切なげに馬超を見詰めた。
「……んっ……孟起、気持ち、いい……?」
 何とも言いようがない。責められるような感覚に頬を染め、眉間に皺寄せてを見上げる。
「……良く、ない……?」
 強く締められ、温い悦がどっと流れ込む感触に責め苛まれる。気持ちはいいが、情けなくもあった。時間もない。いつまでも浸っていたくなる爛れた快楽に、馬超は趙雲に助けを求めるように視線を向けた。
 の体が浮き、馬超の猛りが引き抜かれた。まるで嫌がるような強い抵抗があり、引き抜かれた昂ぶりは不満げに大きく震えた。
「口でしてやれ」
 趙雲の言葉に、は素直に従う。目の前の昂ぶりは己の愛液で濡れていたが、気にもせず躊躇いなく口に含んだ。
 膣内の締め付けも凄かったが、的確に弱いところを舌で責めてくる手管もまた凄かった。口淫の腕(というのもおかしな話だが)は格段に上がったようだ。
 武術の才はまったくと言っていいほどなかったくせに、と意識を逸らせるが、悦の強烈さにすぐさま引き戻される。
 馬超が挿れていたところに今度は趙雲の昂ぶりが押し込まれていくのを見遣る。白い尻が震え、赤黒いものが飲み込まれていく様は凄惨なまでに淫猥だった。
「んっ」
 放たれたものに驚いたように声が上がったが、すぐさま舌が絡みつき啜り上げていく。喉が動いて何かを嚥下していくのを、馬超は面映い思いで見詰めた。
 顔を上げたも、頬を赤らめている。
 が、すぐさま眉を顰めて崩れ落ちていった。趙雲が律動を始めたのだ。
「あ、ん、んんっ、んっ……」
 噛み締めた唇から声が漏れてくる。
 馬超は手を伸ばしての顎を掴むと、半ば無理矢理口付けた。唇から声帯の震えが直に伝わって、逸物に鈍い衝動を覚えた。
 折り曲げた膝からふくらはぎの辺りに、の胸乳が擦りつけられる。揺さぶられて微かに痛みを覚えたが、今は眼前のの表情を追うのに夢中だった。
 達して上げられる声をも吸い取るように、強く唇を重ねる。くったりと馬超の膝にもたれかかるを、馬超は食い入るように見詰めた。
 趙雲は己のものを抜き取ると、の体を支えて大きく足を開かせた。
 色付いた秘裂から白い液が滴り落ちる。荒く息を吐く虚ろな表情と相まって、馬超の昂ぶりを煽った。
「やはり刻まねば、気が済まぬだろう」
 薄く微笑む趙雲の声に反感を覚えるが、否定できるほどの傲慢さは持ち合わせていなかった。
 馬超は身を乗り出し、己を刻むべくに覆い被さった。

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